同じニオイに誘われて(7)
シアンさんが手を前に構えると、その周りにくるくると回転する複数の闇の刃が現れ、振りかぶり、投げつけるようにその闇の刃を放ちました。
しかし、紅呂羽さんは慌てもせず自分の前に漆黒の壁を作り出し、刃を弾いていきます。そして、その合間を縫って黒い円錐状のものを複数発生させ、それをシアンさんに放って反撃をしました。
今度は先程のように弾が分裂する事はなく、速い速度でシアンさんに襲いかかってきましたが、持ち前の素早さでシアンさんは全てをかわしていきました。
そして私達はセカイさんの作った結界の中で二人の流れ弾や怪物達の襲撃から身を守っています。
「迷惑だわ……」
ひたすら嫌そうにセカイさんが呟きました。気持ちはわかります。ここで立って私達は一体何を見させられているんだろう、とか考えてしまいます。
そんな不毛な時を感じている私達の前では、こちらの事などお構いなしに二人の戦いが続いています。
最初にシアンさんの真下で衝撃を起こして以来、怪物達はシアンさんを中心に集まって来ているみたいです。
「なかなか、お強いですわね。あなたが魔族じゃなければ『DA TENSHI』にスカウトしているところですわ」
「だ、誰がそんなダッサイ奴らの仲間に……」
笑顔で余裕の表情の紅呂羽さんに対してシアンさんは段々と息があがってきました。体力的に辛そうです。
「それもこれで終わりにしましょう」
紅呂羽さんが高く振り上げた手を中心に黒い光の粒が集まり、人の形となっていったそれは、徐々に大きくなるにつれ翼が生え、天使の形をした巨大な黒い影となりました。
「この『DIE TENSHI』の攻撃、あなたに防げますか?」
…………何でしょう。このデスボイスが聞こえてきそうなネーミングは。せっかくの迫力が台無しです。一体何を目指しているのでしょうか?
「そう言えば、トワも名前で雷にこだわっていた時があったわね」
思い出したようにセカイさんがポツリと呟きます。
アレはこんなに酷くはないはずです。…………はずです。
「さあ、『DIE TENSHI』この魔族のお相手をして差し上げなさい」
紅呂羽さんの号令と共に巨大な影、『DIE TENSHI』がシアンさんに襲いかかります。
しかし、その間に巨大なトカゲの怪物が割って入り、『DIE TENSHI』に飛びかかりました。
どうやらシアンさんのコピー人形は殆どが食べ尽くされ、見た目が大きな『DIE TENSHI』が怪物達の次の獲物と認識されたみたいです。
その結果『DIE TENSHI』は、次々と襲い来る怪物達を処理するのに手一杯で、シアンさんを攻撃するには至りません。
「この世界は勝負には向きませんね」
「そうね……」
勝負をしている当人達とは対照的に冷めた目で見ている私とセカイさん。状況はどんどん
勝負をつけるために出したのであろう『DIE TENSHI』ですが、怪物達のせいもあって紅呂羽さんは、その大きな黒い影の制御で余裕が無さそうに見えます。
それに気付いたシアンさんが素早く紅呂羽さんの背後に回り込みました。
「ハーッハッハッハ! もらったーー!!」
高笑いと共に紅呂羽さんに向けて闇の刃を放とうとするシアンさん。しかし、またしてもそこに巨大な蛇の怪物が大きな口を開けて邪魔をしてきます。
「チッ、この……」
シアンさんは舌打ちをして素早く上空へと逃げますが、蛇の怪物はそのまま、その延長上にいた紅呂羽さんに狙いを変え、襲いかかっていきました。
「ちょうどコレが役に立ちそうですわね」
他の怪物達を相手にしている『DIE TENSHI』を蛇の怪物に回す余裕の無い紅呂羽さんは、私が先程渡したペンダントを手に取りました。そして、ペンダントに魔力を込め発動させました。
ペンダントはまばゆい光を放つと、瞬時に淡く光る球体が現れ、紅呂羽さんを包み込みました。
蛇の怪物はそのまま紅呂羽さんを飲み込もうとしますが、球体に弾かれるとバランスを崩し、背中から地上に落ちていきました。
「これは、なかなか使えます……ウッ?」
球体の結界の中で紅呂羽さんが苦しみ始めます。
「ううっ……何ですの? これは……」
球体の中では紅呂羽さんを中心に放電のような状況が起こってます。
そうです。以前、シアンさんにこのペンダントをあげた時の失敗を教訓に、知らぬ振りをして、一応同郷のよしみてあるシアンさんにさりげなく協力したのでした。聖なる加護は堕天使である紅呂羽さんにも効果があると思って。
以前シアンさんとの事を大雑把に説明しておいて良かったです。
「あ……あああああっ…………」
球体の中の放電ぽい状況は更に激しくなり、力を失った『DIE TENSHI』も姿を消してしまいました。そして……。
「きゃあああああああああ!!」
結界の中の聖なる力に耐えきれなくなった紅呂羽さんが気絶すると、周りを包んでいた球体も消え、木の葉のようにゆっくりと地上へと落ちて行きました。
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