第6話 上陸ヒッタイト?②

 砂浜を歩き、両手を大きく広げながら多数の兵士たちが待ち構えているほうへ進んでいく。両手は空にして害意はないように見せなければ一瞬で殺されそうだ。額に汗が流れる。


 眼前に立っている無数の弓兵もその後ろに立つ歩兵達もこちらをじっと睨んでおり、言葉通り歓迎されるムードでは決してない。歩兵の後ろのほうから馬の蹄の音が聞こえてくる。


 上から此方に向かい呼びかけていた、身なりの良い兵士が馬に乗って崖上から降りてきたようだ。


 そのまま、前方に歩き続ける。


 兵士の間から茶色の馬とその上の兵士が見えた。


 「君よ、そこで止まり給え」


 その男にそう言われて、素直に止まる。後ろを振り返ってみると、浜には既に多くの船が乗り上げており、その船員全てが盾を斜め上に向け警戒していた。その横からこちらを不安そうな顔がちらちらと覗く。


 身なりの良い兵士はそのまま俺の前まで来ると上から下まで、馬上から舐めまわすようにじっくりと見つめてきた。灰色がかった長髪と褐色の肌には不釣りあいな純白の髭。金色に輝く鎧は肩から腰まで完璧に守っているようだ。恐らくこれに兜を合わせ足に何かを巻けば完全武装なのだろう。


 「ふん、よし、ではついてきたまえ」


 馬上の男はそう言って、振り返り手を大きく振った。すると後ろに控えていた歩兵達がこちらに走って向かってきた。


 !?一瞬の動揺の後に、ほっとする。歩兵達はこちらを囲みはしたものの拘束してくる様子はない。どうやら護衛しているようだ。この動揺は船員たちも同様であったらしく一瞬ガタリという音がしたが直ぐに止んだ。


 馬を翻し元きた道へとゆっくりと歩みを進めていく、上等な兵士の馬の後ろを囲まれながら付いていく。周りを見ながらゆっくりとした歩みを進めていく。


 こいつどこかで見たことがあるな。上等な兵士の背中を見ながら思う。この鎧の特徴的な、2匹の獅子が顔を合わせた模様。


 …

 思い出そうとしたが不可能だったため、諦めて周りをちらちらと見る。こちらを囲む兵士は胴のみが鎧によって守られており手には太く背丈ほどありそうな青銅の刃をした槍を肩にあてがい歩いている。人数は4人。気が変わって殺す気で来られたら死んでしまうだろう。その兵士たちの間からは、岩を切り出し積んだであろう、灰色がかった家からこちらを恐れの表情で見つめる子供や男達がしきりに目に入る。


 恐れられるのはそうだろう。彼らにとって害しかないのだ。


 暫く、歩いていると道がどんどんと広くなっているのを感じた。そして、左右に見える建物の大きさも大きくなり、人通りも明らかに増していた。


 「お!ここが王宮か?」


 右にとても大きい円形の建築物が見えたので思い切って前を行く兵に声をかける。とてつも無い大きさだ。生まれてからこれ程の大きさの建物は殆ど見たことがない。等間隔で明り取りようであろう出窓が幾つも並び、絢爛さを後押ししている。


 「ん?ははは…、まぁ分からんか」


 馬上の兵はそれ以上こちらに答えをよこそうとはしなかった。すこし、むっとする。明らかに馬鹿にされたのだ。しかし、今、自分の命はこいつらに握られている。ここは耐えるしかない…。馬上の兵と少し顔が似ている分余計に腹が立ち抑えるのが大変だ…


 そのまままっすぐと歩いていくと人が優に10人ぶんほどはあるであろう高さの壁がどこまでも続く通りにでた。一体これはなんだ…。まっすぐ進んでいくとその壁は途中で切れ、半円型の大きな入り口にたどり着いた。


 入り口の前には体格も身なりも良い若々しい兵士が立ち警備をしている。そしてその奥には兵士の出入りが確認される横に長い兵舎が確認できた。


 入り口の前まで来ると、馬上の男は警備の男が手綱を取り、馬から降り、任せた。そしてこちらを振り返る。


 「ここが王宮である」

 

 どうやらあの凄まじく長い壁も全て王宮であったようだ。石を積み上げたものを上から塗り固められ作られたであろう王宮は縦の大きさこそ先程の建物に及ばないが広さは相当のものであるようだ。


 そのまま、上等な兵の後ろについて王宮の中に入っていく。左右には相変わらず槍を持った兵士がくっついてくる。


 そうして暫く、左右の部屋に入ることも無くただうす灰色の廊下を進んでいくと、広い中庭に出た。そこには一人の背の高い男と5人の兵士が立っていた。男はひざの上まで続く一般的な黄色の服の上に、地面すれすれまで伸びている透ける程薄い青い上衣を羽織っていた。顔には大小合わせて複数のしわがより、今までの数々の苦難を予想させる顔立ちをしていた。

 

 しかし、その表情は極めて柔らかいものである。作ったように。


 「ようこそ…我が国家ウガリッドへ…、歓迎しよう」


 その口ぶりと話すしぐさからは、求心力と指導力、そして底知れない野心があふれ出ている。


 そうか、ここはヒッタイトではなかったのか。では、一体この大都市は何だと言うのか、そしてなぜここまで連れてこさせたのか。

 

 恐らく、それはこちらにとって嬉しい話ではないだろう。果たして生きてヒッタイトに行くことは出来るのだろうか。

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