第9話

裕奈が坂本に抱き着いて泣いてからしばらくたち、

今は楽しい会話で満たされていた。

「お邪魔しまーす」

と誰かが来た。

「ヤッホー、裕奈。‥‥‥誰?」

制服を着た女の子が一人。裕奈の友達が来た。

「毎日すまんな。結奈ちゃん」

京谷さんが彼女に挨拶をした。

「こんにちは。吉田春樹です」

「吉田詩織です」

「清水唱」

「坂本だ」

とそれぞれ挨拶をする。

だが、あとになるに連れて挨拶が雑になっているのはなぜだろうか‥‥‥。

「こんにちは。川口結奈です」

「結奈は私の幼馴染なの」

水の四名家と言われているうちの一つ川口家の長女結奈。

四名家の誼で仲が良く、長い付き合いなののだろう。

「はい、これ。今日のプリント」

「ありがと」

裕奈が結奈からプリントを受け取った。

結奈は心配そうな顔で

「やっぱり、私についてくる?」

と裕奈に尋ねていた。

「ついてくる?」

僕は気になり、聞き返した。

「ああ、結奈は来週から東京の学校に通うの。それ私も行こうって誘われていて」

「そうだったんだ」

僕は納得した。

「ならついて行けばいいじゃないか。ろくに学校に行かないのなら、なおさらだ。編入試験はいつなんだ?」

「受けたよ。合格はした」

納得のいかないような顔で裕奈は言った。

「なら、お前にある選択肢は、東京に行くしかないじゃないか」

坂本が呆れるように言った。

まるでバカにするように。いや、するようどころか、バカだろ、と言っているようにしか聞こえない。

「決めたよ。私も行く。東京に」

「いや、東京に行くしか選択しないだろ」

ため息交じりに言った。

「なら、支度しないと」

「もう出来てるよ」

おばあさんが言った。

まるでこうなることが分かっていたような準備の良さだ。

「ねぇ、坂本君。東京に行って、開いているときにどこかに行かない?」

デートの誘いだ。

いきなり攻めるな。

「断る」

即答で返答した。

「俺はお前と過ごす時間が無駄だと思っている。お前と遊んでいる時間があれば、システムの一つや二つ、作ることが出来る」

「うーん。なら坂本君の家に行っていい?」

「俺の家には行くな!吉田の家に来い!絶対に俺の家に行くな!」

坂本は慌てて裕奈に言った。

よっぽど家族に裕奈を合わせたくないのだろう。

むすっと頬を膨らましている裕奈。

僕は理解した。

「僕の家は下宿で、ここにいるメンバーはみんな僕の家で過ごしているんだ」

「なるほど、そういう事ですか」

裕奈は坂本が言っている事に理解をして、頬のふくらみはしぼみ、元に戻った。

「裕ちゃん、そろそろ勉強しないと」

「分かった」

裕奈は二階に行き、何かを持って降りてきた。

そして、テーブルに何冊かノートと教科書を開いた。

「まず、英語からしよう」

「結奈っていつも私の苦手教科ばかりするよね」

「そうでもしないと、英語と社会は手を抜くでしょ」

「はーい」

と二人は勉強を始めた。

「えーとナニコレ?スぺリッド?」

スペルをそのまま読んだだけではないか。本当はspread、広がるという意味を持つ。

「スペレード、広がる」

「スぺレードね。えっと、べセラート?」

やはり裕奈はスペルをそのまま読んでいた。desert、砂漠という意味だ。

「デッザード、砂漠」

「デッザード」

とこの繰り返しだ。

「違う。desert」(砂漠)

唱が急に話し始めた。

「広がるは、spread」(広がる)

我慢ができなかったのだろう。

なんせ唱は国際科の天才。

結奈から、唱へ変わり、結奈まで唱からの授業を聞いていた。

さすがにスペルをそのまま読むって、よっぽど英語が苦手なのだろう。

それから一時間

「おわったー。次は数学だー」

と少し明るくなった裕奈。

「iの四n乗、(nが自然数)の個数は?」

僕が試しに問題を出した。

「なにそれ!そんな問題知らない。吉田君たちの学校って難関校?」

凄く驚かれるが、岸高はいたって普通の学校だ。

「いや、普通だ。それより答えは?」

「えーと、うーんと、適当に一!」

「正解」

「え?マジで?」

「あってます。正解です」

「マジでやったー」

はしゃいでいる裕奈。さらに僕は問題を出した。

「じゃあ、解の公式を答えてください」

今度は中学生で習う公式だ。高校でも問題に出されることが有る。

「それは簡単だ。x=2a分の-b±√b2乗-4ac」

「正解」

と楽しく数学をしたところで

「じゃあ次は、一六一四年に起きた戦は?」

「歴史に変わってる!えーっと一六一四年は、えっと」

「大阪夏の陣でしょ!この前したよね?」

「そうだっけ?」

ととぼけた裕奈。

結奈はもう!と少し怒っているようだ。

見た感じだが、結奈は裕奈に‥‥‥何と言うのだろうか。

恋?惚れている?どれも違うような間違ってはいないような感じだ。

そんな結奈が、裕奈が坂本に惚れている事を知ったらどんな反応になるか。

やっぱり恋愛は難しい。感情がない僕はなおさらだ。

「さて、僕たちはそろそろ戻るか」

「そうだね。長居は良くないね」

「分かった」

僕たちは片づけを始める。

「もう、帰るのかね?」

さっきまで台所にいたおばあさんが尋ねてきた。

「はい、そろそろ戻らないといけないので。それにやらなければならない事、ありますし」

そう、本当は今も裏で事件の事を考えていた。

「スイカ、ごちそうさまでした。おいしかったです」

「そうかい。また機会があったらおいで」

「その時は、また」

僕たちは玄関に行き靴を履いて

「「「お邪魔しました」」」

そう言って家を出る。

僕たちはビルの部屋に戻った。

「さて、何か分かった事あったか?」

僕が尋ねると暗い顔をみんなした。坂本はいつも通りだったが。

「何も分からなかった」

「私も」

「そうか」

落ち込む二人に僕はそれしか言えなかった。

「事件の進展になるかは分からないが、こんなのを作った」

坂本は会議室の明かりを消して、小さな機械を置いた。

するとその機械から明かりが出て地図が表示された。

そして、平面状だった地図は立体に変わった。

「実際の面積、高さを縮小したものだ」

地図には智菜の爆発予測場所には旗が立っている。

何かを求めて屈んで見たり、見る方向を変えたり、など色々したが、何も分からないままだった。

「高さを表示することはできるか?」

「可能だ」

坂本がそう言って、スマホを少し触った数秒後、建築物の上に数字が表示された。

そして、智菜の爆発予測場所の共通点を調べた。

高さが同じなのは二組だけだった。

つまり四つのビルに絞られた。

犯人は大きな被害を‥‥‥違う。勘違いをしていた。

犯人の目的は修学旅行生への被害。

ならこの四つのうち修学旅行生が宿泊する場所を絞り込めばいい。

「智菜、予告された日付の間に修学旅行で宿泊予定が入っているホテルをこの四つから探してくれ」

『了解です』

智菜はすぐにそう言ってどこかへ行った。

『分かりました』

速いな。どれだけ優れているんだこのAIは。

『春樹さんが言った四つのうちこの二つが宿泊予定が入っていました』

「ありがとう」

智菜にそう言った。

後は、このどちらかだ。

『ついでにですが、そのうちこちらは、岸高が宿泊します。もう一つは春樹さんたちが宿泊するホテルです』

「ありがとう」

考えろ、今ある情報に答えがあるかもしれない。

考えろ、考えて考えて、答えを見つけ出さないと。

集中しろ春樹。

自分に言い聞かせる。

犯人は予告でなんて予告した?

俺はスマホを開く。

木村刑事から貰った予告の紙の写真を見る。

―—!

「智菜!もう一つの方は東京からの修学旅行で宿泊する学校はあるのか?」

『ちょっと待ってください‥‥‥ありません!』

確信した‥‥‥。

爆発する場所が分かれば、勝ちだ。

「木村刑事を呼んで」

「分かったの?」

詩織が驚く。

「分かったって本当なの?」

さっき部屋に入ってきた敬香さんが驚いて尋ねてきた。

「はい。ただし分かったのは爆発場所だけですが‥‥‥」

「それだけでも十分じゃない、今すぐ呼んでくる」

敬香さんはさっき部屋に入ったばかりなのに、また出て行った。

数分後

「爆発の場所が分かって本当か⁉」

木村刑事がすごい勢いでドアを開けて入ってきた。

「説明をします」

「ああ、頼む」

「私も聞かせてくれ」

塚本刑事もあとから入ってきた。

「とりあえず、座ってください」

「ああ」

二人は椅子に座る。

僕はボードにさっきコピーをしたものを張る。

「まず最初に、AIが割り出した爆発予測場所は全部で一二個でした。そして、その一二個の中から共通点を探したところ、こことここが高さが同じでした。さらにも一組、こことここも高さが同じという共通点がありました」

ここと言ったところに丸の目印を入れる。

「待ってくれ、高さが同じ、それだと不十分だぞ」

塚本さんが戸惑いながらも片手を軽く上げながら質問をした。

「とりあえず、最後まで聞いてください。そのうち、修学旅行で宿泊予定を入れていたのは、この一組」

さっきのとは別の目印を二つ入れる。

「この二つのうちどちらか、というところまで絞られました。答えを出す前に、これを見てください」

予告の紙を見せる。

「これは、あの」

「はい、予告が記されている紙です。ここの一文を見てください。この場所は東京の修学旅行先、京都だ、と記された文。何か気付くことが有りませんか?」

考え始めた木村刑事や塚本刑事、詩織や唱、敬香さんも考えた。坂本はすぐに理解をして「そういう事か」と声に漏らしていた。

他はなかなか答えが出てこなさそうなので話を続けることにした。

「東京の修学旅行先、この言い方だと、まるで――

「そうか!東京の修学旅行生が狙いだと言っているのだな!」

木村刑事が答えを言った。

おいしいところを持っていかれてしまった。

「そうです。それを踏まえたうえで調べたところ、この二つのうち一つが、このホテルに東京都内の学校が宿泊予定が入っていました」

「ちなみに、その学校は‥‥‥」

敬香さんが恐る恐る手を挙げ、質問をした。

「岸高です」

「え⁉」

詩織が驚きの声を漏らす。

「ついでにですが、他の東京の学校が宿泊するホテルはこことここだけでした」

印を入れたところは智菜が予測した場所とは違う場所だった。

「そのAIの判定が間違える可能性は?」

塚本刑事が聞く。

「智菜、どうなんだ?」

僕はスマホをみんなに向けて言った。

『その心配はいりません。この一二個の中から爆発する確率は‥‥‥一〇〇%です』

さすが坂本が作ったAIだ。

「と、いう事です。僕が今できる推理は以上です」

「塚本、俺の言った通りだろ?」

「高校生とは思えないですね」

「そう思うなら、すぐに報告に行くぞ」

木村刑事と塚本刑事は、部屋を出て行き、会議室に行った。

僕は会議室の映像を見る。

二人が会議室に入って、報告を初めて数分が、会議室が一気に慌ただしくなった。

どうやら、僕の推理で話が進むようだ。

これでとりあえず一歩前進、というところだろうか。

集中して考え込みすぎたからか、体の重みが一気に響いた。

「もう、休んでいいわよ。今日だけでも大手柄だわ」

敬香さんに言われ、僕たちはホテルの部屋に戻り、ホテルのレストランで夕食を取った。

そして風呂に入った。

「はぁ~」

湯船につかって体の疲れが蒸発していくのを感じた。

「春樹は、あれで満足しているのか?」

坂本が隣で話し始めた。

「いや、まだだ。まだ犯人が分かってない。あそこに書かれていた、リバス。あれは何を示しているのか。それにあの文章自体が違和感がある。あの文はまるで私を捕まえろと言っているように感じる」

「そうか。その辺は俺には分からない」

僕は体の疲れが取れてた気がしたので、風呂からあがることにした。

「先に上がる」

「俺はもう少し浸かっておく」

「分かった」

そう言ってから、体の水滴を軽く拭き取ってから、脱衣所で別のタオルで水滴をしっかりと取る。

服を着て、自分の持ち物を持って脱衣所から出た。

髪先から水滴が首筋を走る。

部屋に戻ると、誰もいないので静かだった。

僕はベットに身を投げた。

体がやたら熱く感じる。熱が体の中で籠っている感じだ。

僕はそのまま眠りにつきそうだった。

すると

「いやー気持ちよかったよね」

「うん」

二人が戻ってきた。

「お兄ちゃんもどうだった、ってお兄ちゃん⁉」

詩織が驚くように僕を呼んだ。

いや、驚いている。何にだ?

僕は体を起こそうとする。だが全く動く気配がない。

「春樹は、推理に精神を削ったんだ。のぼせても仕方がない」

すると坂本も戻ってきたようだ。

すると僕のスマホにメールが届く。

僕はスマホの画面を開く。

『容疑者が割り出せた。だが人数が多い。何か分かったら連絡くれ。無理はするな』

木村刑事からだ。

僕は写真も見る。

頭がまともに働かないせいで、容疑者が全員で二五人なのしか分からない。とにかく人数が多すぎる。

「お兄ちゃん、もう考えるのやめて明日にしよう」

詩織が僕のスマホを取り上げた。

「智菜‥‥‥そのデーターを‥‥‥共有しておいてくれ」

どこか情けなく漏れるような声で僕は言った

『了解です』

僕は智菜の声をしっかり聴き終わる前に眠りについた。


      ************

「容疑者が分かったんだから、考えたら?」

目の前には智夏がいた。

「しばらく大きな事件は起きないと嘘をついたのは誰だ?」

嫌味のように智夏に言った。

「それはごめん。でもこれで私が未来から来た人ではない事が証明できた」

「そんなもの、幾らでもできると思うが?」

「それより、事件事件」

話を逸らされた。

「まだ、爆発場所しか分かっていないじゃないか。それでどうしろと?」

「だから容疑者が分かったんだから、起きて考えたら?」

        

        ************

「——ッ⁉」

僕はベットの上で目を覚ました。

体を起こすと、隣では坂本が寝ていた。

別のベットには詩織と唱が寝ていた。

時刻は三時二四分。

まだ日が昇っていな時刻だ。

僕はベットから降りて、スマホを開く。容疑者の詳細が書かれてある。

僕は少し前の出来事を思い出す。

『春樹は、あれで満足なのか?』『容疑者が分かったんだから、起きて考えたら?』

確かに二人が言うように、僕はどこかで満足している気がする。

考えることを止めている気がする。

「考える‥‥‥かぁ‥‥‥」

語尾はため息も混じっていた。

すると、唱のカバンに目に入った。

大量のルービットキューブ。

「あのバカ親は、余計な事しかしないのか」

僕は頭をポリポリと掻きながら、大量のルービットキューブのうち、一番マスの多いものを取る。

新幹線で唱が解いて欲しいと言っていたものだ。

僕はホテルの部屋の奥、引き戸を開けると外の景色が見える場所がある。引き戸を閉めて僕はそこにある椅子に腰を下ろす。

ルービットキューブをいろいろ観察をする。

大きく息を吸って、手を動き始める。

同時に事件の事も考える。

カシャカシャカシャカシャ‥‥‥

場所は特定できた。あとは犯人。容疑者は二五人。全員小さな組織に所属している。そのうち一人はその組織のリーダー。

リーダーは指示だけをすると考えると残りは二四人。

全員が犯人になるとは限らない。

それに紙に書かれた内容。あれは一人の人が書いたもの。書いた本人はリバスと名乗っていた。リバス、外国人の名前だろうか。それにしては考えが浅すぎるな。

ローマ字にするとRibasuになる。

ローマ字‥‥‥ローマ字‥‥‥英語?

リバス、そんな感じの単語はあっただろうか。

英語と言えば、裕奈は英語がボロボロだったな。

スペルをそのまま読むなんて。確かに初めて見る単語だとそうなるのは仕方がない。

僕もそうだったからだ。

小学生の時を思い出す。

「ふっ」

昔の自分を鼻で笑ってしまった。

その瞬間、頭が真っ白になった。

だが手は今も動く。

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ‥‥‥カシャ!

ルービットキューブが完成した瞬間。

「スペルをそのまま‥‥‥リバス、Ribasu、Ribas?——ッ!

Ribs!‥‥‥そうか!そういう事か。つまり犯人は全員!」

僕は急いで木村刑事に連絡をした。

そして、現在の時刻は四時三六分。その約一時間三〇分後の

六時に僕たちは別室の部屋ではなく、会議室に集まった。

「始めさせてもらいます。まず、この東京の警察に届いた紙を見てください。ここに書かれたリバス。これは、この事件の真相にたどり着くカギです」

今まで静かだった警察官たちがざわめきだした。

「これを英語に読み替えるのです」

さらにざわめき始めた。

ただこの言葉だけでは答えにはたどり着けない。

「ただ英語で読むのではありません。小学生に戻ってみてください。初めて見る単語を発音するとき、どんな風に発音しますか?

リバス、Ribasu、uを消して、Ribas、リバース。更にaを消すとRibs、肋骨になります」

「そうか、スペルをそのまま読むんだ!」

詩織の声が響いた。

詩織はあっと気が付いて顔を真っ赤にして伏せた。

「そうです。肋骨とは肺を守っている骨です。肋骨の骨は全てで何本ですか?」

質問をした。答えが返ってこなかったので木村刑事を指名した。

「二四本だ」

「そうです。容疑者二四人が犯人です。しかし考えてみてください。この人数が一斉に動くには指揮をする人間がいる。だからプラスあと一人必要だ」

「全員で二五人」

僕がそう言った瞬間、一気にざわめきだした。

「つまり、容疑者全員が犯人です。そして、爆発場所は先日木村刑事から説明された場所。時刻は午前中までです!」

一気に警察の人たちが動き始めた。

説得はうまくいった。

だが、僕自身、どこか納得していない部分がある気がする。

どうしてだろうか。何に違和感を感じているのだろうか。

この時仁先輩がいれば気が付いていたかもしれない。

後悔する事になることに‥‥‥。

「君たちも、準備をしてくれ」

「分かりました」

僕たちはホテルに戻って、木刀を持った。

「やっほー、来ちゃった」

裕奈と出くわしてしまった。

なんで僕たちの場所を知っているのかは後で唱か、詩織に聞くとしよう。

「悪い、僕ら今から用事があるから、坂本で我慢してくれ」

「おい、春樹。ふざけるな」

「本当?ありがとう!」

祐奈が坂本の腕に抱きついた。

「そういうことだ」

そう言って僕らは、爆発する場所へ向かう。

警察たちは車で移動していた。もちろんサイレンは鳴らしていない。

木刀を木刀袋に入れ肩に掛けて、僕らは京都の街を走りる。

ホテルの着いたのと同時に警察たちも準備はできていた。

防弾惹起をスーツの下に装着していた。

早速、ホテルに入る。

もちろん自然に。僕たちは岸高の生徒と出くわしたら厄介なので、裏口から入る。そこから一回のフロアを張り込む。

一回の大フロアには岸高の三年生全員、集合していた。

今は生活指導の先生の話をしていた。狙うなら今だろう。

僕は周りを見渡す。

『全爆弾、排除完了です』

智菜からの報告があった。

智菜の予測通りの場所に爆弾があったのだろう。

さすが坂本が作るAIだ。

「了解」

智菜に返事をした。

「怪しい人はいるか?」

『まだ、見当たりません』

智菜は近くの防犯カメラから犯人を探してもらっている。

僕も警戒を怠らない。

受付や、部屋の側の廊下、色々見回す。

すると、廊下から歩いて来た、男が受付に寄った。

部屋の鍵を返していた。

「智菜!受付にいる男を調べろ」

『春樹さん、あの人は容疑者の一人です』

「了解」

スマホを取り出し、電話をした。

「木村刑事、受付の男が容疑者の一人です」

すると、また奥から鞄を持った男が来た。その男は受付にいる男と何か話していた。

「さらに一人来ました」

『了解』

ホテル内には二人。男が鞄を開けながら、岸高の生徒が集まる場所へ近づく。

木刀を取り出す準備をした。

男はカバンから黒色の何かを取り出しては、それを掲げ、ホテルを騒がせた。

「動くな!このホテルに爆弾を仕掛けた。死にたくなかったら、大人しくしろ!」

男は数発、発泡をする。

三年生の先輩たちは悲鳴をあげる。

もちろん、先輩たちだけではなく、近くにいた人、ホテルのスタッフ。

すると、入り口からゾロゾロと他の容疑者達が入ってきた。

全員、銃を持っていた。

『三、二、一、突入!』

木村刑事の指示で警察全員が動き始めた。

僕たちも行動を開始した。

「警察だ!銃を捨てろ!」

警察全員が容疑者たちを囲み、容疑者たちに銃口を向けていた。

僕たちは即座に容疑者たちを気絶させていく。

「クッソ!」

一人の男が岸高の生徒の頭に銃口を押し付けていた。

僕たちは動きを止めた。

「こいつがどうなっても良いのか?」

銃口を押し付けられている生徒は涙目になりながら震えていた。

さっきまで使わずにいた木刀を握り、構える。

そして、男に襲いかかる。

最初に男が持つ銃を狙って薙ぎ払う。さらに男から生徒を離すために、内肘を木刀で突き、右肩を蹴った。それを体が宙に浮いている間の二秒以内でした。

男は銃を落とし、尻餅をついた。

僕は人質となった先輩の前に立つ。先輩は友達のところに戻って行った。

数分後、無事容疑者たちは逮捕された。

「春樹」

唱が僕を呼んだ。

「気づいたよな」

何に気がついたかと言うと、容疑者の人数だ。

二五人いるはずの容疑者は一二人しかいなかった。

一二人・・・・・・肋骨の本数は二四本。つまり、肺一つにある肋骨の本数。

僕はミスをした。

「急ぐぞ!」

唱と詩織に言って、ホテルを出る。

あの時感じていた何か足りない気がしたのは、このことだろう。

なぜ、その時に考えなかった。なぜ、疑問を疑問のままにした!‥‥‥。

僕たちは坂本たちがいるホテルへ走る。


          ************

何でこんなことになった。

「坂本君、聞いてる?」

裕奈が俺の腕に抱きついてきた。

「や、やめろ!」

急いで彼女から距離をとる。

「もう、連れないですね。飲みのも買ってきます。ついでに何か欲しいもの有れば買ってくるけど」

「何もいらない」

裕奈は、分かった、とだけ言って飲みのものを買いに行った。

やっと一人になれた。

春樹の推理が間違っているとは思わない。だが、何かが足りない。

何かを補足しなければならない。

肋骨、二四本、それをまとめるリーダー。プラス一人の二五人。

犯人の狙いは東京の修学旅行生。

「場所は東京の修学旅行先、京都。日付は今日」

それにしてもすごい推理力だ。

犯人の動きが全くない中、ここまで推理したものだ。

智菜を最大限に活用してもここにたどり着けるのは春樹だけだろうな。

ただ、春樹もそうだと思うが、この推理には何かが足りない。何かが抜けているんだ。どこからに盲点が有るはずだ。

この文章の中にあるかもしれない。

どこだ‥‥‥どこにある?‥‥‥

何度も何度も読み返す。

「場所は東京の修学旅行先、きょう‥‥‥と‥‥‥」

何かを感じた。違和感が生じるこの言葉。

何度も同じところを読み返すうちに気がついた。

「そうか‥‥‥だ」

俺たちはミスをしてしまった。

なぜ、気が付かなかった。肋骨で気が付きべきだったんだ。

肋骨は肺を守る骨。春樹の言うとおり肋骨が人ならば、肺は‥‥‥


          ************

「僕の推理には抜けていたものがあったんだ」

走りながら説明をする。

「なにが抜けているの?」

詩織が疑問に思う。

確かに僕の推理は間違ってはいない。だが、一〇〇点満点で言うと九〇点だ。

一門五点の問題を二つミスをしてしまった。

一つ分かっていれば、もう一つは必然的に溶けてしまう問題。

それにさえ気が付くことができれば、こんな事にはならない。

「なにが足りないの?」

唱が尋ねてきた。

「肋骨は確かに犯人の人数を表している。それは間違ってはいない」

「なら、他に何が足りないの?」

詩織が疑問になる。

「肋骨はで二四本だ。肋骨は一つの肺につき、一二本だ」

二人は考え込むがなかなか答えが出てこない。

「一二と一二、つまり爆弾は二カ所に別れてある。肋骨が人。ならば肺は?」

「爆弾」

唱が恐る恐る口を開く。

「そう言うことだ」

「じゃあ、その二カ所目は?」

「それが二つ目の問題。いや、問題と言うより勘違いだ」

あの文章をしっかり読むべきだった。だから僕は勘違いを起こしてしてしまったのだ。

あの文章には確かに東京の学生を狙うと書いてあった。それを僕は勝手に東京のを狙っていると勘違いをしてしまった。

「本当の犯人たちの狙いは東京の学生だ」

「それってつまり」

詩織は声を震わせながら言った。

「ああ、僕たちも最初から狙われていたんだ」

そして、もう一つ。二つの肺は気管によって繋がっている。

そっちの心配は無さそうだろう。今頃坂本も気が付いている頃だから。

「急ぐぞ」

僕たちがホテルに着いたとき、まだ騒ぎは起きたばかりだったようだ。

銃を持った男たちを全員気絶させた。

「お兄ちゃん、一二人ちゃんと気絶させたよ」

一二人?一人足りない。

辺りを見渡すと、奥に誰かが逃げていくのが見えた。

僕はその人を追った。

二人も後から付いてきた。

追っていた人は角を曲がって階段への方へ行った。

確かこのホテルは地下に行くにはその階段か、奥にあるエレベーターに乗らないと行けない。

つまりあの人に、逃げ場はない。

階段を下りたその先には‥‥‥誰もいなかった。

「見失った?」

詩織が辺りを見渡す。

見失った?いや、どこかに隠れている。

俺は聴覚を集中させた。

――ッ!後ろだ!

僕は振り向くとさっき追っていた人は階段をすこし上っていた。

だが‥‥‥

「裕奈さん!」

詩織が叫ぶ。

そう、裕奈が人質になっていた。

「動くな!」

追っていた男の人は一段ずつゆっくりと上っていく。

僕が木刀を握り、男に襲いかかろうとしたとき

「上を見ろ!」

僕が叫ぶと男は上を向いた。

「なッ!?」

男は上を見た瞬間驚きの声を漏らしながら尻餅を付いた。

それと同時に男が人質にしていた裕奈は男に突き飛ばされる。

僕は即座に裕奈が怪我しないように受け取る。

そして、金属音が響いた。

よく見るとレンチだった。

さらにまた何かが落ちてきた。

いや降りてきた、と言うのが正しいか。

「汚い手で触るな」

坂本、少し怒っている。

「はは、ははは、ハハハハハハハハハハハハハハハ!残念だったな!俺の目的はすでに達成したんだよ」

そう言って男が何かを取り出した。

何かのスイッチだ。

僕は即座に理解した。あのスイッチは爆弾のスイッチだ。

男はすぐにスイッチ押した。

だが、何も起こらない。

「な、なぜ、なぜ爆発しない!」

男が何度もスイッチを押しているが何も変化がない。

「爆弾の場所は二カ所。岸校が宿泊したホテルとこのホテルを管理しているのはある会社と会社が組み合わさった会社。二つのホテルが繋がる場所。ホテルの本部にも爆弾を付けたんだろ?」

僕は男に尋ねた。

「な、なぜ、それを‥‥‥」

男は唖然としていた。

「文章に書いてあったリバス、肋骨と言う意味になる。それが人。肋骨が守っているのは肺、それが爆弾、その二つを繋げている気管。それが二つのホテルの本部。という推理だ。あっているだろ?」

男に答えを聞いているのだ、男は話の内容を理解していなさそうだった。

「とりあえず、警察が来るまで待っておこう」

そう言ってから数十分がたった。

木村刑事にはさっき起きたことを報告して、テロが未然に防ぐことができたことも報告した。

事件の後処理を木村刑事に任せることにし、残りの時間を京都のお土産選びやら、観光地を巡ったりなど、自由に楽しんだ。

僕は唱や詩織に振り回されたのだ。同様に坂本は裕奈に振り回されていた。


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