同じニオイに誘われて(6)

 全員で店を出て、勝負を行う場所へと向かいます。もちろん、こちらの世界でするわけにもいかないので、私達の住んでいた世界の方で行います。


 さて、私達の自宅の奥の門を抜け、本来の居場所である、この荒れ果てた世界へとやって来ました。文明が存在した欠片が僅かに残されてはいるものの、改めて見ると見事に滅んでしまっている事を痛感します。

「ここなら勝負しても誰にも迷惑がかからないので思う存分どうぞ。私とセカイさんは自宅に戻ってますので決着がついたら教えて下さい」

「ちょっと待ちなさいよ。あんたら!」

 お二人の勝負の邪魔にならないよう一声かけて帰ろうとした私達にシアンさんが呼び止めます。

「いくら何でも無関心すぎるでしょ?」

「いえ……どちらが勝っても私には余り関係ないですし……」

「せめて同郷の者を応援しようって気は無いわけ?」

 私が答えに困っているとセカイさんが側に寄って来て、呆れたように私に耳打ちをしました。

「要するに心細いのよ。トワ」

 それを聞いていた紅呂羽さんがクスクスと笑い、シアンさんを見ました。

「あなたのテリトリーで勝負が出来るのに、そんなに怖いんですの?」

 シアンさんの顔がみるみるうちに赤く、羞恥に染まっていきます。

「バ……バカ言ってんじゃないわよ。ただこの勝負を見届ける人間が必要だって思っただけよ!」

 その慌てっぷりで、目一杯の強がりだとバレてしまいます、シアンさん。

「はあ……わかりました。私達はここで見てますから……」

 結局巻き込まれる形で私達も観戦する事になってしまいました。

「大丈夫よトワ。隙を見て、抜け出せば」

「ダメって言ってるでしょう!」


 そんなゴタゴタがありながらも、ようやく勝負が始まりました。一応、魔族と『DA TENSHI』のプライドをかけた戦いです。

「さあ、どこからでもかかって来なさい!」

「それでは、遠慮なく……」

 シアンさんのいつものハッタリに動じる事も無く紅呂羽さんは攻撃体制に入りました。黒い翼が現れると宙に舞い、手に黒い光とも影ともとれる球状ものが出現しました。

 紅呂羽さんはそれをシアンさんに向かって放ちますが、防御の体勢をとっているシアンさんに当たる前に散弾銃の弾のように弾けると、その周囲に散らばるように着弾しました。シアンさんの周りでは小さな衝撃と共に砂煙が舞います。

「なに? 随分と下手くそな攻撃ね。かなり拍子抜けしたわ」

 そんなシアンさんの皮肉にも紅呂羽さんは笑顔を崩さず全くの余裕の態度を見せています。すると、シアンさんの周りの地面が盛り上がり、至る所から巨大な爬虫類系の化物が現れました。

「うえぇっ!?」

 シアンさんは慌ててコウモリのような翼を出して飛び上がりますが二十メートル級の複数の怪物が次々と襲いかかります。

「こ、このっ。何て姑息な真似をっ!」

 突然の事態に対処出来ず、シアンさんは逃げ回ります。どうやら頭の良さは紅呂羽さんの方が上回っているみたいです。

 …………このままでは、流石にまずいですかね。

「シアンさん。私のあげたアイテムを使って下さい!」

「わ、わかったっ……」

 私の声に気付いたシアンさんが先日あげたUSBメモリーに魔力を込めます。今回のアイテムは他人が使う物なので、簡易的に魔力を込める事で発動するように出来ています。そして、USBメモリーが光るとその中から三十体のシアンさんのコピー人形が出現しました。

 それを見た紅呂羽さんも張り付いていたような笑顔を崩し、少し驚いた表情をしています。

 ……が、それ以上に驚いている人がいました。

 パクッ、パクッ、パクッ……。

「ぎゃああっ! ワタシが食べられてる!?」

 正確にはコピー人形が怪物達に食べられているわけですが……。

「さあ、今のうちに勝負を続けて下さい」

「本当、あんたのアイテムを使うとろくな事にならないわねっ!」

 ────失礼です。ちゃんと役に立っているじゃないですか。

「こちらの魔族はお笑いも得意なんですのね?」

 私達のやり取りを見て紅呂羽さんがクスクスと笑っています。私としては真面目だった分、逆に恥ずかしいです。

「そうね、あんたを倒して堕ち(オチ)もつけてやるわよ!」

 シアンさんにしては少し上手い事を言いました。格好をつけて恥ずかしいのを誤魔化しているようにも見えますが。

「次はワタシの番よ!」

 そう言ってシアンさんは魔法を使う体勢に入りました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る