第6話

部屋に戻った僕たち。

「いや~、美味しかったね~」

とベットに座り込む詩織。

「うん、満足」

お腹を一杯になった唱は、本当に満足そうな顔をしていた。

「じゃあ、あとはゆっくり休むだけだな」

僕はそう言いながら、あらかじめ泊まるために準備をしていた荷物を取り出す。

「僕は風呂に入ってくるよ。坂本はどうする?」

「なら、俺もついでに入る」

僕と坂本は風呂の用意を持って、男子風呂へ向かう。

「そういえば、このホテル、混浴があるそうよ」

といきなりどうでもいい話をしてきた唱。

「そんなのどこで知ったんだ?」

「さっきトイレに迷ったとき、女の人と男の人が一緒に出てくるのを見たわ」

なんだか怪しい感じがする。だが、その先が気になる。少なくとも唱はその先が聞いて欲しい顔をしている。

「それで二人はどうしたんだ?」

僕の質問に唱は

「激しいプレイをしていたわ」

やっぱり聞くんじゃなかったよ。

僕はもっと純粋にイチャイチャしているものだと思っていたのに、その先を行ってしまっていた。

小説のネタになると思って‥‥‥。

「というか、それを唱は見ていたのか?」

「ううん。見てて、恥ずかしくなって、逃げたわ」

うん、純粋な反応でよかったよ。

そのまま、最後まで見ていた、とか言い出したら真面目に僕は唱を修正しないといけなくなっているところだった。

それより、このホテルに泊まって大丈夫だろうか。

不安しかないのだが‥‥‥。

僕たちはそのまま、大浴場で全身を洗い、大会で掻いた汗を洗い流す。

女子たちは僕たちがいる場所の壁の向こうにいるはずだ。

とまあ、中学の時に、修学旅行で覗きをするバカがいたことを思い出しながら僕はお湯につかる。

丁度いい温度なので体の疲れがどんどん抜けていく。

「そういえば、坂本ってパソコンばかり見て、視力落ちたりしないんだな」

「時々視力は落ちるが、トレーニングして視力を回復させてはいるぞ」

視力が回復することに驚く。

最近、僕もパソコンを触る頻度が増えて、視力が落ちないか気になっている。

「まあ、遺伝子的に視力は落ちにくい体質なんだがな」

確かに、バカみたいにゲームしている人が、なぜか自分より視力が高い人がたまにいるのを思い出す。大地とか‥‥‥。

「それより、作戦を変更はないな?」

「ああ、そのつもりだ」

事前に考えた作戦を坂本は再確認をした。

「なら、あれは完成した」

「そうか。ありがとう。そこに智菜は入れるよな」

「当たり前だ」

「さすが天才プログラマー」

「舐めるな。こんな事、晩飯前だ」

「おお、陽が上る前に完成させたのか」

と坂本は当たり前のように、自慢をする。

「それより、良いのか?今からでもポジションは変えられるぞ?」

と坂本が僕に尋ねる。

一見、僕の事を心配しているように聞こえるが、実際のところそうではない。

「大丈夫だ。坂本より、僕が強いことはもう証明された。心配しなくていいぞ。坂本は二人を頼むぞ」

「そんな事を心配しなくても、俺はお前の役目を代替しても大丈夫だぞ。それぐらい俺は強いからな」

「なら、その強さを二人を守ることに是非使ってくれ」

「いやいや、そもそも俺より強い春樹だ。だから、お前が二人を守った方がいいじゃないか?俺でも無双することは容易だ」

「いいや、大丈夫だ。坂本なら僕と同等の力があるから二人を確実に守ってくれることは確信している。だから、僕が無双してくるよ。その方が、効率がいいだろうし」

「いやいや‥‥‥

とまあ、このまま僕たちはのぼせるまで言いあう事になった。


一方女子風呂にいる二人は――

「あっち、騒がしいね」

詩織が男子風呂に向かって言った。

「多分、ポジションで言いあってると思う」

「確かに、この前の作戦会議でも言い合ってたしね」

と二人が言い合っていたのを思い出す二人。

思い返せば思い返すほど、どうでもいい争いをする二人の姿は見飽きるほど長いことを思い出し、呆れてしまう。

そして、詩織は軽くため息をつく。

「仲がいいのか悪いのか」

「They are close enough to fight」(喧嘩するほど仲がいい)

「Certainly‥‥‥ . That's what those two can say」

(確かに‥‥‥あの二人ならそう言える関係だね)

詩織は納得してしまうほど、あの二人は喧嘩をする。

「出場チームは全部で四七チーム。そのうち二三チーム程、ゴミ中のゴミ。雑魚の塊って智菜は言っていたけど大丈夫かな」

「大丈夫だと思う。春樹の父さん十四位だったから」

「確かに、お兄ちゃんはお父さんの何一〇〇倍も強いからね」

「本当に隙が無い‥‥‥」

「鈍感なのを覗けば、だけどね‥‥‥」

そして沈黙が流れる。

二人は大きくため息をついた。

「お兄ちゃんは、感情は戻るかな?」

「この前、本気で怒っていた」

「確かにあの時はお兄ちゃんも自覚していたみたい。あれが怒りだってことに。けど怒りがどんなものなのか思い出せないってこの前言ってた」

「多分、それは本当に春樹の感情が、春樹自身が怒ったからだと思う」

唱のいう事は一理ある。本当に怒ったとき、それを思い出すことは難しい。詩織もそんな体験はないことはない。

「詩織?」

唱が詩織の険しい顔を見て心配する。

「あ、ごめん。ちょっと昔の事思い出して」

「それって、いじめられていたころのことの?」

唱の鋭さに驚き、「いじめ」という単語の詩織の心はざわめいた。

「うん、そうだね‥‥‥。あの頃は、辛かったね。でも、それを明日、晴らすことが出来る」

「それって‥‥‥」

「そう、出場選手表に載っていたの、私をいじめ、お兄ちゃんに暴力を振るわせた人が、女が」

詩織の顔はまさに復讐の、犯罪者を見つめるような顔つきだった。それを察した唱は

「私、応援する」

「ありがとう。ごめんね、変な話をして。でも、私は変わった。だから、それを証明しなきゃ」

冷たい空気になっている中、唱はつぶやく

「私の勝ちね」

と‥‥‥。

「ど、どこ見て言ってるんですか!」

「もちろん、胸よ」

「まだ、負けてません!同じです!」

「ほとんどツルツルぺったんだよ」

「唱先輩もそうじゃないですか!」

「そうかしら‥‥‥」

唱はそういながらお風呂からあがり、ペタペタと歩き、まだ湯船につかっている詩織に

「本気で恋をしている人ほど、胸の成長って速いのよ」

と詩織に向かってピースをする唱。

詩織は負けずに

「私だって、本気で恋をしてますよ」

と唱をこけないように追いかける。


     ************

僕たちが風呂に上がったのは、坂本と言い争いをし過ぎて上せてしまったときだ。

「春樹がとっととポジションを変わると言わないからこんなことになるんだ」

「違う。坂本が諦めないのが悪い」

と未だに言い争いをする。

「「違う。二人が変な事で言い争うのが悪い」」

と詩織と唱に言われ、僕たちは

「「すいません」」

と反省をする。

僕たちは部屋に戻って、体をベットに投げる。体に掛かる重力が減って、体が軽くなっていくのを感じた。

詩織はあらかじめ持ってきていたドライヤーで髪を乾かす。

小さい割にすごく乾くの速い、旅行にピッタリなドライヤー。

今ではどこにでも売っているものだ。

だが、お父さんたちが学生の時には、こんなものはなかったそうだ。

だが、さっきから唱がドライヤーでカチカチと遊んでいるように見える。

「何をしているんだ?」

唱に尋ねると。

「ドライヤーが壊れたわ」

「そりゃあ、コンセントに刺してないからな」

上せているのに思わずツッコミを入れてしまう僕。

唱の常識のなさに僕は呆れて、ため息をつく。

僕は唱の元に行って、唱のドライヤーを取り、コンセントを刺して、電源を入れた。

そのまま、唱の髪を乾かす。

長い髪がドライヤーの風によって、揺れる。

僕はその髪を優しく撫でるように揺らす。

唱の髪はだんだん水気が無くなって、綺麗に乾いたのでドライヤーの電源を切る。

髪の毛が長いと、本当に時間がかかる。慣れてない人は面倒に感じるだろう。

だが、僕は小さい時に詩織の髪を何度も乾かしたことが有る。

そういえば、ドライヤーしている間に詩織が途中で寝てしまったことが有ったな。

「ちょっと、お兄ちゃん。変な事を思い出してないよね」

「ああ、詩織が昔、ドライヤーしている途中で寝てしまった事なんて思い出してないよ」

「それを思い出してるって言うの!お兄ちゃんの意地悪」

と何とも可愛らしい仕草をする詩織。

たまに子供っぽい感じになるのも、可愛らしい。

「おい、そこでイチャイチャするな。目障りだ」

「何だ、嫉妬か?」

「は?俺がお前に嫉妬すると思うか?」

「そうだな。お前には智菜という、妹がいるもんな」

「ふざけるな。あれは俺が開発したAIだ。決して妹じゃない」

と少し怒っている坂本。

僕はさらにからかう様に

「そうだった。智菜は娘だったな」

「本気で怒るぞ」

と僕を睨みつける坂本。

「悪かった。怒らないでくれ」

と軽く手のひらを坂本に見さながら上げる。

『そうです。太助様は私を作って頂いただけです』

と僕のスマホに入ってきて、途中で話に入ってきた智菜。

「ちょうどいい。みんな揃っているから、明日の事を話しておく。明日はこの前話した通りだ。変更はない。そして、勝率の稼ぎは、始めの僕と智夏が重要になってくる。智菜、明日は頼むぞ」

『了解です』

と敬礼をする智菜。

「ありがとう。坂本は二人を守りつつ、出会った人を片っ端から仕留めろ。唱と詩織は坂本の援護を」

「「わかった」」

唱と詩織だけ返事をした。坂本はまだ納得した様子ではなさそうだ。

「坂本、頼んだぞ」

「誰に行っているんだ?」

僕はその自信満々の坂本を見て安心した。

「じゃあ、今日はもう寝るか」

と僕はベットを見る。

二人用のベット、つまりダブルベットが二つ。

「坂本、一緒に――

「拒否する」

最後まで聞かずに坂本は返答した。

「ですよね‥‥‥」

僕は諦めて

「じゃあ、三人はベットで寝てくれ。僕は床で寝ておくよ。おやすみ」

「う、うん。おやすみ」

と言った詩織。坂本のプライドに呆れ、そこに素直に聞いた僕に驚き、どうしたらいいのか分からなくなったのだろう。

僕は電気を消して床で寝た。

もちろん枕はもらった。布団は予備のタオルを被った。

そして、陽が上るまで、僕たちは深い眠りについた。


時刻は五時三〇分。

僕は昨日セットしておいたスマホのアラームに起こされた。

重い体が、動くまでしばらく時間がかかった。

そして、頭が少し回転し始めたころ、僕はやっと体を起こすことが出来た。

こう見えて、僕は朝は得意じゃない。

特にペットたちがいないと。

僕は軽く背伸びをする。

唱と詩織はまだ爆睡している。

「坂本は朝が早いんだな」

「ああ、最終確認だ。チェック頼む」

と渡されたのは、小さな器具だ。

僕はそれを耳に着ける。

『おはようございます』

とさっき付けた機械から智菜の声が聞こえた。

「ああ、おはよう。こっちは聞こえてるぞ」

「ああ、俺も聞こえている。次はこっちだ」

と同じ機会をまた渡された。

さっき付けたやつを外して、渡された奴を付ける。

『寝ている女の子にいたずらしちゃ、ダメですよ』

「大丈夫だ。言っていること以外は」

「ああ、こっちも」

『酷いです』

「チェックは終了だ。問題ない。その青いのが春樹のだ」

「じゃあ、それは?」

「黒は俺、緑は詩織、黄色が唱だ」

と一人ひとりの機械を作っていた坂本。それぞれ耳の大きさが違うの、分かりやすく色を変えたのだろう。

時刻は五時五〇分。

そろそろ、二人を起こさないといけない時刻だ。

「二人とも起きろ~」

と二人の体を揺らしながら僕は言った。

「ん~。あと五分」

どうやら詩織はすぐに起きそうだ。

「唱、起きろ」

と何度も言っても唱が起きる気配はない。

「あ、ヘビ」

そう言った瞬間、唱は一気に目を覚まして、体を起こす。

だが、体が起きる勢いが強すぎて、僕の額と唱の額がドンとぶつかった。

僕はその衝撃で床に倒れこんだ。

「春樹、ヘビどこ?」

「痛い‥‥‥」

僕は「いない」と言おうと思ったのだが、額からズキズキと痛む方が強すぎて、「痛い」と言ってしまった。

「春樹、どうしたの⁉」

と慌てて僕を心配してベットから下りてきた。

僕を見下ろす唱に僕は、唱の額を撫でるように触れる。

「ヒリヒリするわ。どうして?」

と疑問を抱く唱。

「唱が起きるときに、僕にSuper(スーパー)頭突きをしたからな」

とさっきまでの出来事を思い出した唱。

「それは、春樹が悪い」

「そうでした。でもすぐに起きない唱も悪い」

「うん、お互い様、だね」

と変な雰囲気になったことを感じた。

「朝から変な空気を作るな。換気だ換気!」

と窓を開ける。

すると、窓から涼しい風が入ってくる。

まだ陽は上ったばかりだ。

朝食はどうしようか。

ホテルのレストランは開いてなさそうだしな。とりあえず着替えるか。

「あ、お兄ちゃん。待って」

とちゃんと五分後に起きている詩織は自分に荷物から何か取り出した。

「じゃ~ん。どう?」

と見せてきたのは、袴だった。

「どうしたんだ?それ」

「敬香さんに相談して、業者の人に頼んで作ってもらった」

なるほど、詩織がしそうなことだ。

オリジナルで分かりやすいい。

チームでこういう事をするのは珍しくない。

「じゃあ、先に朝食が用意されていたら食べて、なかったら着替えて、ここを出よう」

と言ってから、僕たちはホテルのレストランへ行く。

レストランはすでに何十種類の料理が出来ていた。

だが、昨日の晩の時よりは料理の量が少ない。

「あの、朝食を取る事ってできますか?」

「ええ、品は少ないですが、大丈夫ですよ」

とスタッフの人が答えてくれた。

「ありがとうございます」

僕はそう言って、レストランに入って適当に席を取る。

そして、皿を取り、好きな料理を取っていく。

みんなが席に着き、みんなで手を合わせる。

僕はパンを何種類か取り、イチゴジャムやマーガリンを付けて食べる。

時々、コーンスープを喉に通す。

マカロニサラダを口に含みよく噛んで飲み込む。

皿が空いて、お腹がいっぱいになったので、最後に眠気冷ましにブラックコーヒーを飲む。

苦みが口の中に広がり大人の味を堪能した。

「ブラックっておいしいの?」

唱が僕に聞く。

そういえば、唱は家ではココアを飲んでいる。コーヒーを飲むときも、砂糖とミルクを入れて飲んでいる。

というか、母さんが「唱ちゃんは、ブラックはダメよ」と止められてしまっているのだ。

「おいしいと言うより、苦い」

と正直な感想を言う。

「苦いのに、飲むの?」

「苦いから飲むんだ」

唱の頭上には「?」が浮かんでいた。

その後、唱は僕がブラックを飲むたびに凝視をしてくるので

「飲むか?」

と聞く。

「うん」

そう言って、唱はブラックコーヒーが入ったコップを受け取って、一口飲んだ。

唱は

「お、おいしいわ」

と無理をして言った。

「苦いなら、苦いって言えばいいのに」

僕はそう言いながら、コップを返してもらう。

ブラックコーヒーは全く減っていない。よっぽど苦かったようだ。

「春樹は、大人?」

「僕は見ての通り子供だ」

唱の質問を真面目に回答する。

僕たちはまだ、一七歳。立派な子供だ。

「そういう事じゃないと思うけどな‥‥‥」

話を聞いていた詩織が、そう僕に言った。

どうして、僕は詩織に呆れられているのだろうか。

まあ、気にすることではないだろう。

みんながお腹いっぱいに朝食を食べた後、僕たちは一旦部屋に戻り、詩織がデザインした袴に着替える。

「やっぱ、気慣れてないと動きずらいな」

僕はそう言いながら自分の身だしなみが変ではないか鏡を見ながら確認をする。

「それに比べて、坂本は気慣れている感じだな」

僕は坂本を見て言う。なれたように袴を着こないしていた。

「何回か来たことはあるからな」

とびしっと着こなす坂本。

本当にびっくりするぐらい似合っている。

「お待たせ~」

と別室で着替えていた詩織たちが戻ってきた。

「どう?」

と僕たちに感想を求める。

「似合っているよ」

僕は二人に言った。

「ありがと」

詩織は嬉しそうに言った。

唱は何も言わずに荷物をまとめた。

僕たちはすでにホテルを出る準備はできていた。

そして、詩織と唱が準備が整った数分後、僕たちはホテルを出て、大会会場へ向かった。

 

「い、意外と人、いるね」

詩織が圧倒されるように言う。

そりゃあ、一四〇人以上もいるのだから仕方がない。

それぞれのチームごとにミーティングをしていたり、準備運動をしていたりなど、何もしていないチームなどいなかった。僕たちを除いて。

僕たちはただただ、話をする。大会の話ではなく‥‥‥

「ねえ、これ終わったら、さっき合ったパフェ食べに行こうよ」

そう、パフェの話をしていた。

「確かに、最近甘いもを食べていない気がする」

と珍しく坂本が話の輪に入っていた。

「うん、食べたい」

とさっき合ったパフェ屋を思い出す。

「あれぐらいなら、作れそうだな。今度作ってみよう」

と僕は言う。

とのん気な会話をしていた僕たち。

こう見えて、しっかりと相手を観察をしている。

全員スマホを開いて。

「おいおい!ここは子供遊び場じゃないぜ。死にたくなきゃ、さっさと帰りな」

と話しかけてきたのは、見るからにバカでチャラい男だった。

「安心してください。僕たちは、遊びに来てませんよ」

僕はそう言い放った。

「そうか。ならいいが、調子に乗らない方がいいぞ。ここは戦場だからな」

そう言って、男はチームの元へ行ってしまった。

「何だったんだろう」

詩織が疑問を持つ。確かにさっきの男の行動は不自然だった。

「視察だろ。さっきから他のチームも僕たちを見ている。新人だから警戒しているのだろうな」

僕は周囲を警戒する。

『春樹さん、さっきの人。警戒してください』

智菜が僕が付けていた機械から話してきた。

『さっきの人。春樹さんに殺気を向けていました。けど春樹さんはそれを殺気と感じることが出来ませんでした。つまり、春樹さんたちはさっき、試されたのです』

なるほど、全く殺気を向けられた覚えがない。

ただ、気になるのは‥‥‥まあ、良いか。

僕は細かく気にすることを止めた。

『それでは、各チーム決められた配置に移動してください』

とアナウンスが入った。

僕たちは、会場の端っこの方だった。

周りにどのチームがいるか分からない。

それは、僕たち以外のチームだけだ。

二〇分後

『各チーム、指定の場所に配置したことを確認できました。それでは、選抜大会、開始といたします』

選抜大会開始の合図で僕は走り出す。

『一二時、四〇m先に四人います』

「了解」

智菜の指示で僕は建物内を走る。

数秒後、僕はその四人を見つけた。その四人は僕と同じ二階のフロアにいた。

僕は気配を殺し、四人に近づき、数秒で全員の首をトンと叩く。

『チームナンバー七番。四人全員気絶。これによりチーム

ナンバー七番は脱落』

アナウンスが入った。

開始七秒で脱落者が出た。それは僕がやったのだが‥‥‥。

「次だ」

『はい。一〇時、二〇〇m先に三人。四時に、三〇〇m先に七人います』

「四時の方に行く」

『了解です』

僕はすぐさま方向を変えて、四時の方を走る。

一三秒後、二チームが建物の外で戦っていた。

僕はその争いを背後に建物から出た。もちろん二階から飛び降りる。

「な、なんだ」

僕に気が付いた数人。

僕はそんなことを気にせずに全員の首をトンと叩く。もちろん素早く。

『チームナンバー三二番。三人全員気絶。チームナンバー一八番。四人全員気絶。これにより、チームナンバー三二番と一八番は脱落』

またアナウンスが入った。

四七チーム中、三チームが脱落。残り、僕たちを含めると四四チーム。

『八時、一〇〇m。五人います。九時には三人、同じく一〇〇m。二チームともこちらに向かってきてます』

僕はその方に軽く進む。

そして、二チームがご流するであろう場所で待機。

数分後、僕の予想は的中した。

「お前が、開始七秒で一チーム沈めたやつだな」

チームリーダーっぽい人に聞かれた。

「そうだ」

「そうか。ならここであんたは沈んでもらうよ。ああ、あと今頃手を組んだ奴らが、お前のチームをボコボコにしているさ。二〇人近く相手だと百パー無理だろ」

と偉そうに言っているリーダー。

『チームナンバー一二番、二一番、二六番、三八番、四七番、全員気絶。脱落となります』

とアナウンスが入った。

「貴方の考えは甘かったようだな」

僕はそう言い放った。

リーダーの男は口を大きく開き、何も言わなかった。

それもそのはず。さっき男が言った二〇人近い相手は全滅したのだから。

まあ、六割ほど坂本の無双なのが予想が付く。

「じゃあ、こっちも終わらすか」

僕はそう言って、三秒で一チーム気絶、四秒でもう一チーム全員を気絶させた。

『チームナンバー一三番、四三番全員気絶。脱落となります』

僕はそのアナウンスを聞いた後、すぐにその場を離れるように次の目的地に向かう。

『前方、一三〇mに二〇チーム程固まっています。待ち伏せをしています』

「了解」

僕はそう言って、走る速度を上げる。

しばらく走ると沢山の人の塊を見えてくる。

「来たぞー!」

とその塊の中から声がした。

智菜の言う通り僕を待っていたようだ。

『随分と暴れているな』

智菜ではなく坂本からだ。

「何かあったのか?」

『いや、こっちは順調だ。春樹は?』

「約一〇〇人の相手が僕を待っててくれたので、脱落させる」

『援護しに行こうか?』

「結構だ。そっち、頼んだぞ」

そこで坂本との会話は切れた。

僕は正々堂々、正面から相手を気絶させていく、何てカッコいいことをせず、ジャンプをして、天井を蹴って、敵陣の真ん中にツッコミ、近くにいた相手を気絶させていく。

相手は混乱をして、容易に気絶させることが出来る。

だが、それは相手の人数が半分になるまでに話だった。

「おいおい、さっきまでの調子はどうした?」

と人数が四〇人程度になったとき、誰かがそう言った。

人数が減り、動きやすくなり僕を圧倒させているように感じたようだ。

だが、僕の勝ちは一度も揺らがない。

「さっきから、ちょこまかちょこまかしよって」

とまた誰かに言われた。

そんなこと言われても、仕方がない。もともとそのつもりだったのだから。

そして、数分後。

「ふぅ。終わった」

僕はそうつぶやいた。

『チームナンバー四、五、六、九、一〇、一一、一三、一四、

一五、一七、二〇、二二、二三、二七、二八、二九、三〇、

三一、三六、三九、四〇、四一、四二番、全員気絶。脱落となります』

僕は約一〇〇人全員気絶で脱落させたのだ。

一〇〇人相手しているときに、四三番、四四番、四五番、四六番が脱落していた。

だが、その四チームは酷い人で両足骨折で脱落していた。

他のチームだろう。

ちなみに僕たちのチームナンバーは三四番だ。

『現在残っているチームは、一番、二番、三番、八番、一六番、一九番、二四番、二五番、二六番、三三番、三四番、三五番、

三七番です』

つまり、僕たちを含め、あと一三チーム残っているようだ。

とりあえず、みんなと合流しよう。

「智菜、みんなと合流する。戻る途中、一〇〇m以内に人がいたら教えてくれ」

『了解です』

僕はそう言ってから走り出す。

そして、戻っている間に三七番、三五番、三三番を僕が気絶させ、一九番、二四番、二五番、二六番が坂本たちが気絶させた。

そして、一六番が他のチームによって、脱落した。

「戻った」

僕はみんなと無事に合流することが出来た。

「随分と暴れたそうじゃないか。木刀を使わず一〇〇人以上の相手を全員気絶させた男。ネットで大炎上だ」

と僕に言う坂本。

「かという、坂本もほとんどのチームを脱落させたんじゃないのか?」

「まあな」

そう言う坂本。

まだまだ余裕だそうだ。

「あれれ?見たことある顔がある!」

と嫌な声が聞こえた。僕は振り返ると、そこにはあの女がいた。

「久しぶりだね。多畑さん」

詩織が言った。

「おい、二度と詩織の前に現れるなと言ったよな」

「怖い怖い。やめてくれよ、仕方がないじゃないか。君たちが残っているのが悪いのだよ」

聞いていると今すぐ殴り掛かりたくなる声。

「あの時のようにしてやろうか?」

僕は彼女に言った。

「できるの?」

と僕たちを小動物のように見つめる彼女。

彼女の後ろに現れた体の大きい人が二人、姿を現わす。

「できるさ」

僕がそう言って、体が大きい二人のうち、一人の顔を踵で蹴り飛ばす。

だが、飛んでいったのは一人だけではなかった。

坂本がもう一人を飛ばしていた。

「なッ⁉」

彼女は驚く。

彼女から見れば僕が「できるさ」と言った瞬間、男たちが後方へ飛んでいったのだ。

「どうする?」

僕はもう一度彼女に聞く。

「まあ、あいつらはただの護衛だし。私の目的は、あいつと!詩織とやら《殺》させてくれよ」

彼女は詩織を指す。

「お兄ちゃん。やるよ、私」

詩織はそう言った。

「ほら、あいつがそう言っているんだから、良いだろ?」

詩織がああ言ったのだから仕方がない。

「わかった」

僕はそう言って彼女から距離を取る。坂本も。

「ありがと、お兄ちゃん」

「無理はするな」

僕はそれだけ言った。

「まあ、言いたいことは沢山あるけど、それはこれで語ろうぜ」

男っぽい口調で彼女は言った。

「そうだね」

そう言って二人は木刀を構える。

数秒後、詩織の姿は消えるように彼女の背後に回って、木刀を振りかぶる。

「なッ!」

彼女は驚く。

詩織の木刀には重みがある。

中学時代の思いが、全て載っている。

「私はもう弱くない!」

詩織はそう言い切った。

そして、彼女はどんどん押される。

詩織は彼女から距離を取る。

そして、数秒後。詩織は全ての思いを載せた木刀を彼女に突き刺す。もちろんそこには、殺意も込められていた。

だからだろう、詩織は木刀を握る手を放した。木刀は宙を舞う。

彼女はそんな詩織にぎょっとする。

そして、詩織は彼女に思いっきり平手打ちをした。

「は?」

彼女は驚きの声を零す。

詩織は涙目になっていた。

「私はもう弱くない!昔の私じゃない!お兄ちゃんに守られている私じゃない!もうお兄ちゃんのあんな顔を見たくない!

見ない!だから、ここで終わらそう‥‥‥」

詩織は愛用の木刀を拾う。

そして、構える。真剣な目で彼女を見る。

「は?終わらす?終わるのどっちだよ!」

彼女は詩織に大きく振りかぶる。

詩織は彼女の腹に重い一撃を加えた。

彼女はそのまま意識は無くした。

『チームナンバー八番。二名軽傷。のちに全員気絶。よって、チームナンバー八番、脱落』

そうこの場に響き渡る。

その声は僕たち以外の三チームも聞いていた。




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