第28話 決闘

 メルは回復役にしておくにはもったいないくらいに鋭い瞳で俺とリアの顔を見てくる。


「……そっちのアンタ……アスト、だったわよね?」


 そう言って、メルは俺のことを指差す。


「え、えぇ……俺がアストですけど」


「アンタに話があるの。ちょっと付き合って」


「おい、ちょっと待ってくれ!」


 リアがそう言ってメルに呼びかける。


「今から私とアストはモンスター狩りに行こうとしていたんだ。それより大事な用事なのか?」


 しかし、リアがそう言ってもメルは返事もしない。少しリアはムッとしたようだった。


「おい! 聞いているのか?」


「……うるさいなぁ、雑魚のくせに」


 そう言ってメルはリアのことを睨む。いきなり理不尽な罵倒を受けたリアは驚いているようだった。


「ざ……雑魚とはなんだ! わ、私は勇者だぞ! しかも、お前の所属するパーティの勇者だ!」


「だから? アンタに用事はないし、雑魚と話す時間なんてもったいないでしょ?」


 そう言って、リアを見て思いっきりあざ笑うメル。


「あ……あの……メルさん、さすがに言いすぎじゃ……」


 俺がなんとか仲裁を図ろうとした……その時だった。


「決闘だ!」


 と、いきなり、大声でリアが叫んだかと思うと、そのまま腰元の剣を抜き、リアはメルに向かって剣を構える。


「私の事を侮辱することは、アーカルド家を侮辱するのと同じことだ! 私を侮辱したことを後悔させてやる!」


 リアは……完全にブチ切れてしまっているようだった。というか……どうしてこう一難去ってまた一難なんだろうか……


「マジで言っているわけ? アンタ、レベルいくつだったっけ?」


 あくまで馬鹿にするのをやめないようで、メルは意地悪くリアにそう訊ねる。リアは歯ぎしりをしながらメルのことを睨んでいる。


「ば、馬鹿にするな! 私は勇者だぞ! お前のようなヒーラーに負けるわけ無いだろう!」


 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことである。俺もなんとかこの無益な争いを収めたいのだが……まるで収束方法がわからない。


「……頭来た。そうまで言うならやってやろうじゃない」


 メルはそう言うと威圧するようにこちらにやってきてリアを睨む。


「な、なんだ……今ここでやる気なのか?」


「違うわよ。アンタをコテンパンにするために装備変えてくるから。明日、この時間にいつもアンタ達が行く狩場で待ってなさい」


 そう言ってメルは去っていってしまった。


 なんというか……大変なことになってしまったようだ。

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