結婚式にて

 ある年にリンナの姉エリナは結婚した。県境の向こうは土地柄行事を派手に執り行うが、エリナも例に漏れず大掛かりな結婚式を催すこととなり、レイと両親にも招待状を送ってきた。

 夕飯後の弛んだ時間に、母が貸衣装のサイトを見せて華やかな色のドレスを勧めてきたとき、レイは

「こんなの着たら若い女だと思われるじゃん」

と嫌がったが、母は赤子の手をひねるように返した。

「実際若い女じゃない」

 レイは気が進まなかったが、エリナお姉ちゃんのハレの日だから、とおとなしく我慢した。


 当日は見たこともない親戚たちと共にマイクロバスに乗って会場に向かった。年寄りの頭ばかりが車窓に並んでいた。にぎやかな話し声に囲まれて、レイの心に生じるのは空虚な反発心ばかりであった。会場に着くなり備え付けの暗く狭い美容室で髪を整えられ、レイは女性性を強調する身なりにされた自分を鏡越しにうら悲しい気持ちで見つめた。


 儀式は滞りなく済んだ。レイは強引にブーケトスに参加させられ、大げさに取りに行って取り損なった。なんだかひどく恥をかいたような気がした。披露宴で、レイと両親は一番近い親戚として伯父夫婦とリンナそして二、三歳になったリンナの子どもと共に一つのテーブルに就いた。食事の席でも明暗はくっきりと分かれていた。リンナは折に触れては自分の息子を引き合いに出してテーブルの会話を仕切っていた。レイはうつむいてフォークを口に運び、自分の両親とすらまともに口を利かなかった。自分の両親はリンナを呼び捨てにしていて、リンナは誰とでもためらいなく話すのに対し、伯父夫婦とリンナは相変わらず自分をちゃん付けでしか呼ばないこと、自分は伯父夫婦に気兼ねしていることを、レイは嫌というほど思い知らされた。

 ふと気が付くと、リンナは旧姓に戻っているのであった。

 

 宴会が開けて、エリナと新郎と伯父夫婦は出席者に引き出物を渡して挨拶していた。レイはトイレから出て両親を待った。すると見たこともない中年の男二人に声をかけられた。

「フミノさんとこのレイちゃんだよね?」

「はあ」

「フミノさんちってどこだっけ?」

「××県のほうにあります」

「大きくなったねえ」

「今は大学生?」

「いい人いる?」

「いません」

「もう二十歳すぎだっぺ? 早く見つけないとお嫁に行けなくなっちゃうよ?」

 レイが困惑していると、どう逃げ出してきたものか、リンナが姿を現した。

「津川のおじさんと金村のおじさんこんにちは!」

「おおリンナでねえか」

「お前はあれか、このレイちゃんとはいとこか」

「そうです。超仲良し」

「リンナもエリナも結婚したから次はレイちゃんだな

「いい人見つけねえとな」

「大丈夫だよ。レイちゃんは大物になるから、きっと男もいいの見つけるよ」

「そういうお前は出戻りでねえか」

「それは言わないでよ、もうっ」

 年上の男二人と迷わず話せるリンナを横目で見ながらレイは考える。

――性質が違うから、私はリンナみたいには生きられない。生きたいとも思わない……いや――

 レイは胸の中に自然と本当の気持ちが芽生えたことに気づく。

――一度で良いから、あんな風に生きてみたかった――

 不都合な気持ちを、レイはいつもの調子で飲み込んで、腹の奥深くにしまい込んだ。


 その後リンナは郵便局で働きながら元気良く一人息子を育てている。レイは作家になるんだと訳の分からないことを言って、実家を出た。

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傾向と性質-リンナとレイ- 文野麗 @lei_fumi_zb8

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