トワとセカイ(2)
この世界とは別の世界。本当の私達の
だけど見た目はこの世界とさほど変わりなく、ただ科学が魔法に置き換わっただけの状況です。私の世界の人は得手不得手はあるものの、魔法学なる学問があったため大半の人は一応魔法が使えました。そして私の家も、そんな世界のごくありふれた一般的な家でした。
ある日、私が学校から帰宅すると、家の玄関の下駄箱の上に見た事のない像が置いてありました。その像は女神らしき女性が頭の上に両手で星を掲げている姿の物でした。
私の両親は共働きで、父か母が勤務先で貰ってきたのだろうかと像を手に取って見てみると、突然目の前が真っ白になり、辺り一面が白一色の世界に変わったかと思うと、視界の奥に一人の女性が立っていました。その姿はどこか像の女性に似ていました。
「初めましてトワ」
「だ、誰ですか? どうして私の名前を……」
「私は『世界の意志』だもの。それぐらい分かるわ」
その女性は自慢げな表情を見せました。
「……世界の意志?」
「あなたが手にした像の事よ。そしてそれが私」
自分を指差して女性がイタズラっぽい笑顔をしました。
────この人は何を言ってるのでしょう。理解出来ません。きっとこれは悪い夢なのだろう。私はそう思いました。
「トワ。あなたは私のパートナーに選ばれたの……ううん、私が選んだのよ」
「パートナーって何のですか? どうして私なんですか?」
わけが分からず困惑している私を女性は落ち着かせるように仕草で制すると、詳しい説明をしてくれました。
「さっきも言ったけど、私は『世界の意志』世界の行く末を見守る監視者よ。そしてトワには私と一緒に『世界の意志』の実行者になってほしいの」
「実行者ってなんですか? 私に世界を守れとか征服しろみたいな事ですか?」
「トワがしたいなら、すればいいわ」
「???」
本当に意味が分かりません。
「自由でいいのよ。好きな事をすればいいの。実行者の行動を含めて世界がどういう方向に進んで行くのかを見届けるのが私の役目だから」
その女性の話からすると、どんな結果になろうとも、その過程から結末を記録しておくのが彼女の仕事らしい。
「でも私、大した事出来ませんし、する気もないですよ。普通に暮らしたいだけですし……」
魔法の能力もお世辞にも高くはありませんし。
「いいのよ。それがトワの望みなら。それにパートナーになってくれたら、それ相応の魔法も私から与えてあげる」
「相応の魔法……」
この時の私は残念なことに欲に負けてしまいました。その能力を貰っておけば、将来進学や就職に役に立つかもと思ってしまったのです。
「……わかりましたパートナーになります」
「ありがとう。それじゃ両手を前に出して」
私は彼女に言われた通り両手を前に出すと、彼女の両手がそれを外から包み込みました。
「それじゃこれから、私との契約とトワへの魔法の譲渡を行うわね」
「はい」
私の身体の中に温かい何かが流れ込んできました。よくわかりませんが恐らくこれが契約や魔法の譲渡なのでしょう。
そういえばまだ一つ答えて貰ってない事がありました。
「どうして私をパートナーに選んだんですか?」
「簡単な事よ」
女性は恍惚とした表情で答えました。
「トワがとても可愛かったからよ……」
この時になって私は安易に了承してしまった事に後悔を感じ始めていました。しかし、それは既に手遅れで私の意識は薄れていきました。
「私の名前はセカイ。よろしくねトワ」
────出来れば余りよろしくしたくないかも……。
そんな言葉が頭に浮かんで、私の意識は暗闇へと沈んでいきました。
そして、その不安は予想外の形で現実となりました。
私が目を覚ますと、そこは自分の部屋ではありませんでした。
白いコンクリートに囲まれて、棚と私が寝ていたベッドと僅かな生活用品らしき物しかない殺風景な部屋でした。
「起きた? トワ」
声のした方に向くと部屋の隅にセカイさんが立っていました。
「ここは……どこですか?」
「地下シェルターの中よ。実はトワが眠っている間に大変な事になってね……」
「シェルター? 大変な事?」
「う~ん……外に出て、見てもらった方が早いかしら」
私はまだ完全に覚醒していない頭を振り、ベッドから下りるとフラフラとした足取りで地上へと続くだろうと思われるハシゴに向かいます。そしてハシゴを登り、天井にあるドアを開けて外に出ると、
「……………………え?」
────────世界は滅んでいました。
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