第5話
あの日から毎日、僕たちは道場に行って、敬香さんに選抜大会対策をしてもらっている。
何度も、負けては今までの技術を磨き、新しい技術を身に着けては、の繰り返していく中、僕たちは三日目にやっと、敬香さんを本気にさせることが出来た。
「うん、まだ私には勝てないけど、本気にできるようにはなったね」
敬香さんはまだ、余裕を見せている。
それに比べて僕たちは、床に這いつくばっている。
「もう、敬香さん、スパルタすぎ」
「もう、ダメ‥‥‥」
「なんで僕まで‥‥‥」
みんな息を上げている。
そしてさらにこの猛暑だ。冷房がかかっているとは思えないほどの暑さで、汗だくになっている。
「冷房の温度、少し下げて休憩しましょう」
敬香さんは冷房の温度を低くしてくれた。
涼しい風が僕たちを仰ぐ。
「みんな、水分と塩分忘れずに」
と敬香さんから塩飴をくれた。
「でも、みんなちゃんと今日に私を本気にしたんだから上出来じゃないかな」
「そうだな‥‥‥。あとは僕だけで充分か」
「どういう事」
詩織が僕の独り言を聞きのがさなかった。
「いや、敬香さんを本気にするぐらいの実力を持ったのが三人いれば、上位に食い込むのは容易になった。だが、上位になるにつれて、強い人だけが残る。なら、その強者は俺だけが相手しようという考えだ」
「確かにその方が効率がいいかもね」
「俺はそれに賛成だ!」
坂本‥‥‥それはお前がしたくないだけだろう‥‥‥。
とかいえば、彼は開か居直って、「当たり前だ!」とか言いそうだ。
「お兄ちゃんが、そういうのなら私は良いと思うけど」
「私も、詩織と同じ」
二人も僕の意見に賛成した。
なら、明日からは僕一人で特訓‥‥‥。
僕は良いことを思いついてしまった。
「坂本は明日も特訓だぞ」
「待て!どういう事だ」
「簡単に言えば、坂本が男だからだ。詳しく言えば坂本は僕より身長は高い。だから筋肉量が多いんだ。だから、坂本も明日も特訓という事だ」
「それもそうね。ライバルがいる方が伸びは速くなるね」
敬香さんも僕の意見に賛成していくれた。
「確かに、強い人が二人いると安心だね」
「そうね」
唱も詩織も賛成してくれた。
「そういう事だ、坂本」
「どういうことだ!なぜ、俺も明日も鍛えないといけないだのだ」
「さっき説明したぞ」
「俺は絶対に嫌だ!」
「坂本に拒否権はない」
「いや、あるね」
「You have no veto」(お前に拒否権はない)
「No,there is!」(いいや、あるね!)
と僕と坂本の言い争いが始まった。
「Why don't you give up」(諦めたらどう?)
と唱が言い争いに入ってきた。
ナイス!唱。
坂本からしたら、辛い言葉だろうが、僕からしたら、とても嬉しい言葉だ。
「わかった、今回だけだぞ」
「ありがとう、坂本」
「もう二度とこんなことをしないからな!」
と言われてしまった。
どうして彼はこんなに冷たいのだろうか。
まあ、僕も人の事は言えないのだが‥‥‥。
「じゃあ、明日から二人だけで特訓ね」
「はい、お願いします」
僕は坂本の分も含めて、敬香さんに感謝する。
「いいの、いいの。気にしないで」
坂本は正反対に優しい敬香さん。木村刑事は嘸かし幸せだろう。
「じゃあ、もうちょっとしてから、今日は終わろうか」
「「「はい」」」
坂本だけの返事がなかった。
そんなことは気にしなかった。いつもの事だから。
その後、僕たちは結局、一本も取ることが出来なかった。
三日後‥‥‥
「じゃあ、試合を始めます。準備は良いですね」
「大丈夫です」
「俺も始めてもらって構わない」
敬香さんがそれを確認をすると
「では、始め!」
敬香さんの合図とともに僕は坂本との距離を詰めた。
そうして、正面から斜め右上に向かって振る。
坂本は縦に振って、僕の木刀と坂本の木刀がぶつかり合った。
僕はそのまま、押し切ろうと思ったが、坂本の力が僕と同等くらいで、押し切れなかった。
だから、僕は彼から距離を取った。
だが、逆に今度は坂本が距離を詰めてきて、僕は焦り体勢を崩しかけた。
坂本は、右側に向けって木刀を振る。
それを今度は僕が防ぐ。
そして、攻めて、防がれて、攻められて、それを防いぐ。を何回も繰り返してく中、時々、攻撃がお互いに入っていく。
そして、僕も坂本も距離を取った。
「ここで、俺の今までの怒りをぶつけてやるよ」
と悪い顔をする坂本。
だが、それは僕もだった。
「そうだな。なら、勝った方の条件を飲むのはどうだ?僕はちゃんと挨拶やありがとうなどをちゃんと言う。ただそれだけだ」
「それは面白いな。なら俺は、俺のロボット作りの助手になってもらうよ」
勝手に、変な賭けが始まり、成立したみたいだ。
「今、言いたいことは同じっぽいな」
「残念ながらそうみたいだ」
僕も坂本が木刀を構えた数秒後。
僕と坂本は今までとは違う、桁外れな速さで互いの距離を詰めて縦に木刀を振る。そして、木刀がぶつかり合って、強い衝撃に耐えながら叫ぶ。
「I'll niw this game!」(この試合は僕が勝つ!)
「I'll niw this game!」(この試合は俺が勝つ!)
そして、木刀はギリギリと音を立てて次の瞬間
ボキッ!
バキッ!
と二本の木刀が折れてしまった。
どうやらお互いの力が強すぎて木刀が耐えられなかったみたいだ。
「そこまで、この試合は引き分けとします」
敬香さんが告げた。
引き分けか‥‥‥。ん?待てよ‥‥‥⁉
「ありがとうございました」
僕はそう言いながら手を差し出した。
彼はそれを無視しようとした。
「今回の試合は引き分け。だからお互いの条件をお互いが飲む。普通そうだろ?」
「ぐッ⁉‥‥‥」
さあ、彼はどうするだろうか。
彼は少し考えこんだ。そして数一〇秒後。
彼は
「あ、あ、ありがとうございました‥‥‥」
と僕の手を握った。
交渉成立。
これで彼は少しはましな性格に見えるようにはなるだろう。
「うん、ここまで上達したら、優勝間違いなしだね」
敬香さんは嬉しそうに、自慢をするように言った。
確かに、明らかに技術が増え、磨かれた感覚はある。
まだ、ついに明日だ。
絶対に勝ってやる、という気持ちは全くなかった。
むしろ事件に事を少し考えてみた。
全くわからなかった。
翌日、僕たちは必要なものを持って、朝五時に家を出た。
家はみんな寝てしまった静かだった。
昨日お母さんが僕たちの弁当を作っていてくれた。
僕たちはその弁当を大事にカバンに入れている。
僕たちは学校とは反対側に歩き始めている。
しばらく歩くと四丁目に入り、次に五丁目、その次に六丁目に入って、しばらく歩いていると、
「た~い~す~け~」
と女性の声が響いた。そして、太助がその女性に抱き着かれた。
「な、なんでここにいる」
「え、いちゃダメなの?」
「ダメだ!」
「え~、冷たい~」
とまるで恋人のような会話をする太助。
「あ、あの、どちら様?」
詩織が太助に尋ねる。
「俺の姉だ」
「どうも、太助が大好きな坂本結衣です」
と坂本より一〇センチ程度高い身長。
坂本が大学生になるとあんなに高身長になるのか?
凄く怖い‥‥‥。
「あ、安心して春樹君。太助はお母さんの家の血が濃いから身長はそんなに伸びないと思うから」
「そうですか」
「おい、なんで安心している」
と僕は坂本に怒られてしまった。
あれ、お姉さんとは初対面なはずなのだが、
「ああ、ちゃんと初めましてだよ。みんな」
「じゃあ、なんで」
「だってネットに名前乗っているじゃない」
そうだった‥‥‥。
そういえばだいぶ前に校門前でマスコミに捕まって下の名前だけ言ったんだった。完全に忘れていた。
「はい、みんな入って」
と急にスマホを持ってお姉さんが僕たちを集めて
「みんな笑ってね。行くよー。はい、チーズ」
とスマホはシャッター音を立てた。
「じゃあ、試合頑張ってね。みんなで応援に行くから」
「来るな!」
「もう、決定してるから。じゃ~ね~」
とお姉さんはどこか行ってしまった。
「頑張らないとな」
「そうだな」
坂本にそう言うと、素っ気ない返事が来た。
僕たちはそれから、岸川駅から電車に乗って、乗り換えを二回して、会場前の駅で降りる。
その時には時刻は時刻は七時前、受付開始は七時から七時三〇分の間にしなければならない。
僕の腕時計の長針が一二を指し、短針が七を指した。
『七時になりました。只今より受付を開始いたします』
とアナウンスが入ったので、僕たちは会場に入って受付を済ませた。時間にはまだまだ余裕がある。
準備運動くらいはしておいた方が良さそうだ。
「ストレッチでもするか」
「そうだね。やることは、もう試合で勝つしかないからね」
と優勝宣言をした詩織。
「確かにな、僕たちには上位に入るしかないからな」
「速く勝って、体を休ませたい」
と坂本も勝つ優勝宣言をする。
「春樹」
「どうした?」
唱に声を掛けられたので聞き返す。
「みんながすごい目で見てるわ」
僕は唱の背後を見る。
そこには僕たちを恨むように見つめる人たちがたくさんいた。
そして「お前らには、絶対に負けない」と言いたそうな人もたくさんいた。
「それより春樹、トイレに行ってくるわ」
「わかった。いっトイレ」
行った後に気が付いたが、結構滑ってしまった。
唱がトイレに行ったからそれまでに何をしておこうか‥‥‥。
ん⁉トイレに行った⁉
「待て!唱!」
僕は急いで唱を止める。
唱は振り向いて待った。
「何?」
「何じゃない。僕も行く」
「春樹もするの?」
「違う。唱が乗り換え待っている間にトイレに行ったとき、駅内で迷って、帰ってきたのは二〇分後だったじゃないか。それより広いこの会場で、唱を野放しにはできない」
「わかったわ。春樹からやってくれるのね」
「お前は何を聞いていた。そして誤解されるような言い方をするな」
そして、一〇分後‥‥‥。
僕たちは無事(?)に元の場所に戻ってくることが出来た。
「お兄ちゃんすでに疲れているけど大丈夫?」
「大丈夫だ。ただ、唱の常識のなさにいい加減慣れていきたいと思う」
「私もそうしたいな」
すると当の本人は
「We're still in time」(まだ、間に合うわ)
「「It's too late」」(もう、手遅れだ)
「It's terrible, boht of you」(酷いわ、二人とも)
と周りの人から聞けば、分かる人もいれば、何を話しているのか全く分からない人が、たくさんいた。
「そういえば、何で名前応募したの?」
「部活名だけど?」
詩織の質問に僕は率直に答える。
「それ‥‥‥結構、やばい気がする」
詩織は少し焦った様子を見せる。
何をそこまで焦る必要があるのだろうか。
「どの道、僕たちが優勝すれば、ネットや雑誌とかでばれてしまうだろ」
「確かにそうなるね。なら、良いか」
なるほどね、と納得した詩織。
さて、準備運動を始めるか。
僕は、カバンから素振り用の木刀を取り出して、広い場所に出た。
「ここなら、思いっきりできるな」
僕と坂本は木刀を包んでいる刀袋から取り出す。
「じゃあ、いつも通りするか」
僕は木刀を片手で軽く振る。これだけ軽く腕の筋肉を使うくらいだ。実践となるともっと全身の筋肉を使うだろう。
「じゃあ、お兄ちゃんやろ」
「わかった」
僕と詩織、坂本と唱のペアで練習することになった。
「じゃあ、行くよ」
「良いぞ」
詩織が構えたので、僕も構えて詩織の初手を待った。
構えた時に、僕の木刀と、詩織の木刀が軽く当たる。
「はぁぁ!」
と大きく振りかぶってきた。
隙が多い。
だから、僕はその隙の胴を狙う。
すると、詩織はそれを予測していたのか、すぐに防御態勢に入った。
だが、ここまでは僕の予想通りだ。
そして、詩織は距離を取ろうと後ろに下がろうとするが、僕はその隙を狙い、大きく振りかぶり、大きく出た。
「うわぁ!」
どうやら勝負ありだ。
「面」
「あ~、負けた!」
と悔しそうに声を上げた詩織。
「詩織も負けたのね」
どうやら、唱も負けたようだ。
「なら、次に唱と僕で、最後に坂本と、本気でやるか?」
「やってやるよ」
坂本は僕の挑戦に載ってきた。
「じゃあ、唱。やろうか」
「わかった」
そして、二回戦。
「行くよ」
「良いぞ」
僕がそう言った瞬間、唱はいきなり間合いを詰めた。
いや、僕の横を通っていった。
抜き胴だ。
僕は反射的にそれを防ぐ。
そして、振りかぶって
「面」
だが、防がれてしまった。
唱との距離は、ほぼゼロだ。
この時の距離の取り方を間違えると、一本取られてしまう。
唱は、木刀を強く握って、僕を押した。そして、唱は下がる。
そこで距離が生まれた。唱は、体勢を後ろに傾いているが振りかぶった。
「メン!」
こんな攻撃は普通の人なら防がれないだろ。
だが、僕はその面を防ぎ、唱の木刀を絡ませるように回す。
すると唱の木刀は下を向く。
「突き」
勝負あり。
「負けた」
「でも、充分強い」
僕は唱にそう言って、少し落ち込み気味の唱の頭を撫でるように叩いた。
「試合、期待してる」
と付け足して言った。
「さて、坂本。本番だ」
「今度こそ、勝ってやる」
今までの勝負の勝敗は五試合中、〇勝〇敗五引き分けだ。
つまり、一度も勝負がついたことはない。
「私たちは見学しておこう」
と唱と詩織は木刀を刀袋にしまって、少し離れたところで見学を始めた。
「じゃあ、行くぞ」
坂本がそう言った。
「良いぞ」
僕がそう言った瞬間、坂本は姿を消して、僕の斜め右前にいた。
そして、横に木刀を振ってきたので、僕は避けて、間合いをさらに詰める。
首を目掛けて突きを狙う。
だが、そう簡単にはできない。
坂本は安定した体勢で僕の突きを避けて、大きく振りかぶってきた。僕はその攻撃を避けて、坂本の背後に回った。
「くっ!」
と声を漏らした坂本。
僕は右側に向かって振って、防がれて、その次に右上から、左下向かって、斜めに振る。それも防がれた。さらにもう一度右側に向かって振る。それも防がれた。僕は軽く回りながら飛んで、坂本の僕を目掛けて蹴る。
すると防御に徹していた坂本は体勢を崩し、僕は体が浮いている間に、大きく振りかぶり面を目掛けて振る。
勝った、と思ったが坂本が大勢を崩しながら木刀で僕の攻撃を防いだ。
坂本の大勢は崩れたままだった。だから僕はそのまま力で坂本を押し切った。
すると、坂本はじゃりじゃりと足を擦りながらブレーキをかけている。
彼との距離は離れてしまったので、彼の大勢が整う前に、攻撃を重ねようと思って、距離を詰めた。
だがその時には坂本の大勢は整っていた。
木刀同士がぶつかり合って、僕も坂本も引こうとは思わない。
このまま、力で押し切る。
それは坂本も同じだった。
「お兄ちゃん!もう時間が来てるよ!」
「え?」「はぁ?」
詩織の言葉に僕と坂本は間抜けな声を漏らした。
僕は時間を忘れるほど坂本とやってしまったのだろうか。
いや、もともと時間がなかったのだろう。
「これで、〇勝〇敗六引き分けだな」
「全く勝負が付かない」
となかなか勝負がつかなくて不満そうな坂本。
「じゃあ、会場に戻るか」
僕はそう言いながら、木刀を刀袋にしまった。
刀袋を持って、僕たちは会場に戻った。
チーム数はそこまで多くはないが、応援の人が多い。
「あ、お~い、お兄ちゃん」
と詩織ではない聞き覚えのあるお兄ちゃん。
そして、お兄ちゃんとは僕の事ではない事がすぐに分かった。
「応援に来たよ」
「あ、恵理ちゃん、おはよ」
僕は姿勢を低くして恵理ちゃんと話す。
「あれから、学校はどうしている?」
「毎日行ってるよ。新しい先生は、エビアレルギーを持っている人だったよ」
「そっか、アレルギーに理解がある人なら良かったよ」
僕はそういう。
お兄ちゃんと呼ばれた坂本はまだ、一言も恵理ちゃんと話していない。
僕は姿勢を戻して、坂本に
「何か話してやりな」
「聞きたいことは全部、お前が聞いたから、何も言いたいことはない」
本当に冷たいやつだ。
「お兄ちゃん、頑張ってね」
と坂本に抱き着いていった恵理ちゃん。
「う、頑張るから離れるんだ」
「え~、ちょっとだけ」
と坂本に甘える恵理ちゃん。
すると詩織が僕の耳元で
「何?この可愛らしい画は」
と何かなんだか理解してない詩織は、珍しい光景に驚きを隠せていなかった。
「つい最近、アレルギーで教師と生徒からいじめられた子。今は教師はアレルギーを持っていて、アレルギーに理解がある人だから、安心だと思う」
「また、変な事に首を突っ込んだわけね」
「失礼な」
僕は、詩織に呆れられたので、呆れらることはしていない、と言うように否定した。
「あ、ママ。パパ」
と坂本から離れて、両親のもとに行った恵理ちゃん。
「おはようございます」
僕は挨拶をした。
「おはよう。あの時は、本当にありがとうございした」
とこの前の事で頭を下げた恵理ちゃんの両親。
「いえ、僕たちは当然の事をしただけので」
僕はそう言って、感謝を否定した。
「それでも、本当に感謝しています。今日は、この前お父さんが店にいらっしゃって、大会に出場にすると聞いて、恵理がどうしても、と言うので来させてもらいました」
「あ、ありがとうございます」
そういえば、三日前ほどにニシザワのケーキを食べた。
「あの、初めまして。春樹の妹の吉田詩織です」
「初めまして、詩織ちゃん。試合頑張ってね」
「はい!」
やる気が満ちた返事をする詩織。
緊張はしていなさそうだ。
「みんなも、頑張ってね」
「はい、頑張ります」
僕がそう言った後
「勝つ以外選択肢はない」
と断言した坂本。相変わらずすごい自信だ。
「うん、絶対勝つ」
唱も緊張していなさそうだ。
『選手の皆さんは、集合してください』
とアナウンスが入った。
「頑張ってね、お兄ちゃんたち」
「ふッ、任せておけ」
とすごくカッコいい台詞を捨てる坂本。
「「「行ってらっしゃい」」」
普段、言われない人たちの「行ってらっしゃい」はとても新鮮な感じがする。
「「「「行ってきます」」」」
僕たちは必要なものを持って、応援席から一階に下り、闘志が燃え上がる場へ、足を踏み入れた。
『これより開会式を行います』
と誰か分からない偉い人が言った。
そこからお偉いさんの話、ルール説明、賞状について、それぞれ説明されて、開会式は終わり試合が始まる。
僕たちはトーナメント表をもらった。
僕たちは『岸川国際高校 修正部』で名前を応募している。
修正部は左から二番目に有った。つまり僕たちの左側にあるチームは去年この大会で優勝したチームだ。
そのチームは一回戦はシードでないので、二回戦から始まる。
僕たちは一回戦のコートへ向かった。
「これより、岸川国際高校、修正部と〇〇〇〇株の弓道の部の試合を始めます」
と審判の声が響いた。
今回は僕、坂本、唱が出場する。
弓道は三人までしか出場できない。
僕ら三人は弓と矢を持って一五度傾いた的から六〇M離れた場所で並んぶ。的の前で一回膝をたたむ様にして正座する。
その後、膝立ちして、右に九〇度、方向転換する。そしてまた正座する。
日本の矢を床に置き、弓を立て、弦の向きを変え、矢を通す。その矢は弓を持つ左手で支える。他の矢は余っている左手の指で持つ。
そして、右手で通した矢を持って、膝立ち。その後立つ。しばらく間を開けてから、足を開き、腰に右手を先頭の前に習えをするようにする。
その後、他の弓を右手で持つ。弓を斜めに角度を変える。
そして、弓を高く上げ、あげた状態で軽く弓を前に出す。
その後、矢を引きながら矢先を目線に合わせる。
そして、限界まで引いた矢を、放つ。
ドン!
的に的中。しかも真ん中に。
観客席から
「すごーい」
と集中を切らすような幼い声援が起きた。
恵理ちゃんだろ。恵理ちゃんはその後静かになった。
多分、他の選手の邪魔をした事に気が付いたのだろう。
その後、弓をもとの位置に戻す。
そして、膝をたたむ様に正座をして座る。
その後に唱が矢を放つ。
もちろん真ん中に矢は刺さる。その後の坂本ももちろん真ん中に刺さる。
その後、残りの三本も、みんな真ん中に刺さって、一回戦は
「岸川国際高校、修正部の勝利」
とまあ、あっさり勝ってしまった。
まあ、次が問題なんだが‥‥‥
一五分後‥‥‥。
「第二回戦、岸川国際高等学校、修正部の勝利」
開いては一二中、一〇中だった。
対して僕、坂本、詩織は一二中、一二中だった。
とまあ、去年優勝チームに勝利した。
その後の三回戦は相手は一二中、七中。僕たちは一二中、一二中で勝利。
第四回戦、つまり決勝戦。現在、相手は一二中、一一中だった。
そして、僕がここで的に当てれば勝ち。つまり優勝だ。
極限の緊張とプレッシャーが僕の体を襲ってくる。
っていうシチュエーションをよく見るけど、僕には感情がないから関係ないな。
僕は矢を放つ。
ドス!
重たい音が響いた。
僕は元の位置に戻って、結果を待った。
「〇〇〇〇〇〇高等学校、一一中。岸川国際高等学校、修正部、一二中。優勝、岸川国際高等学校、修正部」
と弓道の部では優勝が決定した。
観客席から唖然とする、負けた選手たちがいた。
そう、試合前に「こいつらだけには負けたくない」という視線を送ってきた人たちだ。
その後の柔道も圧勝。僕たちは一度も一本も取られることなく、優勝。
昼食の時間となった。
「弓道、柔道優勝おめでとう!」
と恵理ちゃんのお母さんが言ってくれた。
「ありがとうございます」
「いや~、案外普通だったね」
「決勝戦が一番白熱したな」
と各感想を述べるのだが、唱は
「お腹が空いたわ」
と大合唱していた。
ドット笑いが起きる。
「よう、楽しそうだな」
「来てたの?お父さん」
と驚きの声を上げる詩織。
僕は気が付いていた。観客席で目立つような動きをする変質者を。
「というか、人数少ないな。俺らの時代はもっと人が多かったぞ。三〇チーム有ったと思うぞ。それが一四チームだなんて、これなら、優勝取って当然だ。それと優勝以外取るなよ」
条件が変更された。
後は剣道で優勝して、選抜大会でも優勝するだけだ。
「春樹、飯をしっかり食べて、優勝しろよ」
「分かっている」
僕はそう言って、母さんが作ってくれた弁当を平らげた。
そして、剣道の袴に着替える。
『剣道の部開始一〇分前になりました。選手の方は準備を始めてください』
アナウンスが入った。
僕たちは防具と竹刀を持つ。
「ごめんちょっと遅れた」
と詩織と唱が、袴を着て戻ってきた。
「大丈夫。今アナウンスが入ったところだから」
僕はそういう。
みんなの準備が確認した後、弓道場だった場所が柔道場になり、柔道場から、剣道場に変わっていた。
一回戦、二回戦、三回戦とトントン拍子で勝っていく、いよいよ選抜大会を決める戦いだ。
順番は、坂本、唱、僕、詩織、僕の順番となった。
剣道は五人制で、勝率が高い方が勝ちとなる。
つまり四人しかいない僕たちの中で誰かが二回出場しなければならない。
で、僕が出場することになったのだ。
そして、結果は五対〇で
「優勝。岸川国際高等学校、修正部」
となった。
もちろん各部優勝なため、総合でも優勝した。
「何だ、結局、弓道が一番面白かっただけじゃないか」
と不満を漏らす坂本。
坂本は相手が攻撃する前に、相手を倒してしまうのだ。面白くないとは言え、仕方がない部分があると思う。
「あとは選抜大会だけだな」
坂本が急に真剣に言い出した。
「緊張してるのか?」
「ああ‥‥‥」
と声を漏らす坂本。
「俺より強いやつがいるのか楽しみで緊張してきた」
やっぱりそうだと思ったよ。
坂本が緊張するときは、たいてい変な事に緊張するのだ。
まあ、問題児だから仕方がないか‥‥‥。
「お前たちは近くのホテルの泊まっていけ。予約は取っておいた」
と鍵を渡された。
「この会場を出て、北に進むと大きなビルがある。バイキング付きだから、好きなだけ食べな」
「春樹、お腹空いた」
とまだ、四時なのにもかかわらず、大合唱をする唱。
唱はいつもよりエネルギーを消費したのだろう。
今回は仕方がない。
はっきり言うと僕もお腹が空いている。
「じゃあ、早速ホテルに行こうか」
「そうだ、さっさとホテルに行ってこい」
「父さんが、言うと意味深に聞こえるのはなぜだろう」
僕は疲れによって心の声が漏れてしまった。
だが、気づくのが遅かった。
「日頃の行いだと私は思う」
詩織が僕の質問をまともに回答してくれた。
「二人とも酷いな」
とわざとらしく落ち込む父さん。
「父さんはこれからどうするんだ?」
「一旦、家に帰るよ。明日の試合は生配信してくれるから、家から応援するから、頑張れよ」
「わかった。じゃあ、チップたちを頼んで良いか?」
「了解。ってもう母さんがやってると思うぞ」
「ありがとうって、母さんに伝えておいて」
「それは自分で言いな」
相変わらずカッコいい父親だ。
だが、よく考えて見ればつい最近、妊娠宣言をした後、すぐに妊娠したという報告をされたのを思い出す。
訂正する、時々カッコいい父親だ。
「じゃあ、俺は帰るよ。ホテルまで気を付けろよ」
「わかった。そっちも気を付けて」
「ああ、じゃあ。明日頑張れよ」
父さんはそう言って、会場を出て行った。
「あ、母さんには内緒だが、一番応援しているのは母さんだからな。それだけは忘れるなよ」
「ありがとう。分かっている」
本当にこういうところはかっこよすぎるんだ。
僕の父さんは‥‥‥。
「じゃあ、ホテルに行くか」
「ご飯?」
「はいはい」
僕は唱に呆れて適当に返事をして、荷物を持つ。
そして、僕たちも会場を出た。
そして、そのまま北に進んで行く。するとビルが並ぶ中、一番大きなホテルへ入った。
もちろんカギについていたホテルの名前を見て、ビルに入っていった。
荷物を部屋に置いて、とりあえずベットに体を放り投げる。
「ふぅ」
「春樹、ご飯」
「ああ、ちょっとま‥‥‥ってなんで唱がここにいる?」
「バカなのか?」
坂本に呆れられた。
しかも唱の近くには詩織もいる。
「渡されたカギは一つ。つまり全員で一部屋という事だ」
そういえば、父さんからは鍵を一つしかもらっていなかった。
なんでその時に気が付かなかったのだろうか。
別に今更気にするところはないのだが‥‥‥。
「じゃあ、ご飯食べに行くか」
「うん」
唱はそう言って、一番に部屋を出る。
僕はドアを閉める。部屋の鍵は部屋から出た時に自動でロックがかかるようになっている。
僕たちはバイキングレストランへ足を運ぶ。
僕たちの目の前にはたくさんの料理が並ぶ。
席はあらかじめ指定された場所に着く。
僕たちはお盆に数枚、皿を取って、自由に料理を載せていく。
元から皿に載っている料理もあった。
「こういうのだと、つい、食べ過ぎて太っちゃんだよね」
と気恥ずかしそうに言う詩織。
「まあ、こういうときぐらいは、そういうの気にせず、好きなものを食べたらいいんじゃないか?」
「そうだね。でも、お兄ちゃんはいつも通りバランスがいいね」
僕は基本的にバランスを考えて料理を選んでいる。
元々、料理の栄養バランスは、これらの料理を作っている人たちが考えているのだから、気にすることはあまりないのだが、保弾からの癖でつい考えてしまう。
僕たちが再び集合したのは、自分が食べたい料理を選び終わり席に戻ってきたときだ。
「「「「いただきます」」」」
あの日の坂本との試合以来、坂本は最近はまともに挨拶をするようになった。
「ん~!美味しい!」
詩織が口にしていたのはハンバーグだった。
確かに、ホテルがしっかりとしたホテルなので料理もしっかりとしている。料理人は当然プロだろう。もしくはプロ以上のAIロボットだろう。
――AIかぁ~。
「坂本」
「何だ?」
僕が坂本が料理を口に含む前に呼び掛ける。
「坂本が食べている料理、プロの料理人かAIか、どちらだと思う?」
僕の質問に坂本は
「ものによるだろうな。例えば、そのサラダ」
と僕の皿に載っているサラダを指す。
「それはAIだろうな。たかが野菜を洗って、食べやすい形にカット、ドレッシングは半々ってとこだ。いくらAIでも味覚が完ぺきではない。そこのところは人の味覚だろうな。そして、詩織のハンバーグ。そのは人の手で作られただろうな。AIロボットは人間そっくりの動きを全く再現することは不可能だ。それにプロの方が効率がいい部分もあるだろうな。型崩れしないようにする、キャッチボールとか」
さすがプログラマー。
だが‥‥‥。
「すいません。これは人が作ったものですか?」
と通りかかったスタッフに尋ねる。
「はい。そちらのハンバーグはプロの料理人が作っております」
「ならこのサラダはAIロボットですか?」
「ええ、おっしゃる通りです。サラダの方はAIが作っております。ドレッシングの方は、作っているのはAIですが、最終確認のチェックは料理人がしております。簡単に言えば、半々ですね」
さすが坂本だ。正真正銘の一〇〇満点だ。
「すいません。突然変な事を聞いてしまって」
「いえ、そういうの気にする方もいますから大丈夫です」
「ああ、そっか。年寄りの人からすると、AIの料理は抵抗が出てしまいますね」
と詩織が納得した。
「僕たちはAIでも大丈夫なので。ちょっと彼のいう事が本当か気になったので。ああ見えても彼は、トップクラスのプログラマーなんで」
「ええ、知っています。修正部の坂本君と言えば、フルダイブ技術を開発した高校生ですよね。雑誌とかで何回か目にしています。君たちの今後の活躍を期待しています」
そう言って、スタッフは立ち去っていった。
「私たちの事、気付いていたんだね」
詩織が少し驚いていた。
それより、少し重要な事を僕と坂本が気づいた。
「なあ、坂本。坂本は確かにフルダイブ技術を開発したのは、確かだよな?」
「ああ、だが‥‥‥。世間にはA、B、D、Zの四社が開発したことになっている」
「え、じゃあ、なんで?」
詩織は気が付いた。
「そう、なぜあの人が、その情報を知っているのか‥‥‥」
と疑問が僕たちの胸をざわめきさせた。
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