第2話 虫退治しましょう

虫退治しましょう(1)

「う……ん……」

 私の目の前には蓋が閉まった小瓶があります。その小瓶の中には数個ほど先に作っておいた丸薬が入っています。

 私がその小瓶の蓋を開けると、丸薬が弾け、中に含まれていた魔力が放出されると、小瓶の中は丸薬から変化した数個のオーブが漂っていました。

「トワ。それは?」

 お客さんのいない店内、唯一私以外にいる人、セカイさんが疑問の眼差しを向けてきました。

「蚊取りオーブです」

「蚊取り……オーブ?」

 セカイさんの目が更に?マークになっているのがわかりました。

「このオーブを宙に放すと蚊やハエのような小さな羽虫を退治してくれるんです。一週間程持ちます。新商品です」

 私は既に商品棚に陳列してある小瓶を指差しました。

「この世界だと、もっと便利な物がたくさんあるけど……売れるかしら?」

「これは電気も薬品も火も使ってません。安全です。しかも観賞用になります」

 虫を捕食する姿がパッ〇マンみたいなのが、和むかどうかわかりませんが。でも、家具の裏などに虫が逃げても、ちゃんと追いかけて捕まえてくれる優れものです。我が家で試しました。

「まあ、面白がって買う人もいるかもしれないわね」

「実用性ではなくて、ですか……」

 思わずため息が出ました。でも私もわかってはいた事なので。

「実はコレ、本当は違う用途に使う予定だったんです」

「違う用途?」

「先日、向こうの世界での巨大トカゲを覚えていますか?」

「あのトワを食べちゃったけしからん奴ね」

 食べられたのはあくまで人形の方ですが、セカイさんは変な覚え方をしてるみたいです。

「あのような巨大生物がもしも魔力による弊害で発生したならば退治した方がいいのではと思ったんです」

 世界が滅びる程の魔法科学の暴走があったからと仮定してですが。

「こんな小さいオーブで?」

 セカイさんが蚊取りオーブの小瓶を手に取り、小首を傾げます。

「もちろん、もっと大きなものを作ろうとしました。でも、このような不定形のものは大きくなればなるほど形を保つのが難しくて……」

「なるほどね。だとしたら何か形を決めて作るしかないわね」

 セカイさんが腕を組んで「むむむ……」と考えてます。

「トワがトカゲを捕まえて食べる姿は見たくないわね……」

「どうして私限定なんですか!」

 もう私とトカゲをセットで想像するのはやめてほしいです。

「それはこれから考えるとして、今はこの副産物が売れるのを祈ってます」

 ────カラーン。

 ドアのベルの音と共に一人のお客さんが入って来ました。ショートカットの女子高生です。

「いらっしゃいませー」

 私達以外、他に誰もお客さんのいない店内に入って来た女子高生の娘が、この雰囲気に躊躇しないように、抑え気味に声をかけました。

 その女子高生は私達の周りを漂うオーブを見て目を輝かせました。

「あ、カワイイ……」

「え? あ……これでしたらそこの棚に置いてありますよ」

 私が蚊取りオーブが置いてある棚を指差すと、女子高生はすぐさまその小瓶を手に取り、カウンターに持ってきました。

「これ下さい」

「八百円になります」

 私はその小瓶を丁寧に袋に入れ、お金を貰うと女子高生に渡しました。そして、その女子高生は笑顔で店を出て行きました。

「ありがとうございましたー」

 ここは気軽に立ち寄れるお店ですよ、と思ってもらうために、グイグイ感を余り表に出さないよう、さり気ないトーンの挨拶で私はお客さんを送りました。

「売れましたね」

「あの娘、アレが何かわかっていて買ったのかしら?」

「瓶にも説明書きが張ってあるので大丈夫だと思いますよ」

 願わくば苦情など来ませんように……。

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