第36話 ヒーラーのワケ

 それからメルが話してくれたのは、かなりキツい話だった。


 自分がパーティのヒーラーとして仲間が少しでも傷つく度に回復をするタイプだったこと、そして、仲間も自分が回復をしてくれることを信じて戦ってくれていたこと……


「……問題は、それがどこかで油断につながってしまっていたことよ」


 メルはそう言って二杯目のワインをグラスに注いでいた。


「今の私からすれば、そこは低レベル……モンスターのレベルも平均30レベルくらいのダンジョンよ。ただ、前から噂があったの、そのダンジョンに入ると、二度と戻ることができなくなる、って」


「戻ることが……できなくなる?」


「えぇ……でも、今考えると、あの戻れなくなるって意味、私が考えていた意味と違ったの……あのダンジョンでは人間に戻ることができなくなるって意味だったの」


「つまり……ゾンビになってしまう、と」


 メルは俺がそ言うと少し黙っていたが、小さく頷いた。


「そのダンジョンのボスは『ネクロマンサー』……今はどうなっているのか知らないけれど、当時のレベルは40くらいだった。当時の私達にとっても倒せない相手じゃなかったわ」


「じゃあ……どうして……」


 俺の言葉にメルは露骨に怒りを顕にする。


「……アイツは人型のモンスターよ。私達と変わらない容姿だし、喋ることもできる、そして、同じように……いいえ、それ以上に残酷で、イカれていたわ」


 イカれていた、でつい先日俺が同行した仲間もイカれていたわけだが……それは言わないでおくことにした。


「最初、アイツは負傷した冒険者のフリをしてた……それを見て、ルイス……私のパーティの勇者役が、最初にアイツに話しかけた……完全に油断していたわ。ルイスはあっと言う間にアイツに不意打ちで絶命したわ。私は即座に彼を復活させようとしたけど……アイツの方が早かった……」


「つまり……先に『リヴァイヴ』を使われてしまったと……」


 メルは思い出すのも嫌だというくらいに顔をしかめたままでゆっくりと頷いた。


「……ルイスはゾンビになって……アイツの操り人形になった。それからはもうあっという間だった……魔法使いも戦士も、ルイスに殺され、アイツに『リヴァイヴ』をかけられて、それで――」


 と、メルの両目から涙が流れている。俺は思わずメルの肩を叩く。


「メルさん、それ以上はもう――」


「……私の仲間をみんなゾンビにした後、何もできずに放心していた私に、アイツは言ったわ……『アナタの仲間、いただいていくわね』……って……」


 メルは涙を拭ってから、落ち着かせようと大きく息を吐く。


「……私はアイツに見逃された。アイツは私が苦しむのを楽しむために私を生かしたの……」

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