同じニオイに誘われて(4)
結局、何とかあの場を収め、乱闘騒ぎにはなりませんでしたが、シアンさんと紅呂羽さんがそのまま不敵な笑みを浮かべ睨み合い、事態は面倒くさいものになりました。
「二度とあのような事を言えないように、死なない程度に教育してあげますわね」
「あんたこそ、このワタシにそんな口を聞けないよう、消えない程度に、その身体に教えてあげるわ」
というわけで、一週間後に二人は勝負する事になってしまいました。
そして太陽も沈み、すっかり夜のとばりが下りた
「シアンさん。眠いのでしたら部屋のベッドで寝た方がいいですよ」
「違うわよ! ていうか、あんたわかっていて言ってるわよねえ?」
勢いよく起き上がったシアンさんが私を睨んでいます。
私はその様子を見て溜め息をつきました。
「そうですね。変な見栄を張って後に引けなくなって、無謀な約束をしてましたね」
私がそう言うと、シアンさんは引きつった顔でこちらを見ました。
「そんなに怖いのでしたら、謝っちゃったらどうです?」
「べ……別に、あいつが怖いわけじゃないわよっ。もし仲間を大量に連れてきたらどうしよう……って思っただけよっ!」
「大丈夫じゃないですか? 紅呂羽さん、シアンさんをそこまで大物として見てないと思いますよ」
「そっか。それなら安心……って、失礼な奴ね!」
でも確かに紅呂羽さんが他に仲間を連れてこないという保証はありませんね。堕天使達が自分達と同じニオイを持つ
「どちらにしろ、私達は傍観していればいいんじゃないかしら。無理に首を突っ込む必要も無いんだし」
台所仕事を終えたセカイさんが私のすぐ横に来て言いました。
「でも、複数の堕天使が店に押し入って来て一悶着でもあったら……」
「……そうね、それじゃ店に魔族は出禁という事で」
「あんたら魔王かっ!」
ついに私達、シアンさんより上の存在になってしまいましたね。
「冗談は抜きにしても、変な意地を張ってないで、暫くの間向こうの世界へ帰って、こちらに通じる門から遠く離れた場所に逃げた方がいいんじゃないかしら?」
セカイさんが一番妥当な意見を言いました。大人しく向こうに帰ったとなれば、無駄な争いをする必要も無いですし。
「それに、堕天使だけじゃなくて、こっちの魔族にも見つかってる可能性もありますしね。身の安全の保証は出来ませんし」
しかし、それを聞いたシアンさんは真面目な表情をして頭を横に振りました。
「この世界が
私達が危害を加えられる事は無いだろうとわかっているはずなのに、なんでこの魔族はこんなところだけ真面目なのでしょう?
「その心は?」
「あんな怪物だらけの世界で長い間遠く離れて過ごすなんて寂しいじゃ……」
セカイさんのフリに思わず本音を喋ってしまったシアンさんが慌てて自分の口を両手で塞ぎました。そのまま顔を赤くして私達を睨んでいます。
「はあ……わかりました。私も何か対策を考えましょう」
「ほ、本当? 流石あんたは話がわかるわね」
さっきとは打って変わって笑顔で身を乗り出すシアンさん。しかし、すぐ横から全く対照的な冷たく低い声が響きました。
「ちょっと待って。トワを戦いに巻き込む気? だとしたら、無理にでもあなたにはここから出て行ってもらう事になるけど……」
セカイさんの鋭い視線がシアンさん突き刺さります。まさに、触れたら切れそうなくらいな威圧感があります。少なくとも冗談が通じる状況ではなさそうです。
これで怯むかと思われたシアンさんでしたが、意外にも動揺もせず、セカイさんに負けない迫力で睨み返しました。
「何を言ってるのよ。一緒に戦わせるわけないじゃない。あんた達はワタシが保護した大事な生き残りなのよ」
シアンさんは真剣でした。目に一点の曇りも感じられません。
「それにあの堕天使、無関心を装っていても、あんた達を傷つけないとは限らないじゃない。守るのよ。ワタシのいた、あの世界を……」
────そうでした。シアンさんも本気なんです。私達のいた世界を何とか再生したいという想いは誰よりも強く持っています。セカイさんの本気の警告でも動じないぐらいに。
てっきり勢いだけかと思っていましたが。魔族なのに何て純粋な……。
「そこまで言うのなら私も出来る限りの事はしますよ」
「トワ!?」
セカイさんが困惑の表情を見せます。
「大丈夫ですよ。間接的に協力するだけですから。それに私も生存者の捜索を頼んでありますしね」
「どうだ」と言わんばかりの目でセカイさんを見るシアンさん。一方のセカイさんは悔しそうな顔をしています。
「それに私達の事を『大事』と言ってくれましたしね」
それを聞いたシアンさんの顔が沸騰したかのように一気に真っ赤になりました。
「あ、あれは、向こうの世界のために大事って事で、別にあんた達のために……あーっ、もうそんなのどうでもいいから、黙って大魔族であるこのワタシに協力すればいいのよ!」
照れ隠しにやたらとまくし立てるシアンさん。ちょっと可愛いです。思わずにやけてしまいます。
「わかりました、わかりました。それじゃ、こんな物はどうでしょう?」
からかった事がバレる前に、私は適当に近くにあったアイテムを手に取ってシアンさんに見せました。
「…………いらないわ」
それは、聖なる加護に守られた、あのペンダントでした。
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