同じニオイに誘われて(5)
そして、その日がやって来ました。
万が一の事も考えて今日は店をお休みにしています。私とセカイさんとシアンさんの三人は、通常の開店時間から店内で本日唯一のお客さんを待っています。
流石に、ここで暴れ出すような目立つ事はしないでしょうけど油断はしないに越したことはありません。店内に緊張感が走ります。
────カラーン。店のドアが開きました。
「こんにちは~~」
「いらっしゃいませ……あ……」
余りにも普通すぎる紅呂羽さんの登場に私も思わずいつもの対応をしてしまいました。だいたい服装からしてこの前と同じ白いワンピースを着ています。これから何かの勝負をするというよりも、ただのお客さんにしか見えません。
「今日は何をお探しでしょうか?」
「そうですね~、それじゃそこの魔族さんを頂けますか?」
このまま誤魔化せば大人しく帰ってもらえるかと思ったのですが、そう簡単には行きませんてした。
「でしたら、サービスで差し上げますので持って帰って頂けます?」
セカイさんが作り笑顔で対応しますが目は笑っていません。こちらも私とは違った意味で隙あらばと伺えます。
「あんたら人で遊ぶのやめてくれる?」
苦虫を噛み潰したよう表情で私達を見るシアンさん。
「いえ、そんなつもりでは……ところで紅呂羽さん。お一人なんですか?」
シアンさんの御機嫌が斜めになる前に私は強引に話を変えました。でも、そんな私の言葉に紅呂羽さんは首を傾げます。
「そうですよ。他に誰か連れてくる必要は無いと思いますが……」
そうですね。ないですよね。私はそれだけでも非常に助かります。お店の心配が減りますから。でも、シアンさんの方はその言葉に即座に反応しました。
「それは何かしら? ワタシの相手はあんた一人で十分って事? ワタシも舐められたものね……」
低い声で相手を威嚇するように言うシアンさん。でも、目だけは安心したのが滲み出てます。バレますよ。
「あの……今更なんですけど、そこまで勝負する必要があるんですか?」
そもそもシアンさんはこっちの世界をどうこうするつもりはないわけですし。
「そうですね、しいて言うならばプライドですわね」
手を頬にあてセリフに合わないおっとりとした仕草で紅呂羽さんは言いました。
「プライド……てすか?」
「墜ちたとはいえわたくしも一応は元天使。魔族の、しかも別の世界の、となると放っておけないのです」
いまいち理解出来ず私が首を傾げていると、セカイさんが私の側に寄って来て言いました。
「在来種と外来種みたいなものよ。トワ」
「あんたらも外来種よねえ!?」
すかさずツッコミを入れてくるシアンさん。確かにその通りですが私達はこの世界の人達と共存してます。そもそも知られていないてすが。
「まあ、いいわ。ワタシもこっちの世界に手を出す気は無いけど、堕天使に舐められるわけにはいかないからね」
「堕天使じゃありませんわ。『DA TENSHI』ですわ」
不敵な笑みを浮かべ睨み合うシアンさんと紅呂羽さん。常人である私とセカイさんには理解出来ないプライドがあるようです。
それでも紅呂羽さんが他の堕天使の仲間を連れて来なかったのは幸いでした。大勢で乗り込まれてきたら流石に困りましたし。
…………でも、それならば。
「紅呂羽さん。勝負の前に私から一つアイテムを差し上げます」
「ちょっとあんた。裏切る気?」
シアンさんが私の言葉に慌て始めます。
「だって昨日アイテムをあげたのは、シアンさんが不利な状況になるのを想定しての事じゃないですか」
それは昨日の夕食後、自宅のリビングで対策を練っていた時の事です。
「シアンさん。これを持って行って下さい」
私はUSBメモリーをシアンさんに渡しました。
「……何なのコレ?」
私の以前の失敗もあってシアンさんは少し警戒しています。
「もしも相手が大人数で攻めて来た場合のためにシアンさんのコピー人形を大量に作ってこの中に入れておきました。ただ個々にまともな戦闘能力は無いので、相手を惑わすぐらいしか出来ないかもしれませんが……」
シアンさんと同等の能力を持つコピー人形を作るのは流石に無理があります。
「時間稼ぎにも使えそうだし無いよりましね。単純にハッタリにも使えそうだし」
有り難く貰っておくわ。とシアンさんはメモリーをポケットにしまいました。
「今回は容量が大きかったためディスクじゃなくてUSBメモリーになりました」
「本当にトワって現代っ子よね……」
セカイさんが、もう慣れましたという顔で私を見ています。とても使いやすいと私は思うんですがね……」
という事で、このままでは紅呂羽さんの方が数的には不利になってしまいます。全面的にシアンさんの味方をした事で、後々私達まで敵視されても困ってしまいますので。
「勝負ば公平にいきましょう。シアンさん」
そう言って私はアイテムを出し紅呂羽さんに説明をします。そのやり取りをシアンさんは不満そうに睨んでいます。
私はそれにわざと気がつかない振りをして、紅呂羽さんにそのペンダントを渡しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます