トワとセカイ(3)

 私はまだ夢を見ているのでしょうか。それとも、これは何かの映画のセットなんでしょうか。

かつては建物であったのだろうと想像が出来る外壁や瓦礫の山などが多少残っている以外は荒野と化していて、人の気配はまるでありません。

「私の……寝ていた間に一体何が…………」

「トワに魔法の譲渡をした時から三百年以上経っちゃってね……」

「三百年!?」

 私を追って来たのか、後ろにセカイさんが立っていました。

 それにしても、どういう事なのでしょう。人がそんな長い間眠れるわけがありません。そもそも、生きられません。

「私の魔力の副作用でか、トワが気を失ってね、それから今までずっと眠っていたのよ」

 セカイさん曰く、私の眠っていた間に世界中で魔法兵器を使った大戦が起き、私を連れて各地を転々と避難をしていたセカイさんが、途中で空いていたシェルターを見つけて結界を張り、そこで身を隠していたそうです。ちなみにセカイさんは防御系の魔法が得意だそうです。

 やがて戦争も終わったのですが、魔法兵器の汚染物質が世界中に広がり、人類の歴史も終わってしまったという事でした。

 本当は真っ先に自分を守ってくれたセカイさんにお礼を言うべきだったのでしょうが、事態の展開に頭がついていかず、ただただ呆然としていました。

 それにまだ疑問が残っています。

「そんなに時間が経っているのなら、どうして私は生きているんですか?」

「あ、それはね……」

 セカイさんはあっけらかんと言いました。

「私があげた魔力のお陰でトワは不老不死になったから」

「…………………………はい?」

 そんな日常会話みたいに言うような事じゃないでしょう。大事件だと思うのですが……。

 私は慌ててシェルターに戻り、壁にかけてあった鏡で自分の姿を見ます。すると、そこにはセカイさんと出会った夢?を見た時と同じ、十五歳の頃と変わらない私の姿がありました。しかし、腰まで届く真っ直ぐな髪の毛だけは当時黒だったものが亜麻色に変わっていました。これもセカイさんの話によれば魔力の影響なのだそうです。

 私はショックで床に手をつきました。

「安心してトワ。髪の色が変わっても、とっても可愛いから」

「そこじゃありません! 衝撃的な事が多すぎて、何から考えていいのかわからないんです」

 いきなり何もかも無くなったなんて、どう受け止めればいいんですか?

「時間は余る程あるから、ゆっくり理解すればいいわ……」

 セカイさんの優しい声が心に響きます。

「……………………そう、ですね」


 それから私は高速で飛ぶホウキを作り、セカイさんと一緒に世界各国を見て回りました。どこもかしこも文明の跡が少し残るだけで荒野と変わり果ててしまってました。途中、怪物みたいな巨大な爬虫類に襲われたりもしましたがセカイさんの鉄壁の守りのお陰で事なく済みました。

 そんな事をずっと続けていましたが、カレンダーも無く、あらゆる土地へ行ったため季節感も無くなり、私自身も歳を取らないため時間の感覚が麻痺して、どれぐらいの年数が経ったのかわからなくなる程の長い間が経った時。

 私は諦めました。

 この世界には私とセカイさん以外人はいない。そう痛感しました。だけど、かなりの長い時が経っていたせいか涙は出ませんでした。いえ、この長かった旅そのものが自分の気持ちに整理をつけるためのものだったのかもしれません。

「トワ、どうする? 生き残っている生物が進化して人になるまで待って、この世界を作り直す? それとも別の世界へ避難する?」

「…………避難しましょう」

 そんな億単位の時間がかかる事を待ってはいられません。だいたい生物が人に進化するとも限らないし、そもそも私に世界を作り直すなんて大それた事も無理です。

 そうして私達はこの世界に辿り着き、今の場所に居を構え、そして六十年程経ちました。


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