生存者発見!?(5)

 自宅の森を抜け、店が見える所まで来ると、それに伴い周りの住宅街も見えてきます。その光景を見たシアンさんが私の横で目を輝かせキョロキョロと辺りを見回しています。

「おおーっ。おお~~~~~~~~!」

 興奮気味のシアンさんが、気持ちを抑えられないのか突然コウモリのような翼を広げ、空高く飛び上がり大声で叫びました。

「文明よ! 久し振りの文明よーーーーーーーっ!!」

 どこのジャングルから帰ってきたのかと思わせる言動ですが、気持ちはわかるので見て見ぬふりをします。ただ近所迷惑なので程々にしてほしいです。

「シアンさん早く下りて来て下さい。誰かに見られたら面倒です」

「あ、そうね。確かに」

 ずいぶんと素直に言う事を聞いてくれましたが、どうしたんでしょう。それでも横にいるセカイさんはしかめっ面をしてますが。

「全く、これだから野蛮な魔族は……」

「誰が野蛮なのよ!」

 相変わらず魔族に厳しいセカイさん。ですが、私も一つシアンさんに確かめておかなければいけない事があります。

「シアンさん。気が変わって『こちらの世界を支配する』なんて言わないですよね?」

「言わないわよ。そんな事」

 あっさり否定されました。

「こっちの世界にはこっちの魔族がいるから、迂闊な事をしたら私が殺されかねないわよ」

 ────え? え? 今、何て言いました?

「セカイさん……こちらの世界にも魔族はいるんですか?」

「え? いるわよ。トワ気がつかなかった?」

 気付きませんよ、そんなの。今まで自分がいた世界でさえ魔族がいたなんて知らなかったんですから。

「…………とりあえず、お店に入って下さい」

 色々な事実が判明し、まだ気持ちの整理がついてませんが、こんな所にいつまでもシアンさんと一緒に突っ立っていては目立ってしまうので、彼女には早々に店の中に移動してもらいました。


「へえ~、ここがあんたのお店ねえ~。まあまあ、いい感じじゃない」

「ありがとうございます」

 シアンさんは興味津々に店の中を歩き回って売り物の魔法のアイテムなどを見ています。人の匂いのする場所に余程飢えていたと見えます。

 そんな彼女を横目に私はレジ近くの棚に置いてあるペンダントを手に取ります。それは金属製の楕円形の本体に黄金色の石がはまり、周囲は古代文字みたいな装飾がされている物です。値段が少々高かったのか売れる気配すらなかった物です。

 でも、その効果には自信があります。

「シアンさん。ちょっといいですか? これなんですが……」

 私はあれやこれやと商品を見て回っているシアンさんを呼び、そのペンダントを見せました。

「これが、どうかしたの?」

「このペンダントは持ち主が身の危険にさらさられた時に自動的に周囲に結果を張り、中の人を守ってくれます。生存者を探してくれるかわりに、これを差し上げます。あの怪物ばかりの危険地帯を進むには役に立つのではないかと」

「へえ~~」

 感心した様子でペンダントを手に取るシアンさん。とりあえず気に入ってもらえたようです。

「あんたは気が利くわね。そこでプリプリしてる女とはえらい違いね」

「私からも役立つアイテムあげるわよ~」

 引きつった笑顔を見せるセカイさんに、「いるかっ!」とシアンさんは全面拒否しました。それはそうでしょうね。酷い目に遭ったばかりですしね。

「シアンさん。あなたが魔族であろうとなかろうと、生存者を探してくれるというのなら私は気にしませんし協力もしたいと思ってます。私も願いは同じですから」

 私が真剣に自分の気持ちを伝えると、シアンさんは少し照れたように目線を逸らし渡したペンダントを首にかけ、僅かに頬を朱に染め、私に言いました。

「そ、そこまで言うなら仕方ないわね。この大魔族であるシアン様が一肌脱いであげるわよ」


 そうして彼女は再び、生存者を探すため、あの怪物だらけの荒野へと旅立って行きました。



 ────ところが数日後。

 穏やかな日差しの昼下がり、いつものようにお客さんの姿も見えない店内。どうせ暇なのだからそろそろお昼御飯にでもしようかと思った時でした。

「ちょっと何なのよコレは!!」

 全身の至る所の衣服が破れ、火傷みたいな痕でボロボロになった姿のシアンさんが乱暴に店のドアを開け、中に飛び込んできました。

「ど、どうしたんですかシアンさん。その姿」

「どうしたもこうしたも、あんたから貰ったペンダントが発動したら、こうなったのよ!!」

 手に持っているペンダントを私の目の前にぶら下げて涙目で訴えるシアンさん。彼女が言うには、不意に背後から怪物に襲われた時にペンダントが発動し、相手の攻撃を防ぐと共に結界の中にいた自分も燃えるような熱さを感じ、身を焼かれる思いをしたそうです。

「そんなはずは……私、このアイテムは自分の身をもって実験したんですよ?」

「本当は怪物にやられたのに、ペンダントのせいにして難癖つけたいだけなんじゃないかしら?」

 私の傍にいたセカイさんがシアンさんに疑いの目を向けます。

「そんなくだらない事しないわよ! 私にだってプライドがあるんだから」

「どうだか?」という表情のセカイさんに歯軋りが聞こえそうな顔で睨みつけるシアンさん。でも、私には彼女が嘘を言っているようには見えません。だとしたら、どうして?

「あのペンダントはに守られて、とても強力なはずなんですが……」

 私の呟きを聞いたシアンさんが、凄い勢いで私の方へ顔を向けました。

「え? 何ですか。どうかしたんですか?」

「そんな物、私に渡すなああああああぁぁぁぁっ!!」

 その悲痛な叫びは町中に響き渡ったとか渡らなかったとか。


 すっかり失念していました。聖なる御加護は魔族には逆効果である事を。

 シアンさんが余りにも魔族っぽくなかったものですから。

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