第34話 不可能なこと

「アンタ、ワイン飲める?」


「あ……一応、飲めますけど」


 メルの家に流れで来てしまったけれど……よく考えたら不味かった気がする。


 知り合ってあまり時間も経っていないパーティの仲間の家……しかも女性である。よくよく考えなくても不味い。


「はい。どうぞ」


 メルはこのグラスに赤いワインを継いで差し出してくれた。俺は受け取ったが……すぐには飲む気にはなれなかった。


「……何? 毒なんて入ってないわよ?」


「え? いや、そんなつもりじゃないですよ。あはは……」


 そう言われて俺は慌てて赤いワインを一気に飲み干す。苦い味が口の中に広がった。


「アンタ、前のパーティではどうだったの?」


 ワインを飲みながら、メルは俺にそう聞く。いきなり予想外のことを聞かれてしまったので、俺も驚いてしまった。


「え……どうというか……簡単に言うと、弱すぎて追い出されちゃった感じですね、あはは……」


「へぇ……弱い、ねぇ……」


 なぜか疑いの目を向けてくるメル。この人も俺の強さに関して疑いを持っているのだろうか……


「メルさんはどうなんですか? というか、その感じだとメルさんも……」


「そうよ。前のパーティはクビになったの」


 ……この時点で、俺の所属するパーティは、それぞれ違う「ワケ」があるものの、全員追放者……追放パーティだということがわかった。


「それは……どうして?」


「ヒーラーなのに回復魔術を使わないから……それだけ」


「え……回復魔術を使わない、って……」


 俺がそう言うと、メルはまた目つきを鋭くして俺を睨む。


「使えないんじゃないわよ。使わないの」


「あ、あぁ……それはまた、どうして?」


 俺が訊ねると、メルは少し黙ってしまった。そして、グラスに残ったワインを少しずつ口の中に含んでいく。


「……アンタ、この世界に存在するありとあらゆる魔法では、死者を蘇生させられないってわかっているわよね?」


 メルの言葉に俺は頷く。この世界では一度戦闘などで死ねばそれまでだ。


 復活の魔術である「リヴァイヴ」は死者を蘇生する魔法ではない。


 あくまで死者の肉体を戦闘のためだけに動かす……簡単にいえば、ゾンビのような状態にする魔法だ。だからこそ、ヒーラーもあまり使いたがらないのだが。


「えぇ……それと何の関係が?」


「もし……死者を完璧な状態で蘇らせることができるとしたら?」


 メルはそう言って真剣な目で俺を見る。俺もその問いが何を意味しているのか、いまいち理解できなかった。


「……あ、あはは……そうですね。できたらいいですけど……そんなことができる冒険者はいないんじゃないですかね?」


「いるのよ。ここに」


 そう言ってメルは自分を指差す。俺はその言葉を聞いて、それまでほろ酔いが一気に覚めるのであった。

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