同じニオイに誘われて(2)

「い、いらっしゃいませ」

「このお店は変わった物がたくさん置いてありますのね~」

 見た目にピッタリなおっとりとした口調。しかし何故でしょう。この女性からは言い知れぬ不気味さを感じます。表情から考えを読み取れません。

「あの、お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ハイ、なんでしょうか……」

 おっとりお姉さんから感じる得体の知れない空気で私の不安は更に増していきます。それに気づいたのか、セカイさんが前に出て私の代わりに女性への接客をしてくれました。

「何かお探しでしたら私がうけたまわりますが? お客様」

 見事なまでの営業スマイルを見せるセカイさんに、その女性もおっとりとした笑顔のまま視線をそちらに移します。

「そうですわね~。確かに探し物ではありますが……」

 女性の煮え切らない態度に首を傾げるセカイさん。言いにくい物なのでしょうか。

 すると、女性は自分のバックを開け、中から一冊の本を取り出しました。

 ────そ、その本は。

「実はわたくし、この本に載っているこのフライングヒューマノイドを探しているのですが、ご存じありませんでしょうか?」

 女性は例の写真が載っているページを私達に見せて、その穏やかな口調のまま尋ねてきました。

 なるほど。この人もこちらのお客さんでしたか。そういえば以前店に来たサングラスの方も独特な空気をまとっていましたね。

「その事でしたら私達にはわかりません。そもそも殆ど店の中にこもりっきりなので外も余り見ませんし……」

 自分が返した答えに自己嫌悪を覚えます。ただ不健康な事実を露呈してしまっただけみたいで……。セカイさんにも「たまには外に出なきゃダメよ」とよく注意されますし。

「そうですか。それではそちらの方はこれをご存じありませんか?」

 そう言うと女性はシアンさんに視線を向け、雑誌の写真を見せました。

 ────何故改めてシアンさんに聞くのでしょう。この人、もしかして……。

「ん? 何よそれ。知らないわよ」

 以前、半ば強制的にセカイさんに口を塞がれたシアンさんは同じ目に合いたくないのか、今度は自分から正体をバラしてしまいそうな失態はしませんでした。

 でも、チラチラと雑誌を見たり、気になっているのが丸わかりです。シアンさん嘘がヘタすぎです。

「あらあら……」

 女性が楽しそうな笑顔を見せています。更にシアンさんに近づいていきました。

「もしかして何かご存じなんですか?」

 笑顔のまま問い詰めるように女性は語りかけますが、シアンさんはわざとらしく口笛を吹き、露骨に目線を逸らして誤魔化そうとしています。ある意味とても正直な反応で逆に困ってしまいます。

 しかしそれも、次の女性の一言で終わってしまいました。

「これ、あなたですわよね?」

「……!」

 穏やかな口調の中にも、その女性の言葉には緊張感がありました。店内に戦慄が走ります。

「フ……フフフ…………」

 シアンさんが不敵な笑みを浮かべます。そして、その女性の方へ振り向くと、いつもの中二病全開で答えました。

「そう、その写真に写っているのはこのワタシ。シアン様よ! 恐れ入った?」

 仕方ないよね? バレちゃったんだから文句ないよね? という視線を私とセカイさんに送ってくるシアンさん。

「そういう事じゃないわよ」とセカイさんは頭を抱えています。

「すみません、この娘ちょっと頭が弱くって……」

「誰が頭弱いのよっ!!」

 セカイさんは女性の前に出て誤魔化そうとしますが、女性は意に介さず確信を突いてきました。

「そうなんですか? 異世界の魔族の方はおバカさんですのね」

 ────!!!

「だから、誰がおバカさんなのよ……ムガッ……」

 文句を言うシアンさんの口を塞ぎ、セカイさんは女性を睨み付けます。

 ────まさか、この人初めから全部気付いていて?

「あなた……何者なの?」

 セカイさんは女性から目線を離さず、相手の一挙手一投足を警戒しています。

「あらあら、そんなに怖い顔しないで下さい。用があるのはそこにいる方だけですから」

 そう言って女性はシアンさんを指差しました。

「ワタシに用事って、何かしら?」

 流石のシアンさんも、その不穏な空気に気付き始めたようです。

「もしかして、あなた……こちらの世界の魔族かしら……」

「…………え?」

 セカイさんの言葉にシアンさんの表情がどんどん固まっていくのがわかります。今になって事の重大さに気が付いたようです。

「あら、面白い事言いますわね。残念ですが不正解ですわ。でも、あなた達にはいつまでも隠してはおけなさそうですわね」

 女性がそう言うと、目の前に突然黒い羽根が吹雪のように舞い、彼女を包み込みました。そしてそれが収まると、中から現れたのは、黒い一対の翼を持った人ではない存在でした。

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