第7話

『残りのチーム数は四チーム。一番、二番、三番、三四番、です』

詩織を中学時代にいじめていた彼女が控室に運ばれてからそうアナウンスが入った。

「いや~、お見事やな」

と拍手をする一人の男が僕たちに近づいてきた。

「こんにちは。俺らは京都代表、チームナンバー三番。あんたらを倒しにきた」

とリーダーらしい人が僕たちに言い放った。

「東京代表?チームナンバー三四番です」

「いや、なんで疑問形やねん。東京の三武会で勝ちぬいたんやろ?ならもっと自信持たな」

何だろう、何となく面白うそうな人だ。

「三武道大会なら、優勝しましたよ」

「なら、代表としてもっと胸張らなあかんで」

「でも僕たちまだ高校生ですから。あまり調子乗らない方がいいと思ったんです」

「へぇ、高校生なん?道理で小さい訳や」

「どうもです」

僕は自分が小さいことは自覚しているので何も言い返さない。

「あれ?普通は怒るとこやけどな。あんたもしかして、あんまり怒らんタイプか!」

「いや、怒るも何も、感情が無いので」

僕は彼に言うと

「は?」

彼はキョトンとする。

まあ、最初はそういう反応になるのも仕方がない。

「いやいや、感情あらへんて、どういう事や。——!もしかしてあんた、東京の国際科のある高校の学生やろ。無感情推理をする」

「そうですけど。それがどうかしましたか?」

「マジで⁉本物?本物⁉」

と何とも言えないテンションの高さに僕はどうしたらいいか分からない。

「ちょ、ここにサインして!」

とペンと木刀を差し出す。

なんでポケットにペンが入っているのだろか。

とりあえず、言われた通りサインを書くことにした。

僕はペンを受け取り

「この辺に書いてくれ」

と持ち手の部分を指したので僕はそこにサインを書く。

だが、僕がサインを書く前に木刀は僕の顔に向かって歩いてくる。僕はそれを避ける。

「チッ、よけよった」

彼は言った。

「サイン、どうします?」

「あとで貰うわ!」

怒られてしまった。

つまりサインが欲しかったのは本心なのだが、僕たちに勝つのが優先されたようだ。

周りを見ると、坂本が一人。詩織と唱で一人を相手をしていた。

「よそ見してる、余裕があるんか?」

と言いながら背後から大きく振りかぶってきた彼。

「なあ、一つ聞きたいことが有る」

彼が振りかぶった木刀は地面から数cmで止まっていた。

僕は彼の背後に回る。

「いつの間に?」

「少し前から」

僕は彼の質問に答える。

「それで聞きたい事ってなんや?」

「京都の名物ってなんだ?」

「なんや、修学旅行に京都に来るんか?」

「まあ、そんな感じだ」

「いいで、ならこれが終わったらメアド教えてくれ」

「悪用禁止ですよ」

「自慢ならいいやろ?」

「分かりました」

と木刀で切り合っているとは思えない事態になった。

「あと、京都で危険な人物、組織ってありますか?」

「ん?まあ、おるっちゃおるで。でもそいつら俺らでも潰せるから、ゆうて危険って程じゃないで。小規模な不良組織みたいなのが三つほど。何?もしかしてそいつらがなんかの事件とかかわりがあんのか?」

「いえ、ただ知りたかっただけなんで。暇だった時どうしようか迷っていたんです」

「へぇ、君が暇になることはないと思うで」

「どうしてですか?」

「正直どっちがタイプなん?お兄さんにうてみぃ」

何の話かと思えば、そんな事か‥‥‥。

「最初に言いましたよね。僕に感情はない、と」

「せやけど、気になるやん」

「なりません」

「なるって」

「なりません!」

「なるって」

と言い合いしながら木刀がぶつかり合う。

「まぁ、話はまた後で。そうゆう事で、あとで会いに来てな。メアドがないとお互い、困るからな」

「分かりました」

とそこから、彼は本気で僕を倒しに来た。

彼は僕を五割も本気で戦わせた。今まで三割程度だったのだが彼一人で、そこまでの実力。

ただ、僕たちが問題児で運動神経がよく、一般人ではない。

それが今回の勝敗を決めた。

『チームナンバー三番、全員気絶。よって、チームナンバー三番は脱落とします』

アナウンスが入った数秒後。彼らは控室へ運ばれていった。

『チームナンバー二番。一名両足両腕骨折により、戦闘不能。他の二名は肋骨骨折、複雑骨折の可能性があり、重症と判断。よってチームナンバー二番は脱落とします』

つまり、次の勝負が優勝を決める。

「——ッ!」

僕の背後に急に誰かが立っていた。

木刀が走ってきた。

僕はそれを避けて、誰かから距離を取る。

「あれ、外しちゃった」

その声は穏やかだった。

「どうも、チームナンバー一番。つまり去年優勝したチームです」

僕たちはそれを聞いて驚く。

「え、番号って適当じゃないの?」

詩織が驚く。

「そうだよ。番号は去年の順位つまり、東京は去年は三四位やってん。そうこの前まで雑魚の分際やったのに、一〇〇人相手を、木刀なしで全員気絶?訳の分からんと思ったけど、納得したわ。

あんた、能力者やろ」

「能力者?それは、人として不可能な事が出来ることの事か?」

「ええ、それを私たちは能力、それを扱う物を能力者と呼んでいるの」

彼女は優しそうな声で言った。

「ちなみに私の能力は」

そう言って彼女はまた、僕の背後に回った。

そして、木刀を僕の脇腹を狙ってきた。

「君の能力は未来視?それとも時間止めたような速度で動くことが出来る能力?どれかな?ちなみに私は時間を止める能力だよ」

わざわざ、能力を言ったのは罠か?

とりあえず、邪魔を排除しよう。

僕は彼女以外を気絶させた。

「まあ、私の仲間を一瞬で。分かったわ。あなたは超速移動の能力ね」

とまだ余裕を見せる彼女。

「一つ聞くがあなたの能力は本当に時間を止める事なのか?」

僕は彼女に尋ねる。

「ええ、そうよ」

彼女はそう言って、僕の背後に回っていた。そして、また脇腹を狙ってきた。

僕はそれを避ける。

「私は歩いて君の背後に回ったわ。ま、そう言って君たちには分からないでしょうね」

彼女の言葉を聞いた瞬間

僕は‥‥‥僕たちは、勝利を確信した。

「残念だな。あなたの負けです」

僕はそう言い放った。

「は?意味がわかない。まだ、私を本気にさせてないのに、なんで私の負けが決まったの?まぁ、いいわ。すぐに終わらせてあげる」

そう彼女が言っている間に、彼女の背後には坂本がいた。

坂本は木刀を大きく振りかぶる。

「くッ⁉いつの間に」

彼女は驚く。

だが、驚くにはまだ早いだろう。

詩織と唱が彼女の側面に立ち、同時に木刀を振る。

「チーム全員、超速移動の能力を⁉なるほど、それで私に勝ったつもりになるのはやめて欲しいわ」

そう言って、少し焦りを見せ始めた彼女。

僕たちは全力で彼女を襲い掛かる。

だが、僕たちの攻撃はかすり傷しか与えられていない。

僕たちは一旦距離を取る。

みんな息が荒い。

「さて、終わりにしましょうか」

彼女は、彼女自身だけが勝利を確信している。

だが、それは僕も同じだ。

いや、僕たち全員が勝利を確信している。

なら勝つのは‥‥‥


************

意外と厄介なチームだ。

全員が能力者だなんて初めてだ。

でも、どれだけ速く移動できても、私は時間を止めることを出来る。なら勝つのは私だ。

私は能力で時間を止めた。

コツ、コツ、コツ

私の足音だけが響く。

彼らとの距離は縮まる。

私は一〇〇人相手をもろともしない彼の前に立つ。

彼は私が時間を止める前に攻撃しようとしたのだろう。

体が浮いた状態で停止していた。

「ふッ、楽しかったわ」

私は彼のお腹を狙って突きを入れる。

彼の体が私の突きによって押し込まれ‥‥‥ない‥‥‥。

「ど、どうして。まるで幽霊じゃない。なんで物体が通り抜けるの?」

彼の体に突いたはずの木刀は、彼の体を通り抜ける。

「なんで?なんで?なんでなんで!」

「それはあなたが勘違いをしているからだ」

不意に背後からさっきまで聞いていた声が耳元でした。

私は振り返るとそこには、彼がいた。

「な、なんで動けるの?」

「だから、あなたが勘違いをしているからだ」

彼は答える。私は何を勘違いをしたのだろう。

「私は‥‥‥私は何も間違っていない」

私はそう彼に言う。

何も間違っていない。考えても考えても思い当たることはない。

「最初から、あなたは勘違いをしている」

彼は言った。

最初から?最初ってどこからよ。彼と戦い始めた時?違う。

大会が始まったとき?それも違う。

じゃあ‥‥‥じゃあ‥‥‥

「じゃあ‥‥‥どこから間違っているの?」

「あなたが自分の能力を知った時だ」

私が、能力を知ったとき。

私がこの能力に気が付いたのは小学生の時だった。

野球をしていた男の子たちのボールが私に当たりかけた時に、その時自分の能力に気が付いた。

「あなたは時間を止めることはできない」

彼の衝撃的な言葉に私は何も言えなかった。

ありえない。いまだって実際に時間が止まっているはず。

でも、彼は時間が止まっている中、こうやって私と話をしている。じゃあ、私の能力は何なの?

だ」

彼は私の心を読んだように答える。

「空間の錯覚?」

「そうだ。これを見てみろ」

これは自分の腕時計を見せる。最新機種の腕時計。デジタル表示している時計の秒数は今も動いている。

「どういう事?」

「あれを見たら」

彼が指す方を見る。彼が指したのは時計だった。その時計も秒針が動いている。

「時間が‥‥‥止まって‥‥無い?」

「そうだ。最初僕たちは本当に時間が止まったような感覚で襲われた。だが気が付いたんだ。時間が止まっていない。動いている事に。あなたがあの時、僕の背後まで歩いてきたと言った。あなたの歩幅なら、あの距離は二〇歩程度。三〇秒程度かかる。

そして、僕はあの時計が見えるところで、あえてあなたの能力を使わせた。僕の推理は正しく、時計は三〇秒先に動いていた。

そのことを踏まえて考えると結論はただ一つ。あなたが自分の能力を勘違いをしている。そして、その能力は空間の錯覚。ただそれだけだ。ライブ映像で見ている人から見れば、僕たちが急に動かなくなって、あなただけが動けるように見えるだろうな」

「じゃあ、これは何なの?」

私の質問に彼は

「それはただの残像」

と即答した。

「どういう事‥‥‥なの?」

「僕たちが錯覚をしているのなら、当然あなたも錯覚をする。簡単な話だ。僕たちはあなたが時間を止めて背後に回ったように感じる。あなたは僕たちが止まったように感じる」

「どうする?もうあなたの能力は僕たちには通じない。それでも木刀を握るのかい?」

彼は優しい声で私に問いかけてきた。

「私は‥‥‥私は!まだ諦めない!」

私はそう彼に告げる。

たかが能力の勘違いで諦めてたまるか。


************

彼女との戦いが再び始まる。

彼女は能力を使う。だが

『一、二、三、‥‥‥』

と智菜が数を数えることで錯覚であることを自覚する。

そして、彼女の背後に回って木刀を振る。

だが、その攻撃は彼女に防がれる。

だが、僕は即座に移動して攻撃を仕掛ける。

その攻撃も防がれる。

それを続けていると、彼女の隙は時間とともに大きくなっていく。

僕は大きくなっていく隙を逃さず軽く攻撃をする。さらに隙を大きくさせる。

そして、彼女は木刀を握ることが出来ないほど体力を削り、木刀を落とし、立つことを止めた。

「私の負けだ」

『チームナンバー一番。二人気絶。多少の軽傷が見られる。一人投了。よってチームナンバー一番は脱落となります。

チームナンバー三四番、優勝となります。

これにより、選抜大会を終了とし、のちに賞状式、閉会式を行います』

とアナウンスが入った。

僕たちの優勝が決まった。だが‥‥‥

「一つ聞くが、あなたの職業は?」

僕は彼女に尋ねる。

「一様、大学生。でももう何ヶ月も行けてない」

「それは今までの大会賞金で生きて行けると思ったからか?」

「ええ、そうよ」

「なら、来年から僕の高校が大学付属高校に変わるんだ。その大学に入る気はないか?」

「あなたがスカウトしていいの?」

「当然試験を合格してもらわないと」

「だよね。でも、なんで私がそこに?」

「僕の家が新しく大きな家に引っ越しをするんですが、なんせ三階建ての一五DLKなんですよ。部屋が余ってもったいなくて。食住で多分月五〇〇〇円になると思う」

「つまり、この大会で私が負けて、その責任を取ってくれると、そういう事かな」

「そういう事です。もちろん今後、この大会に出場を禁止して、学生として過ごしてもらい、就職をしてもらいます。就職して余裕が出てこれば、出て行っても構いませんし、値段は高くなると思いますが、そのまま家に過ごしても構いません」

「わかった。君に責任を取ってもらうよ」

「でも、あと一、二ヶ月我慢してください。家が出来たら連絡します。この後メアド交換しましょう」

「わかったわ」

僕は彼女の手を指し伸ばす。

彼女は僕の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

僕より数cm大きい彼女は、僕よりか弱い体をしていた。

僕は彼女の体を支えながら歩き始める。

「結局、お前だけが暴れただけではないか」

「まあ、今度相手してやるよ」

「ほぅ、随分と余裕そうじゃないか」

「実際僕の方が勝率が高い」

坂本はそれ以上何も言い返してこなかった。

「まあ、いいのだが。お前、春樹の家に来る気ないか?」

と坂本が彼女に聞く。どうやら僕と考えは一緒のようだ。

「ああ、行かせてもらう事にしたよ」

「どういうことだ?」

坂本は混乱をする。

「さっき彼から同じことを言われたんだ」

「なるほど。なら先に春樹、お前は死んでもらう」

「なぜそういう事になる?」

「お前と考えが一緒だなんて死んでもいやだからだ」

「なら、坂本が死んだらどうだ?」

「俺はまだ、自動返信メールが出来ていないから無理だ」

「そんなもの来世でやってろ」

「一度死んだらできないに決まっているだろ!」

「分からないぞ。もしかしたら地球よりさらにハイテクの異世界に転生できるかもしれないぞ」

「どこのファンタジー世界だ!」

と僕たちは言い合いを始める。

その数分後。言い合いは収まり、

「お兄ちゃんってお人好しすぎだと、私は思うな」

「春樹、いろんな女に手を出してる」

と詩織と唱に言われた。

「誤解を生むようなことを言うのを止めようか」

二人の機嫌がこれ以上悪くならないように

「これ終わったら、みんなでパフェに行こう。だから許してくれないか?」

「お兄ちゃんの奢りね」

「春樹の奢り」

「分かっているさ」

優勝賞金の八割は学校に寄付して、残りは家の事に使うつもりだ。なので二人のパフェ代は僕の財布からだ。

今月大丈夫だろうか‥‥‥。


数十分後。

僕たちを含め、選抜大会出場者は閉会式の場へ集まっていた。

その時にチームナンバー三番の京都のリーダー、谷口京谷さんと

チームナンバー一番のリーダー、新谷絵里奈さんのメアドを交換した。谷口さんに関してはサインを書く約束をしていたので、書いてあげた。新谷さんと同じチームだった二人も僕の家に誘ってみたが、就職先が決まっているそうで、断られた。

まあ、断られるのが当然だと思うのだが‥‥‥。

新谷さんの最初のころの口調を聞く限り、ここ数年ずっと優勝していたのだろう。それで調子に乗ってすごく不良っぽい口調なのだが、今はすっかり大学生らしい優しい声になっていた。

『優勝チーム三四番の皆さんは舞台の上に』

と僕たちは呼ばれて、舞台に上る。

そして、賞状と、優勝トロフィー、分厚い封筒、木刀をもらった。

木刀は必要だったのだろうか?と思い木刀を見たところ、木刀には僕の名前が彫られていた。

もちろん坂本の木刀には坂本の名前が、詩織の木刀には詩織の名前が、唱の木刀には唱の名前が

「選抜大会優勝証明書の代わりとして、名前が刻まれた木刀をくれるらしい」

と坂本が説明していくれた。

そして、僕たちは盛大な拍手に包まれた。

だが、その奥から聞こえる悪臭をさせる拍手も含まれていた。

そして、ずかずかと僕らの前に現れたのは

「優勝おめでとう」

この大会の主催者だ。

「ありがとうございます」

主催者に言い放つ。

男は満足そうにお腹を膨らましており、背後には数人の護衛がいた。本当の悪だ。

「君たちには私たちの研究に参加してもらう」

「お断りします」

男の誘いを即断る。

「少し考えてはどうですか?」

「考える気もしないな」

坂本は男に言った。

「そもそも、お前の研究に興味がない。面白味がない」

「ほう、まるで私の研究内容を知っているような口ぶりですね」

男は坂本に挑発をする。

「するも何も――

坂本は袴の襟裏に手を入れ、大量の紙をまき散らす。

「もう、全国に知りわたっているぞ」

「は?」

男は顔を険しくした。

そして、男が坂本がまき散らした一枚の紙を目にしたとたん、男は目を大きく開いた。

「な、な、なな、なぜこれが‥‥‥」

一枚の紙を手に取り、目を通した。

『C三四~八九、失敗による死亡。C九〇~一〇〇、能力覚醒により成功。戦闘機とし、使用予定』

智菜から聞かされていたが、ここまで愚図だったとは。

「お前が、実体実験していたことは、もうすでに世間に広まっている。俺たちがお前に実体実験に付き合う義務などない。それに一五行目」

坂本が言った行を見る。

『C四七、能力失敗により死亡』

と書かれていた。

「報告書は事実だけを書くものじゃないのか?このC四七は当時二七歳女性。死亡原因はショック死だろ?それに二九、三四、三六、四二、四九、五六、六八、八三、九七行目他!全部お前らが犯して殺したんだろ」

坂本は怒っていた。

当然だ。さっき言った行に書かれていた人全て、若い女性で、この男らに汚されて死んでいったんだ。

許せない‥‥‥。

「それがどうした?所詮使えないものだったんだ。どの道、あいつらは殺していた。なら少しくらい私たちをリラックスさせてもらってもいいだろ?当然だ。それまで私たちが育てたのだから」

開き直った男の目は気持ち悪い。

「それに、そこにもいい女がいるじゃないか」

詩織と唱の前にかばう様に立ち

「二人は能力などない」

「何を言っている。超速移動を使っていたじゃないか」

男は彼女らを逃さない事だけを考えているのが分かる。

「当然、僕も彼も能力など持っていない」

「何を今さら言う。さっきまでの戦いを見て、能力を持っていないなどふざけるな!」

男は逆切れをした。

「僕たちは、その超速移動の能力を持っている人の弟子で、その人に能力を教えてもらっただけだ。本当の超速移動はもっと速くて、目に見えない。カメラ映像でどれだけ遅く見ても、その人が移っているのは、最初と最後だけだ」

男は戸惑う様子を見せる。

「ほぅ‥‥‥なら、その人にぜひ会ってみたい」

男がそう言った瞬間、後ろにいた護衛が急に倒れた。

坂本も唱も詩織も僕も、この場にいた全員が驚く。

「もういるが?」

聞き覚えのある優しく、だがあの時とは違う凛々しい声が会場に響く。

「「「「敬香さん⁉」」」」

声が重なった。

どうして敬香さんがこの場にいるのか不思議だ。

だが、敬香さんの姿が一向に見つからない。

だが、僕たちが敬香さんの姿を確認した時には、男に名前が彫られた木刀を首筋に触れさせていた。

音もなく急に姿を現わした敬香さん。

やはり本当の能力には敵わない。

「彼らは私の弟子だ。ただの一般人で能力を持っていない。だから、その超速移動は不可能だが、超速移動風を叩きこむことは簡単だ。だが、習得するのに時間がかかる故、教えるのも簡単ではない。だが、彼らには生まれつきの運動神経と才能があった。だから私の動きを見て、真似するように習得した。だからあなたが見たのはただの生まれつきの才能と運動神経だけだ」

敬香さんは淡々と男に言い放つ。

なぜ詩織がデザインした袴を着ているのかは、分からない‥‥‥。

「警察だ!動くな!」

と今度は敬香さんの夫、木村刑事が来た。

「この大会の主催者、ユリル・ユーミール・正司を誘拐罪、監禁罪、傷害致死罪、殺人罪、能力人体実験罪のうりょくじんたいじっけん人体改造戦兵罪じんたいかいぞうせんへいざい

より、逮捕する」

木村刑事は男が犯した罪が記され、逮捕許可印が押された紙を男に見せる。

男は愕然とする。

その時、男のスマホが鳴り響く。

『警察が、警察が来ました!どうしましょう!」

と慌てた声が僕らにも聞こえた。

男はスマホを着ることなく、床に落とす。

『どうしました?マスター!指示を』

と今もスマホから声がした。

そのスマホを木村刑事が手に取り、

「大人しく捕まりなさい。身元も全て全国の警察並びにその関係者が知っている。逃げる場所などどこにもない」

そう言って木村刑事は通話を切り、男に手錠をかける。

事件は一件落着。

ただ、この事態は予定外だ。

智菜からは、「選抜大会優勝者の能力を利用して、戦兵へと改造をしている」と聞かされていた。

僕たちが狙われたら、その時に対処しようとあらかじめ決めていた。

「どうやら、優勝したみたいだな」

木村刑事が舞台に向かって言う。

「はい、だから僕らを連れて行ってください」

木村刑事に向かって言う。

「それは、私に言う事ではないよ」

木村刑事はそう言いながら、会場から去っていった。

「優勝おめでとう」

今度は敬香さんに祝われた。

「ありがとうございます」

丁寧に言う。僕たちの師匠に。

「でも、なんで警察がここに?」

「おう!どうやら片付いたようだな!」

と吞気に会場に入ってきたのは

「父さん」

そう零す。

「いや~。予想以上に解決が速かったな」

「最初から僕たちを騙したのか?」

父さんを睨む。

「悪かったって。でもこれぐらいやってくれないと、送り出せるわけないだろ。安心しろ、この後近くで祝勝会を開くぞ。好きなだけ食べろ」

「ご飯で、許されると思うなよ‥‥‥」

呆れ気味で父さんに言う。

舞台からこの後、閉会式は無事(?)終了し、祝勝会の場所へ向かう。

「「「「「「「「「優勝!おめでとう!」」」」」」」」」

クラッカーが鳴り響く。

「後輩君!すごかったよ!」

「さすが春樹後輩だ。太助後輩との連携もよかったぞ」

「お疲れ。お前らすごいな!」

「おめでとう。ずっと見ていたよ」

「おめでとうです。やっぱり、本当に問題児らしい戦いだったよ‥‥‥」

「おめでとうございます、春樹さん、太助さん、唱さん、詩織さん」

「おめでとう。やっぱ修正部は桁違いだね」

僕たちを迎えてくれたのは、修正部部員とダンス部の二人だった。

「久しぶりです」

「久しぶりだな。あれから部活はどうだ?」

「部員は今は、12人です。まあ、ほとんど兼部の人なんですけどね」

長谷川は気恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いた。

「あっちも順調そうだぞ」

と話を割って入ってきた仁先輩。

「まあ、幹彦がもっと積極的だったら、もうちょっと進めたかな?」

近藤さんが油を注ぐ。注いだのだろうか?

愛情表現にも見える。

ただでさえ、大会で体が熱いのだから、この場の空気まで熱くさせないでくれ。

「おめでとう」

声を掛けてきたのは

「母さん‥‥‥」

零すようにそう言った。

「お母さん、私たち勝ったよ」

詩織が母さんに言う。

「そうね。見てたわ」

母さんは俯いて、なかなか目が合わない。

「私も、頑張った」

唱も続くように言った。

「うん、見てた」

母さんの声は途切れそうに弱弱しかった。

どう声を掛けるべきだろうか。

勝ったよ。優勝したよ。僕たちを行かせて。どれも違う気がする。だが、何か言わないと

「か、母さん――」

声を掛ける前に、母さんに抱き着かれた。

暖かさを感じだ。

母さんは僕の胸の中で涙を零した。

そうか――。今一番言わないといけないもの。

僕たちの思いをすべて込めて

「行ってくるよ」

「春樹の、春樹たちの居場所は、いつまでも春樹たちの居場所。私が守っているから。母親だから。守って待ってる。ちゃんと帰ってくるのよ」

母さんは顔を見せることなくそう言った。

この中で一番僕たちを心配していたのは母さんだ。

「大丈夫だから。安心して待っていて」

何のことか分からない先輩たちは、オドオドしていた。

「じゃあ、みんな!盃を持ったか?なら、春樹たちの優勝を祝って、Cheers!」(乾杯!)

「「「「「「「「「「「「「

           Cheers! 

                」」」」」」」」」」」」」

                        (乾杯!)

ガラスの音と祝勝の声が響き渡った。

そこから、記憶は曖昧だった。

大会の疲れで祝勝会では舞い上がっただろう。

次に目を覚ましたのは、翌日の朝、ベットの上で。

確か祝勝会には途中で木村刑事、新谷さんが祝勝会に参加した。

新谷さんは今回のメンバーと少し話をしてきたそうだ。

それから、確か‥‥‥思い出せない。

「お、目が覚めたか?」

「おはようございます」

仁先輩が部屋に入ってきたので、体を起こしながら言った。

「早起きですね」

「春樹後輩が心配でね。調子はどうだ?」

「どう、とは?」

仁先輩に質問されたのか、その質問にいまいち理解が出来なかった。

「春樹後輩、祝勝会の途中で、倒れたんだよ」

なるほど、それで記憶がないのか。

「まあ、お母さんが春樹が倒れる事は分かっていたみたいで、負ぶって帰って行ったんだ」

「その言い方だと、僕が倒れても祝勝会は最後まで行ったと」

「ああ、気にせず、楽しんでねって、お母さんが言ったんだ」

「なるほど、母さんらしい」

何となくそういう母さんの想像ができた。

それより

「仁先輩、お酒飲みました?」

「臭うか?」

「はい」

「実は、間違えてお父さんのお酒を飲んでしまったんだ。それで軽く酔って、更に飲んでしまった」

なるほど、多分それお父さんが悪いわ。

絶対父さんの故意で仁先輩にお酒を飲ませただろう。

「まあ、寝たから大丈夫だろう」

※未成年はお酒を飲んではいけません。

良い子は気を付けよう。

心の中で走つぶやいた。

「昨日の事だが、春樹後輩、何か隠しているな」

「そうですね‥‥‥。隠してますよ」

昨日の母さんとの会話を聞けば大体、察しが付くだろう。

僕たちが大きな事に関わっている事。

「俺らは修学旅行でいなくなる。無理はするなよ」

「詮索、しないんですね」

「どうせ、竜弥さんに口止めされてんだろ?なら詮索もクソもないだろ」

「ありがとうございます」

仁先輩は僕の部屋から出て行った。

そうか‥‥‥今日‥‥‥修学旅行当日か‥‥‥。

ん?今日‥‥‥修学旅行当日‥‥‥という事は僕は昨日丸一日寝ていたことになる。

そして、今日は月曜日でもある。

つまり僕たちも京都に行く日だ‥‥‥。

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