第5話 同じニオイに誘われて

同じニオイに誘われて(1)

 外がうるさいです。

 店の外で恐らく二十代ぐらいの年齢でしょうか、三人の男性が何かの雑誌とスマホを持ってキョロキョロと周りを見回しています。こんな、どん詰まりの場所まで来て、しかも私の店が目的ではないというのが少し悲しいです。

 こんな場所に店を構える方もどうなのかと言われればそれまでですが……。

 そして、悪い事にその人達は更に奥、私達の住居の敷地内に入って行こうとします。

「すみません、そっちは私有地なので入らないでもらえますか!」

 私は店のドアを開け、その人達に声をかけます。

「あ……すいません……」

 三人の男性はバツが悪そうに戻ってきます。そして私の元へ寄ってきてこう聞きます。

「この辺の上空でフライングヒューマノイドが出たって言われてるんだけど知ってます?」

「…………知りません」

「あれ……この辺りじゃないのかな? おい他の場所に行ってみようぜ。あ、騒がせてすいませんでした」

 そう言って三人の男性は店を後にして去って行きました。

 最近こんなやり取りを何回も繰り返してます。それというのも……。私は店の奥にいる一人の人物? を見ました。

「クックックッ人間共め、すっかりワタシの術中にハマっているわね」

「いえ、ただあなたがはしゃいで飛んだだけじゃないですか」

 私は勘違いをしている魔族の少女に真実を伝えてあげました。

「グ……しかし、そのせいで人間どもは混乱に陥っているでしょ」

「皆さん楽しんでますよ」

 プルプルと手を震わせ屈辱に耐えている様子のシアンさん。そう、今回のフライングヒューマノイド騒ぎは、先日魔族である彼女が感極まって空高く飛んだ所を何処かの誰かに写真に撮られたのが原因だったりします。

「本当にこの人は迷惑ばかりかけるわよね……」

 セカイさんが呆れた目でシアンさんを見ます。

「仕方ないでしょ! 三百年以上もあんな荒れ果てた土地と化け物しか見てこなければ、ああもなるわよ!」

 シアンさんは涙目で訴えます。それに関しては私もよくわかるので同情しますが……。

「でも、それがオカルト雑誌の記事になって野次馬が増えたのも事実しゃない?」

「そういえば、サングラスをかけた体格の良い人と作家のお爺さんが、取材に来てましたね」

 てっきり私はマジックアイテムを扱うこの店の取材に来たとばかり思っていたのてすが……。ガッカリしたのを覚えています。

「あの時も勝手にいらない事をペラペラと喋ろうとしていたし。私が直前で止めたから良かったものの」

「アレを止めたと言うの? あんたは……」

 確か、商品を入れるための空きビンでセカイさんがシアンさんの後頭部を思い切り殴ったんでしたね。

 ガルルという唸り声が聞こえてきそうなほど睨みつけるシアンさん。しかし、そんな事など気にも留めず、セカイさんの文句はまだ続きます。

「それに何よ、その格好!」

「はあっ? いきなり何なの。どこかおかしいわけ?」

 セカイさんはシアンさんを指さして、どこか嫉妬めいた表情で訴えます。

 シアンさんは今、私の貸した服を着て、角も隠し人間に化けている状態です。普段のままだと目立つので無理を言って着てもらいました。

 でもセカイさんは何故そこまで感情的になっているのでしょう?

「トワの服を着るなんてずるいわ!! 私だって着た事ないのに!」

「………………」

 そこですか。そもそもサイズも違って着られないじゃないですか。

「ワタシだって着たくて着てるわけじゃないわよ。頼まれたから仕方なく……」

「でも、流石シアンさんですよね。普通の服でもあっさりと着こなしてしまうので私としても選びがいがあります」

 私はすかさずフォローを入れておきます。元の姿に戻られても困るので。

「あ……当たり前じゃない。何たってこのワタシが着てるのよ」

 少し照れはしているものの、嬉しそうな表情をして満更でもない様子。簡単です。

「……トワの匂いや温もりに包まれているなんて羨ま……じゃなくて、贅沢……じゃなくて、ご褒美?」

 セカイさんはガックリとうなだれて、よくわからない事を呟き始めました。というか、何か恥ずかしいのでやめて下さい。

 カラーン。その時ドアについているベルが鳴りました。

 そこには、白いワンピースを着た、腰まで届く長い真っ黒な綺麗な髪が印象的な女性が立っていました。

 見た目、十七、八歳ぐらいでしょうか。背丈も私よりはありそうですが、セカイさんよりは低そうです。

 その女性が穏やかな笑みを浮かべ私達の前にゆっくりと歩いて来ました。

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