第4話

「こんにちは。夜分にすいません」

玄関には木村刑事がいた。

「いえいえ、さあ、どうぞ上がってください」

「失礼します」

そう言って木村刑事は僕たちの家に入ってくる。

「えっと、場所変えた方がいいですよね」

母さんはやはり察していた。

僕たちが何かに関わろうとしている事に。

その時の母さんの表情はいつもとは違う表情をしていた。

「そうですね。そうしてくださるとありがたいです」

「春樹君、一緒に来てくれるかな?」

木村刑事にそう言われたので僕は

「ええ、構いません」

と答える。

「詩織、お茶を四人分用意していくれる」

「わかった」

そう言って詩織は台所の棚にある客用のコップにお茶と氷を入れて、母さん、、父さん、僕のコップに同じようにお茶と氷を入れる。

三年生組たちに怪しまれないようにあえて僕だけを呼んだのだろう。同じ親からの承諾なら、話は僕だけいれば充分だ。

僕と母さん、木村刑事は父さんの部屋に入る。

父さんの部屋にある応接用の椅子に父さんと母さんが座り、向かい側には

「失礼します」

と言って座る木村刑事。

その仲介に入るように僕は机の側面側に座る。

「単刀直入にお願い申し上げます。今回の事件に春樹君を含め、一、二年生の修正部に協力してほしいのです」

「そうですか。‥‥‥内容を聞かせてください」

父さんが話を進める。

「わかりました。今回の事件では大規模なテロが京都で起こることが分かっています。犯人から直接、小型爆弾とともに手紙が届きました。そして今回の事件の被害者になりゆる者は、修学旅行生が被害にあう事が推測されています。つまり、今の岸川高校の三年生も被害の一環に入る可能性があります。そこで、修正部の一、二年生の力を貸して欲しいのです。お願いします。どうか私たちに力を、協力をお願いします」

木村刑事が立って深く頭を下げる。

「もちろん、責任は私が全て取ります。もし、事件が解決せず被害が出たとしてもそれは彼らの責任ではなく私の責任です。彼らが無事帰ってこれる事も、もちろん保証します。だからどうか!私たちに彼らの力を借りることをお許し願います」

木村刑事は未だ頭を上げない。

確かに僕が木村刑事でそこに被害を最小限にゼロにできる可能性が秘めた人物がいるのなら、なんとしてでもその人物の力を借りたい。

それが今回、僕たちであって今までにいろいろな事件を解決してきた。

いつものように、誰かを守るために必死になって、今ある知識を振り絞って事件を解決させる。

それが今回は京都でやるだけだ。何も変わったことはない。

いつも通り常識はずれな事をしている僕らだ、必ず事件を被害をゼロにしてやる。

そのためにもまず二人の承諾をもらわなければならない。

「母さんはどう思う?」

父さんが問いかける。

さすがに人前では「母さん」と呼ぶんだ‥‥‥。

「そうね。私は反対よ」

「‥‥‥え?」

母さんからの口から予想もしていなかった言葉が出てきた。

「当然よ、春樹。春樹はまだ一七歳の高校二年生。そんな子供を簡単にテロに関わらせるのは嫌よ。いくら春樹がすごい推理をしようと私は反対する。もちろん、詩織も唱ちゃんも」

らしくなく親っぽいことを言う母さん。

もちろん母さんは僕の本当の母さんだ。

でも、いつものように適当な感じはなかった。

「でも、父さんはそうじゃないみたいよ」

「‥‥‥え⁉」

期待を含めた驚きの声を上げる。

「そうだな。母さんの言う通り親としてはそんな危険な場所に行ってほしくない。でもだからと言って救えるかもしれない何千何万の命を見捨てるのもどうかと思う。まあ、つまり俺の意見は救える命は救え。片っ端から全部、春樹が、春樹たちが救え」

「じゃあ‥‥‥」

「でも、まずは母さんを安心させてからだ」

そう言って父さんは席を立って、何かを検索し始めた。

そしてコピー機から一枚の紙が出てきた。

その紙を僕に渡す。

『三武道関東大会!参加者募集中!』

どうやら武道の大会のようだ。

「その大会では、弓道、剣道、柔道の三つの武道でチーム戦で競う大会だ。三つの武道の各点、総合点全て三位以上取ってこい。

それが出来てさらに、そこを見ろ」

『実践!選抜大会』

「その三武道大会で勝って、さらに全国から集まる、実力者又は春樹みたいな超人が参加する大会にも勝って来い。それが条件だな。自分の身が守れない奴に危険な場所に行かす気はない。俺からは以上だ」

なるほど。結構簡単な条件な気がする。

「ああ、それ俺でも一四位だったから、頑張れ」

お父さんで一四位。意外とダメかもしれないぞ。

いや、ダメとか言っている場合ではない。勝たなければならない。

それが、最初の一歩だ。

「木村刑事。僕たちを事件をテロを阻止するのを手伝わせてください」

僕は言い切った。この大会では必ず勝つ、と。

「頼んだよ」

木村刑事は一言僕たちに言った。

「では、私はこれで失礼させてもらいます」

「下にいる夫婦はもう少し楽しませてあげてね」

余計な一言を言う母さん。

拓斗先輩と木村先輩の事だろう。

「ええ、分かっています。遅くならないようにお願いします。もし、遅くなりそうでしたら、迎えに行きます」

「大丈夫ですよ。遅くなりそうでしたら泊めさせますので。着替えとかもありますし」

「で、ですが‥‥‥分かりました。その時は娘をお願いします」

何かを察して、諦めた木村刑事。

父さんも何かを察していたが僕には全くわからない。

これは親だけにしか分からない事なのかもしれない。

「あれ?詩織は?」

お茶を持ってくるように頼まれていたが、まだ来ていない。

僕は父さんの部屋のドアを開ける。

そこには、体育座りをした詩織がいた。

「だって、私が来たときちょうど木村刑事が深々と頭を下げていたんだもん。入りようがないでしょ?」

まだ何も言っていないのに言い訳をする詩織。

タイミングを逃ししてしまったようだ。

「そうだな。今回は入ってこなかった方が正解だ」

逆にあのタイミングで入ってこられてたら、気まずい空気になっていただろう。

今回に関しては本当に正解だ。

それにしても父さんでも一四位までしか上がれないというと相当苦戦しそうな気がする。

「詩織、唱と坂本を呼んでくれ」

「わかった」

詩織はそう言って三人を呼んできてくれた。

「この大会で上位三位に入りさらにこの選抜大会でも上位に入らないといけなくなった。だからどうするか作戦を考えようと思う」

「待て、俺はまだ親の許可が下りていないはずだぞ」

「そこは木村刑事が何とかしてくれる。」

「だとしても、春樹。お前がいればそんな条件簡単だろ」

確かに坂本の言う通り、僕以外にも唱や詩織がいれば何とかなると考えたのだが

「智菜」

僕はスマホに呼び掛ける。

『はい。お呼びですか?』

「三武道大会と選抜大会に付いて調べてくれ」

『了解です。しばらくお待ちください』

そしてしばらく沈黙が流れた。

『三武道大会についてすぐに出てきました。この大会はプロアマ関係ない大会です。一チーム三人から五人で各競技トーナメント戦で競い合います。ですが、その大会では各競技全員、市大会優勝経験ありの人がほとんどですね。それほどレベルが高い大会です。その理由がこの大会で優勝に大きな価値があるからです。優勝賞金二〇〇〇万、就職活動では場所によっては、優勝しただけで合格されることが有ります。そんな賞金が付いてくるのなら、経験者は本気になりますよ。だから初心者は一〇年に一度のペースでしかいないんです。参加チーム数の平均は一三組のチームです』

智菜から簡単に三武道大会について説明をされた。

「気になったが、なぜ選抜大会が簡単に出てこないんだ?」

坂本が智菜に問う。そのことは僕も気になった。

『まず、その大会は表上三武道大会上位三位だけが参加権利がある大会となっていますが‥‥‥』

智菜が何かに険しそうな顔をしていた。

『その大会では多くの怪我人が出ています。調べたところ最も重症だったのが、右腕骨折、左腕打撲、肋骨複雑骨折、そして、この大会による外傷の怪我で椎間板ヘルニアと言う腰やお尻から足にかけて痺れを感じる病気に掛かっています。幸い椎間板ヘルニアは早く発見されたので症状は今頃収まっていると思います』

「つまり障害などを抱える可能性があるという事だな」

坂本が簡単に言う。確かにその大会は危険すぎる。ただそんな大会が今も続いているのが気になる。

『そういう事です。そしてこの大会では春樹さんのような人を見つけるためにあるのです』

「僕みたいな?」

僕と言えば、動物と話せたり出来るくらいだ。それに関係するという事か?

『例えば春樹さんの場合、動物と話せるですが、他には炎の規模や位置が分かったり、誰かの行動が匂いや未来視できたり、まるで時間が止まったような速度で移動、攻撃をしたり、超音波のようにどこに誰が何があるか分かったりなど、ずば抜けた何かを持っている人、つまり科学を超える人が集まる大会なんです。その映像を入手しました』

僕の隣にずば抜けたプログラミングの才能を持つものは、別なのだろうか?と、疑問を持ってしまうくらい智菜は容量がいい。

智菜は僕のスマホからPCに移動して、映像を流した。

画面には防犯カメラのような位置から撮影された動画が流れる。

いや、位置的に防犯カメラ以外ないだろう。

画面には男が二人いた。二人とも手には木刀を持っていた。左側の男をAとして、右側をBとしよう。

左側にいた男、Aが木刀を構えた瞬間、Aは消えた。そして一秒も経たないうちにAはもう一人の男、Bの前に立ち左側から右へ木刀を振るがBはそれを木刀ではじき、反撃を仕掛ける。Bは大きく縦に振りかぶるがAはまた消えてBの背後に回って、右下から左上に振り上げる。がBはそれをぎりぎり体をそってよける。

Bは体勢を崩さずAに突きを入れに行った。Aはその突きを避け、Bの間合いに入りまた右下から左腕に振り上げた。Bはその攻撃を避けず、木刀でぎりぎり受け止めたが、少し後ろに飛ばされた。そこで映像は止められた。

『これが優勝を決める戦いでした』

「これはトーナメントではないな」

『はい。この試合では各場所に各チームがバラバラに配置してスタートします。そして最後までチームの誰かが残っていれば優勝です。』

「ちなみにこの二人のずば抜けたものは?」

詩織の質問に智菜ではなく

「左側が、時間を止めたような速度で移動する。右側が数秒の未来が見える、または攻撃の予測線が見える。だと思う」

僕が代わりに応えた。

一様、何を持っているかは、簡単に分かるようになっていないといけないので自分何りの回答を言った。

『その通りです。細かな事は私でも分かりませんが、春樹さんの言う通りです』

「なあ、春樹」

さっきまで静かだった坂本が口を開く。

「これ、俺は参加しないぞ。絶対嫌だからな!」

凄く怯えていた。

そこまでビビるほどではないだろう。ただカメラでは映らな方だけで、実際には少し見えたりするのもだろ。

「春樹、どうする?」

唱が僕に尋ねる。

確かに、幾ら僕たちが運動神経が良くてもこんな試合はまともに太刀打ちできない。

あのバカな父さんは何を考えているのか‥‥‥。

『ちなみに一歩は女性ですよ』

「え?」

智菜の言葉に驚く。

どこをどう見ても男にしか見えないのだが。

『少し待ってください』

さっきと同じ映像が流れて急に止まる。

その画面はアップされ

『ここを見てください』

智菜が指したのは左側の人の背中、いや首元をさす。

そこには白い何かが見える。

『この人の服装は袴です。そしてこの襟もとに見える白いのは巫女の髪飾りの元結紙です。映像の続きの一部を見せますね』

別のタブで開かれた画像には男性だと思っていた人が長い髪を揺らしていた。

「春樹この人」

唱が僕に問いかける。唱のさっきの口調だと、この人を知っているようだ。

「知ってるのか?」

そう聞くと今度は詩織が

「知ってるも何も」

と口を開き

「「木村先輩のお母さんじゃ‥‥‥」」

二人が声を合わせて言う。

僕はよくアップされた女性の顔を見る。

確かに言われてみれば木村先輩のお母さんに似ている気がする。

「そもそも巫女って、神社で働く人だよな。木村先輩のお母さんは神社の跡継ぎとかあるんじゃないのか?」

「この前の鍋パーティーで実家が神社だって言っていたよ」

「跡継ぎが嫌だから大会で優勝、又はお父さんが認める結婚相手を見つけるという条件を、見事達成したって敬香さんが言ってたわ」

「何その話。僕全く知らないんだけど」

「なんで知ってるかは言えない。そもそもお兄ちゃんは鈍すぎるんだよ」

「春樹は鈍い」

それ、今関係あるのだろうか‥‥‥。

というか僕は鈍いのだろうか。

いや、僕は結構察しの良い方だと思っているのだが、違うのだろうか。

「ほんとに鈍いね」

「鈍すぎ」

そこまでなのだろうか。

「こいつに感情の理解させるのは難しいゆえに、バカだから仕方がないと俺は思う」

坂本までこう言われると何も言葉が出てこない。本当にごめん。

感情が無いって本当につらい。

「それより、予定は決まったようだから、早速明日から特訓だね」

詩織が話を戻して会議は終了した。

そして僕の部屋は僕一人だけだ。静かになった部屋で僕はベットに寝転んだ。

本当に京都に行けるのだろうか。

条件はかなり厳しい。僕たちを鍛えてくれる人がいたとしても上位から落ちる可能性は大いにある。

物事がいつも通り簡単に進めばいいのだが、何となく嫌な予感がする。

「そんなに心配?」

「いつも唐突に現れるんだな。智夏」

僕はそう言いながら、体を起こす。

「こんばんは~。唐突ではないと思うけど?」

「まあ、確かに大体は予想できるけど。で今回は何かあるのか?」

「まあ、ちょっとね。元気づけようと思って」

逆にもっと不安になりそう、とは言わないけど‥‥‥。

「それより今回の事件は大規模だね。大丈夫?」

「ああ、事件には簡単に解決することはできないだろうな」

「もう、大会に勝つ前提で話している事に私は驚くよ」

とすごく呆れられてしまった。

「大会は何とかなりそうだ」

「ソウナンダ。ソレハヨカッタネ」

棒読みで返されてしまった。

そこまでおかしな事は行っていないと思うが、無意識に行ってしまったのだろか‥‥‥。

「それより、どうなの事件の方は」

智夏に言われて、僕は言う事は何もない。

「全く進展していないようですね」

「当たり前だ。現地に行かないとわかない事もあるし、まだ詳しいことは聞かされていないんだ」

言い訳のように聞こえるが、本当にまだ木村刑事から事件の詳細を聞かされていない。

分かっているのが犯人が「リバス」と名乗り、大規模なテロを京都で起こす事だけだ。

名前の事を考えて見るが、よく分からない。

少なくとも、何かを意味しているのは分かっているのだが、そこから先が分からない。

「まあ、焦らなくていいじゃないの。それに先に大会があるし」

「そうだな」

「それより小説の方の進みはどうなの?」

「なんで智夏がそれを知っているのか、先に聞かせてもらおうか」

「さぁ、なんででしょう」

「まさか、覗き見したのか」

「なんで、私が変態みたいな扱いになっているの?」

「さぁ、なんででしょう」

智夏の真似をするように僕は言った。

そして、智夏は自分がからかわれている事に気が付き、頬を膨らましている。

「感情がないくせに、からかうのは上手なんだね」

「うるさい」

「感情がこもってないよ」

「ありがとう」

「褒めていないんだけど」

僕の事を完全にバカにしているというか、諦めが付いてきている風に聞こえるのは気のせいだろうか。

「まあ、元気は元から有るみたいだから大丈夫そうだね」

「ああ、不安は残るがな」

「感情がこもってないのに、凄く傷ついた気がする」

胸を押さえて痛そうに言う智夏。そんなバカをやっている智夏に僕は大きくため息をした。

「すまない。冗談だ」

「傷ついたことが嘘だなんて今更言えない」

「漏れてるぞ」

本音を聞いても僕は何も思わなかった。

冗談だったから怒る理由はどこにもない。

逆にそこで怒ると、ただの逆切れである。

「じゃあ、私は帰るとするよ」

「そうか。気を付けて」

智夏はそう言って、僕の部屋を出て消え去っていった。

僕はもう一度ベットに寝転ぶ。

僕は何も考えることが出来ず、そのまま眠てしまった。

 

「お‥‥‥ん、‥‥おに‥‥ん」

どこから遠い場所から声がする。

「お兄ちゃん!」

「——⁉」

僕は詩織の声で一瞬で目が覚めた。

「ッびっくりした。急に起きないでよ」

確かに寝ている人を起こしているときに急に眼を開かれると、ただの恐怖でしかない。

「ごめん」

僕はそれだけ言って、体を起こす。

カーテンの隙間から朝なのに高く昇っている太陽の日差しが微妙に差し込んでくる。

「大丈夫?また、痩せてない?」

詩織は僕の体の腕や足を触る。

触られると確かに少し痩せた気がする。

「そういう詩織も少し細くなったな」

「ありがとう。でもお兄ちゃんは痩せすぎ」

「気を付けるよ」

僕はそう言いながら、膝の上に座る詩織を抱き上げて二階に下りる。

「なんで私はお姫様抱っこされているんだろう」

「僕も分からない」

「無意識⁉」

僕の行動に何ならかの意志が思わないで欲しい。

僕も人間なので、抜けいている部分はある。

「あの、そろそろ、下ろしてください」

頬を赤く染めている詩織。

僕は詩織を下ろして、洗面室で顔を洗う。

そして、僕の頭が低くなっているときにリークが、僕の頭の上に乗っていた。

僕はリークをどかすことなくリビングに行く。

「春樹、おはよう」

「おはよう、母さん」

母さんに朝の挨拶を返す。

「珍しいな。春樹後輩が遅起きとは」

仁先輩が朝食を食べながら僕に言う。

その正面で仁先輩とは違い、洋食派の詩穂先輩が食パンを口に含んでいるのに、固まって僕を見てきた。

そして、ゴクリと食パンを飲み込み、

「後輩君、痩せた?」

と言った。

「確かに、少し痩せているように見えるね」

と結局、昨日は家に帰ることなく家で止まって言った木村先輩も言う。

「ちょっと痩せたみたいです」

僕はそう言っていつもの席に着いた。

目の前には母さんが作った、卵サンド、ハムサラダサンド、ポテトサンド、カツサンドが並んだ。

「今日は、しっかり食べていきなさい」

お母さんは僕に念を押すように指を指す。

「ありがとう」

僕は僕を心配している母さんに感謝の言葉を一言、言った。

「いただきます」

そう言って、卵サンドから食べ始めた。

母さんが作っていくれたサンドイッチはとてもおいしい。

卵にマヨネーズ、塩と胡椒が微妙に聞いて美味しい。

「春樹後輩、何かあったのか?」

仁先輩の一言で、僕は一気に眠気が無くなった。

そして冷静に、いつも通りに

「特にないですが、どうかしたんですか?」

「いや、ないならいいよ。俺の気のせいだ。ごちそうさまでした。お母さん、今日もおいしかったよ」

仁先輩はそう言いながら、食器を洗い場にいる母さんのところに行った。

「まあ、ありがとうね」

母さんはそう言いながら洗い物を片付けていく。

「春樹、考えながら食べるのは、行儀が悪いよ」

「ごめん」

僕はそう言って、母さんが作ったサンドイッチを食べ終わる。

そして、皿を母さんに渡す。

「ご馳走様」

「はい」

僕の言葉に母さんはそれだけ言って、皿を洗い始める。

「お兄ちゃん、早くして」

「わかった」

詩織に急かされて、僕は急いで自室に戻って、制服に着替えて、荷物を持って、玄関へ急ぐ。

「ごめん。遅くなった」

「ぎゃあああああああああ」

僕がそう言った瞬間、二階から悲鳴が響いた。

「何事?」

詩穂先輩がそう言った。

すると、

「遅刻しちゃうー」

と急いで階段から下りてきた先生。

いつも通りの少しお洒落な服装。

けど、髪の毛はぼさぼさで、眼鏡を付けていた。

「はあ、ごめん先行ってて」

「わかった。お兄ちゃんも遅刻しないように」

「うん」

みんなには悪いが先に行ってもらう事にした。

「先生、落ち着て、早くしてください」

「どっちなの⁉」

とドタバタしながら叫ぶ。

二階へ登ってい行くとまた、すぐに下りてきた。

そして、洗面器の鏡を見て、再度身だしなみを確認をする。

「あれ?どうして春樹君だけ?」

「今さらですよ」

先生は靴を履いて玄関のドアを開ける。

「行ってきます」

僕が言うと先生は一回外に出たのに戻って

「行ってきます」

と言った。

そういうところはしっかりとするんだ、と少し感心した。

「春樹君、急ぎますよ」

「分かってますよ」

先生は駆け足で僕に言う。

だが、この速さだとぎりぎり僕は間に合うか間に合わないかだ。

つまり、この時点で先生は遅刻確定だ。

なら

「失礼します」

「え⁉」

俺は先生の膝裏と背中に手を回して持ち上げた。

「まさか‥‥‥」

「しっかり捕まっててください」

僕は足に力を入れて、全力で走った。

「い゛ーーーーーーやーーーーーー!」

僕が全力で走り始めた瞬間、先生は絶叫し始めた。

普通に耳元で叫ばれると耳がものすごく痛いが、今は、早く走っているせいで、風で先生の絶叫は小さく聞こえた。

三分後

「あ、お兄ちゃん」

「追いついたみたいだな」

詩織と仁先輩が振り向いて、足を止めて待ってくれた。

「さすが後輩君、速いね」

「化け物だな」

詩穂先輩に褒められ、拓斗先輩には怖がられた。

「チーターね」

唱は僕が何の動物の力を使ったのかを当てた。

「もう、絶対に寝坊しない」

先生は、魂が抜けていきそうな感じだった。

「お兄ちゃん、しばらくその力を使うの禁止ね」

詩織からは禁止令がだされた。

「それ以上痩せたら、一日をまともに過ごせないよ」

「大丈夫、常に過ごせてないから」

「開き直った⁉」

先生が驚く。

普段、先生の授業は起きているが、それ以外の興味がない授業は寝ているのだ。

この生活は「まとも」とは言えないだろう。

その日、僕は珍しく全授業、寝ずに真面目に受けた。

部活終了後。

僕たちは、木村先輩のお母さんが借りてくれた道場に向かった。

道場にはすでに木村先輩のお母さん、敬香さんが袴を着て待っていた。

「こんにちは。忙しい中、ありがとうございます」

僕は丁寧な言葉で言う。

「良いのよ。久しぶりだから、鈍ってないか心配だったのよ。だから一石二鳥。こちらにも利益はあるから、気にしないで」

いつも通りの敬香さん。

「ありがとうございます」

「まあ、そうかしこまらないで」

敬香さんにそう言われたので、僕は

「分かりました」

「素直に受け止めた⁉」

と詩織に驚かれてしまった。

「俺もそうする。相手がいいと言っているのだ。それでも、敬語を使い続けると、かえって相手を不快にさせてしまう事もある」

どうやら、坂本とは気が合うようだ。

「それより、早速始めましょうか。何から教えればいいのかな?」

「弓道からお願いします」

一時間後‥‥‥

「うん、みんな完璧ね。百発百中、的に当たっているうえに、真ん中に当たっているね。本来、的のどこに当たっても差は開かないから気にしないで、的に当てる事だけに集中してね」

「次は柔道をお願いします」

一時間後‥‥‥

「うん、みんな黒帯のプロの人に勝てているから大丈夫ね」

さらに一時間後‥‥‥

「うん、剣道もプロの人に余裕で勝てているから大丈夫ね」

と難なく、僕たちはプロを超える技術、実力を手に入れてしまった。

これだと、今まで努力してきた人たちが殺しに来るかもしれないな。

まあ、殺しに来たとしても今の僕たちに勝てるかどうか、何となく先が見えてしまう。  

「じゃあ、本命に入ろうか」

敬香さんは木刀を手に取る。

「じゃあ、まず春樹君。この中から好きなもの選んでね」

と五本の木刀を僕は一本一本違いを確かめる。

一本一本、少し重さが微妙に違う。

「僕はこれで」

と右から二番目を選ぶ。

つまり、二番目に思い木刀を手にした。

「僕、素人ですよ」

「良いの。避けることに集中してもいいよ」

敬香さんすごい自信だ。

せめて一本入れるつもりだ。

「じゃあ、行くよ」

敬香さんは木刀を構えた瞬間、敬香さんの姿が消えた。

次の瞬間、敬香さんが目の前に立っていた。

そして、大きく横に振ってきた。

「——⁉ッく」

僕は急いでその振りを木刀で防ぐ。

ぎりぎり立ってられるくらいの衝撃が伝わってくる。

また、敬香さんの姿が消えて、僕の背後に回っていた。

そして、もう一撃、斜め下から上に振り上げてくる。

逆に僕は上から木刀を振る。

そして、木刀から、手から、衝撃が走る。

そして、力がぶつかり合って、木刀がぎりぎり鳴る。

「春樹君、本当に素人?結構、慣れている感じがするけど」

「棒を振った事は何回かありますが、こういうのは初めてです」

「へぇ~。どういうときに棒を振ったの?」

「中学三年の時、詩織がクラスからいじめられて、僕がその主犯が詩織にやったことを全てやり返すときに、やりました」

僕は昔の詩織を暴露した。

「ちょっ、お兄ちゃん。あんまり言わないで」

本人はとても嫌がっているようだった。

「へぇ~。詩織ちゃんがいじめに。そんな風には見えないけどね」

「まあ、昔はもっと内気な感じでしたから」

僕は昔の詩織をさらに暴露する。

「もう!やめて!お兄ちゃん、それ、いじめがおさまらなくて、校長に証拠を持っていった奴じゃない。その子は結局反省しなかったから、お兄ちゃんが、容赦なく痛めつけたやつじゃん!しかも、無表情で!」

そうだっただろうか。ただただ、その人を痛めつけたことしか覚えてない。そもそも、その人がどんな人なのかも思い出せない。

「春樹君、それはダメだよ」

「でも、そうしないと、その人はいじめを辞めなかったんだね。僕はあれが正しいと思っています。後悔はしていません。する心すらありません」

「さすが無感情推理と言う、推理名が付いたほどはあるね」

敬香さんは、僕を褒めたの、僕に呆れられたのか、よく分からなかった。

「でも、敬香さん、今の僕はそれより強いです。一本は取らせてもらいます」

僕は木刀を力ずよく握り、一旦敬香さんから距離を取った。

体勢を整えた。

敬香さんはさっきと同じように姿を消した。

そして、いつの間にか背後に回られていた。

敬香さんはそのまま木刀を大きく縦に振りながら前進してきた。

僕はその木刀を、木刀で右から左へ衝撃を与える。

だが、経過さんの木刀は止まらない。

だから、左に向かって衝撃を与えた木刀をそのまま円を描くようにして下ろす。

そして敬香さんの木刀は下に行ったので、足で踏み木刀を一瞬動かなくさせる。そして敬香さんの首をめがけて斜め右下から左上に振った。

「残念、惜しかったね」

さっきまで目の前にいた敬香さんは僕の背後に周り、僕の体を封じて、首元には木刀が有った。

「まだまだ、修行が必要ね。まだ今日は七割も手加減したら、明後日には、私を本気にさせてね」

強すぎる。

敬香さんの動きには一切無駄が少なかった。

対して僕はどうだろうか。

今、よく考えると動く直前の動作、足に力を入れる速度、行動のパターン。何もかお、敬香さんからしたら、遅すぎる上に、無駄な動きがよく見えているはずだ。

ここまで差があるだなんて。

「まあ、これからだから、気にしないで」

微笑む敬香さん。まだ余裕な様子を見せる。

本当に僕の周りの人たちは凄すぎる。





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