トワとセカイ(4)

「この人形を使って向こうの世界が今現在どうなっているか、本当に生き残っている人はいないのか改めて調査をしようと思いまして」

 私は自分のコピー人形を指差して言いました。

「わざわざそっくりの人形を作って? 何てもったいない……」

 セカイさんが物欲しそうな目をして人形を見ます。そんな顔をしてもあげません。

 ちなみに私もセカイさんも昔の姿と全く変わらない。それでもこの世界の人達が不思議に思わないのは、セカイさんの『世界の意志』の能力なのだそうです。

 私はその今も変わらない自分の姿を映した人形に例の高速で飛べるホウキを持たせ、その場所へと向かわせました。ドアに付いているベルが鳴り、人形が外へ出て行きます。

「ああああ………………」

 セカイさんが名残惜しそうに見てますが、とりあえず無視します。

 コピー人形の目で見たものは任意で私の頭の中に映るシステムになっているので、状況は容易に把握出来ます。

 店がある場所から更に奥に道は続き、少し進むと門が見えてきます。その向こうは森のように木が生い茂り、更に進むと二階建ての洋風の家があります。これが私とセカイさんが生活をしている家です。決してお屋敷みたいな豪邸ではなく洋風といえど普通に靴は脱いで上がります。

 その家を横目に更に先に延びる道へ進むとまた門が見えてきます。その門が私達が元々住んでいた世界へと続く門になっています。

 人形をその門の先へと進めると、目に飛び込んできたのは相変わらずの荒れ果てた大地でした。人の気配など微塵も感じません。振り向くと、壊れた塀に今出て来た門が張り付いているというシュールな光景が目に入ります。

 私(人形)は前に視線を戻し、再び歩き始めました。

「この付近にいても何も無さそうですし、少し遠くへ行ってみましょうか」

 人形はホウキにまたがり、フワッと浮き上がりゆっくりと上昇します。

 十メートル程の高さで静止して辺り一面を見渡しますが、どの方向を見ても景色は変わりません。

 仕方がないので適当に見当をつけ移動をしようとした瞬間、いきなり目の前に地中から七メートルぐらいはありそうな巨大トカゲが飛び出して来ました。

 その巨大トカゲは口を大きく開けると人形に迫り、それ以降の映像は真っ暗になってしまいました。

「人形……食べられてしまいました……」

「た……た、食べられた?」

 セカイさんがとてもショックを受けた顔で私を見ていました。別に人形に何かあっても私にはダメージも無ければ痛みも無いので気にする必要は無いのですが。

「わ……私だってトワを食べた事ないのに!」

 セカイさんが涙を流して悔しがってました。────この人は一体何にショックを受けているんでしょう。時々……いえ、よくセカイさんが何を考えているのかわからない事があります。

 まあ、それでも────。

「セカイさんには感謝してます」

「え? どうしたの急に……」

 セカイさんのお陰で私は辛さや寂しさを忘れ、生きてこれたのだから。

「もしかしてトワ、本当は私に食べてもらいたかったのかしら?」

「違います」

 興奮気味のセカイさんに私はキッパリと拒否します。

「安心して。実際は食べるというより舐めるわけだから痛くはないから」

「気持ち悪い事言わないで下さい!」

 私は近くにあった小瓶を手に取りセカイさんに渡しました。

「そういう妄想はこの薬で夢の中で見て下さい」

「いいの? 本当に?」

「……え?」

 セカイさんは自分の見たい夢を見られる薬が入っている小瓶を手に歓喜しています。

 本当にどんな夢を見るつもりなのでしょう。全身に悪寒が走ります。

 ────やっぱり性格を治す薬ぐらいは作った方がいいのかもしれませんね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る