トワのセカイ

小桜 天音

トワのセカイ

第1話 トワとセカイ

トワとセカイ(1)

 目が覚めたら世界が滅んでいました。

 建物など人工物は風化して、人がいなくなってからかなりの永い年月が経っているのが分かりました。

 そして私は、この状況を元に戻す方法を探すために、現在いま住んでいるこの世界にやってきました。端的に言ってしまえばそういう事です。


 〇 〇 〇


「ふわあ~~~……」

 思わずあくびが出てしまいました。

 ここはドリームハウスという魔法のアイテムが売っているお店。自分の見たい夢が見られる薬、当たる確率の高い占いのカード、自身で朗読してくれる絵本など、お客さんに危険が及ばない範囲の物を販売しています。

 店の中は大きな窓から外の光が入り、壁の色も白を基調とした明るい雰囲気で観葉植物なども置かれ、外から見てもオシャレな喫茶店と見間違える程おどろおどろしさはありません。

 しかし、お店のある場所が山の斜面を切り崩して作られた町の一番奥まった所にあるせいなのか、最近VRなんてものが出来てしまったせいなのか、以前と比べるとお客さんは来なくなりました。今も店には誰もいません。私一人です。ウチの商品に頼らずとも色々な事が出来る便利な世の中になってしまったという事です。

 そう、今はいる世界は科学の世界なのです。

 私が元々住んでいた世界は正にこことは正反対の魔法が主流だった世界。元の世界では皆がそうだったので改めて言われる事は無かったけれど、この世界では私はこれでも一応魔女と言われる存在となります。

 だけど、私の作ったマジックアイテムはこの世界の人に害が及ばないよう配慮して作った物なので、手品やおまじないのようにしか思われてないのかもしれません。

 でも、お客さんがいないからといって大変とか困るとか寂しいというわけではなく、ただただ暇なだけなんですが……。


──カラーン。

 ドアについているベルが鳴りました。お客さんかな?

「あ、いらっしゃいま……」

「トワ。ただいま~~」

 満面の笑みを浮かべてドアを開けて入ってきた女性がマイバックに大量の食料品を詰め込んで立っていました。

「おかえりなさい。セカイさん」

 彼女の名前はセカイ。私にとっては唯一のパートナーみたいな人です。二十歳ぐらいの見た目で毛先に少々癖のある青みがかった銀髪が背中まで伸びています。身長は156センチの私より10センチ程高く、普通にしていれば美人といえる人だと思います。

「なに? トワ。私をじーっと見て。わかった。私の愛が欲しいのね。それなら、あなたの愛に答えちゃおうかしら。あんな事とかこんな事とか……」

 両手を頬に当て、顔を赤らめ身体をクネクネさせるセカイさん。何か勘違いをしているようなので、私は視線の温度を下げました。

「なに? トワ。そんな憐れな者を見る目で見て……」

 残念だなと思っているだけです。

 だけどセカイさんはそんな私の思惑など関係なく私の傍に寄ってきて、

「そんな顔も可愛いけど、笑顔の方がもっと可愛いと思うんだけどなあ~」

 セカイさんは怪しい目付きで手をワキワキと動かします。

 ────嫌な予感。

「それっ!!」

「ひゃっ? セカイさん、やめっ……」

 思った通り文字通りセカイさんは脇をくすぐってきました。いつもながらイタズラが過ぎます。

「ホラホラホラ。ここはどう? いいかしら? エヘヘ……」

 どんどん声が下品になっていくような気がします。そして徐々にセカイさんの手が脇から前方に……。

 ──パチン。私は指を鳴らしました。

「え、ぐえっ!?」

 突然、後ろから襟首を引っ張られカエルのような声をあげるセカイさん。

「もう誰よ。いいところだったのに……」

 怒ったセカイさんが後ろに振り向くとそこには……。

「え?」

 私が立っていました。

「な、何でトワが二人? これは夢? もしかして天国?」

 うっとりとした目で私ともう一人の私を見るセカイさん。このような非現実的な状況でも頭の中はお花畑になっているようです。

 ひとまず現実に戻してあげましょう。

「これは私のコピー人形です」

 私は『意志の魔法』というものを使う事が出来ます。頭の中に思い浮かべるだけであらゆる物や現象などを作り出せるという大変便利な魔法です。ただし知的生命体や大陸みたいに規模が大き過ぎるものなど作る事は出来ません。あと、私が知らないものや、全く想像が出来ないものも無理です。

「こ、これは、もしかして私にプレゼントをしてくれるために作ってくれたとか?」

「違います」

 まだセカイさんは何か勘違いをしているみたいです。私はそんな自分を貶めるような事はしません。

「この人形は私達が元々いた世界を視察するために作ったものです」

「視察?」

 セカイさんは首を傾げました。まだ私が何をしたいか伝わっていないのでしょう。

 ──そう、私達の代わりにこの人形に向こうの世界に行ってもらうのです。

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