第9話 宣言

  「頭!どうするんですか?」


 仲間に向かって近づいていると、そのように仲間のうちの一人が言った。まぁ、どうするかはこれから説明するんだがな。


 十分に声が響き渡る近さまで歩いていく。


 大きく息を吸う。


 「ここの奴らと協力をして、ヒッタイトを潰すことになった」


 なるべく、全員に聞こえるように大きな声で言う。腹に力を入れて。肺から酸素をひねり出しながら叫ぶのだ。


 「俺の言葉を覚えているか!同郷の者よ」


 ここにくるまでに多数の民族を飲み込んできた。


 「俺たちの土地は海を越えて来た奴らによって踏み荒らされた!奴らは全て敵だ!俺たちの人生を全て使って奴らに復讐をしよう、そう言ったな」


 沈黙がその場に流れる。空気が重い。太陽がどんどんと下に落ちて行く。


 「今回、ここの連中と協力することとなった」


 不審な空気が流れる。砂浜の砂がサンダルの隙間から足に入って来て絡みつく。黒い波が海を覆う。


 「詳しい事はこの後に言おう、ただ一つ、俺は決してここの連中を含めた海の向こうの奴らの足元に跪く気はない」


 やはり沈黙が場を支配する。それぞれがこのことについて考えているのだろう。予想もしていなかったことでまだ思考が仕切れていないのだろう。しかし、文句の一つも出ないのは申し訳なく思う。


 後ろの方を振り返る。


 「終わったぞ!」


 馬上の上等な兵士に向かって叫ぶ。よくもそんな足の置き場のない物に長時間乗って操作できるものだ。


 馬上の兵士が馬を駆って近づいてくる。


 「終わりましたか…それでは、私について来てくださいな」


 動揺を隠しきれない仲間を率いて再び町に入っていった。宿所としてあてがわれたのは郊外に位置する古いが大きい宮殿の様な建築物だった。2階建のようで上階の中央は吹き抜けになっておりそこから外の日が入り昼間は非常に明るくなっているのだろう。


 「お仲間さんは全員ついて来ましたかね、では私はこれで」


 上等な兵士は去っていった。


 非常に立派な施設であるが、夜であるために詳しくは見えない。


 「…ふぅ、誰か火を起こしてくれ、1階の広間で全部説明する」


 ここに来る時に気付いたが、恐らくこの町はそこまで主要な都市ではないな。あの王との会議で入った宮殿も恐らく離宮だろう。あれほどの宮殿を作る技術が確立されていれば町を防御する壁があるはずだ。しかし、この町にはそれがない。更には要塞も見当たらなかった。要するにここの奴らの兵力は未だに未知数だ。


 波のような形の門から宮殿の中の広場に入る。星空が唯一の明かりだった広場に松明が1本持ち込まれ深い影がいくつも映し出された。床には石灰が塗られているのか、それは火を受けオレンジ色に輝いている。自分を前にして仲間たちが周りに集まる。広場から今にも溢れ出しそうな程であるように思われるほどの人数は安心感を与えてくれる。


 「ここが、今日から暫くの間俺たちの宿というわけだな」


 しみじみと今思ったことを口に出す。


 「ここまで、よくついて来てくれたな、俺たちの目的は…海の外の奴らに対する復讐だ、特にヒッタイトへのな?そうだろ」


 一番前にいた若者に問う。パフォスで破城槌を持って来させた若者だ。こいつは、そうか、確か同じ町にいたやつだったか…同郷…。


 「はい、もちろんです」


 副将を探す。ちょうど自分の右側に立っていた。アガメムノン。昔話の王の名前を冠した男。子孫だと言って少しも譲らないが…まぁ恐らくは違うだろうな。


 「だが、しかし俺はここの奴らと密約を結びヒッタイトを潰すことにした、それは互いに利益があると判断したからだ」


 副将に話すように言う。実際は全員に話してはいるが…。特に近い者にはよく説明しておきたい。


 「こんな一瞬でも目的と矛盾するような行動をとってすまない、しかし心配する必要は無い、すべて事は上手く運んでいる、決して奴らの足元に跪く訳では無い、むしろ利用してやるのだ」


 その場の空気が少し軽くなる。重かった空気が。


 「確実なる安心のために人質をこしらえて貰っている、まだ到着していないようだが何かあったら、そいつらの全ての穴を使い潰し、足りなくなったら剣で新しい穴を開けながら使おう!そして、それを送りつけようじゃ無いか!」


 おおっ!とその場が沸き立つ。海の男達は直ぐに熱しやすい。もちろん自分もそこに含められるのだが。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る