第3話
「こうーはいくん!どういう事だい?」
朝から騒がしい詩穂先輩。
詩穂先輩は僕の机に雑誌を叩きつけられた。
そこには
『小学校教師が生徒にいじめ。——修正部がまたしても解決!』
と見開き一ページに大きく書かれていた。
まさか、こんな事にも雑誌に載るとは、驚きだ。
いや、結構重大な事件だったけど。
僕たちが解決しただけでこんなに大事になってしまたような気がしているのは気のせいだろうか。
それより、僕は少し寝不足で、貴重な休み時間を睡眠に浪費するつもりが、なぜこんなことになってしまったのか。
「ずるぞ!私も名前書かれたかった!」
と春樹、太助、唱と書かれてある部分を蛍光ペンで引いて分かりやすく、そこを指す。
「今回は、本当にあやふやのところから始まったんで、他の誰かが解決してくれているの可能性もあるので、あえて相談しなかったんです。それがこんな形になってしまっただけですから」
何とか説得しようとしているのだが、
「それでも、私に言ってよ!」
と駄々をこねる幼稚園みたいに言う詩穂先輩。
そこまでして、雑誌に名前が載りたい物なのだろうか。
僕はそこのところよく分からない。
「そこまでして、名前を乗せたい物だろうか、みたいな顔をしているぞこーはいくん!生意気だぞ!」
「先輩、もうすぐ授業始まりますよ」
「あ、ほんとだ。誤魔化しても無駄だからね!また来るからね!」
そう言って、詩穂先輩は走って教室を出て行った。
「疲れる人だ」
「そういう物だろ」
後ろでiPadを開いて何かを見ている坂本。
その態度はどこかの偉い貴族のような感じだった。
「坂本は時間があれば、どこでもスマホやら、パソコンやら、iPadやらを開くんだな」
「当たり前だ。常に新しい情報を知っておかなければ、世間に置いて行かれるからな。プラグらマーは常に最新で行動をしなければならないんだ」
「誰かの名言か?」
「プルグラマーとしての常識だ」
「そうか」
本当に昨日の坂本は嘘のように消えてしまっていた。
昨日の坂本の方が僕は好きなのだが、本人がそうしないという事は、誰にも見られたくないのだろう。
仕方がない。
「そろそろ、授業始めますよー。席についてください」
次の授業、三限目は高橋先生の生物だった。
これは簡単に寝れそうになさそうだ。
「きりーつ」
委員長の掛け声で全員が立つ。
「気を付け。礼」
軽く頭を下げる。
「お願いします」
「「「お願いします」」」
三五人の適当な挨拶が重なる。
むしろ、三五人全員、声をだしていないだろう。
なんせ、僕の近くに座る坂本の声が一切聞こえなかったから。
本当に、何しにここにきているのか。
その坂本はカバンからPCを取り出して、キーボードを叩き何かの作業を始める。
これが毎度の事、誰もが迷惑だと思う事を彼は知らない顔で始めてしまうのだ。
彼が叩くキーボードの音は僕からしてみれば心地よい音だ。
「こ、この食物連鎖が、生物界を成り立たせているんだけど‥‥‥」
カタカタカタカタカタカタカタカタ‥‥‥
「人間によって、‥‥‥」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ‥‥‥
「す、すす、少しずつ壊れて、し、しまうの‥‥‥」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカ‥‥‥
「そして、絶滅き‥‥‥」
カタカタカタカタカタカタ‥‥‥
「危惧・‥‥ふぎっ!‥‥‥」
先生は坂本のキーボードを叩く音に限界を感じて、ペンを壊してしまった。
その後にあるのは、キーボードを叩く音だけが残った。
「坂本君。少しは授業に参加してくれないかな?」
「なぜ、毎度毎度そのペンを折っては、俺に同じ質問をする。授業に参加させたいのなら、それなりに俺が興味を湧くような授業にしろ。お前の授業は小学生の授業か?」
いや、確かに今回の単元は小学生で一度やったことのある単元だが、高校だともっと深くなるのだが、その単元を小学生の授業と言える坂本がすごい。尊敬する。
「で、でも、最近学校に来たんだから、授業に参加しないと。そうじゃないと何のためにここにいるの?」
「俺は授業を受けにここに来たのではない。授業に出席して、ただ高校卒業証明書と大学受験資格が欲しいだけだ。それに小テストと、定期テストは全て満点だろう。そこのキーボードの音で寝そうになっているやつと同じで」
僕はギクッと心臓が跳ねてしまった。
図星を突かれ僕は何も言い返せない。だが、坂本は僕とは言っていない。だから、僕ではない可能性もある。
ほら、他の生徒とか‥‥‥。
辺りを見渡してもみんな、ぱっちりと目を開け、僕に視線が集まった。
え、なんでみんな僕だと分かったの?
そう質問したくなったが、何とか飲み込んだ。
だが、先生だけはその人が僕だと気が付いていなさそうだった。
その証拠に
「ねぇ、私の授業はそんなに面白くない?聞く意味ない?私、教師失格なのかな?」
と僕に縋り付いてきた。
完全に先生は教師としての自信を無くしてしまっている。
本当に正論を言葉にしてしまう癖はどうにもならなそうな坂本だった。
「安心しろ。お前が失敗したら、俺の代わりに春樹が代わりに責任とって養うそうだ」
「勝手に決めるな」
思わずツッコミを知れてしまう。
まあ、先生くらいの人ならいいのだが、僕のは他の問題児を背負っている。
まあ、それは先生の義妹の唱のだが、まあ、いいか部屋も増えるそうだし。
ってよくねえ!
自我ツッコミをしてしまう自分に呆れてしまった。
************
「ただいま」
就職してまだ、一か月しかたってない新人社会人になった僕は家に帰宅する。
僕が高校二年の時から三階建てであるこの家。
家は、昔より静かだ。そんな寂しさを感じたいのだが、
「吉田君!どうしよう!同僚の子も、今まで私が担任を盛った生徒たちも結婚していくよ!私だけおいて置いてけぼりだよ!」
高橋先生は未だ結婚できず、教師をやっている。
そんな先生は情けなく僕に縋り付く。
「もういっそ、あの約束果たしてもらおうかな」
僕は何のことなのか分からない。
「ほら、高校二年の時に約束したあれ。坂本君の代わりに責任取って、私と結婚して」
突然の先生からのプロポーズ。
僕は胸を高鳴れせていた。
どう答えればいいのか。鼓動がどんどん速くなっていく。
「お願い。私と結婚して」
先生に見つめられる僕は、動揺してしまう。
「ぼ、僕は‥‥‥」
************
―—って、アホか!
想像するだけで、寒気がするのになぜか想像してしまった自分が情けない。
「なぜ、僕に責任を擦り付ける」
「その方が手っ取り速いからだ」
「二人とも私で争わないで」
先生がそう止めに入るが
「取り合いではない。譲り合いだ。その台詞の使い方を間違っているぞ」
「それ以上、傷口に塩を塗るな」
僕はもう、彼の思考をそうすることもできないと確信して、面倒になってきた。
「それより、良いのか。それでペンを折ったのは何本目だ?」
確かに、坂本の言う通り、坂本が登校した日の先生の授業はペンが折れている。
今日で一三本目だろうか?いや、一四、一五本目の可能性もある。とにかく結構な数を折っているのは確かだ。
「大丈夫。予備を何本か持っているから」
そう言って、ポーチから予備の新しいペンを取り出して僕たちに見せる。
その費用、どこからきているのだろうか。まさか、部費で買っていないよな。
そこから授業は一向に進まず、悲惨な状態で授業は終了。
ついでに言うと次の授業で小テストをするそうだ。
「疲れた~」
ため息交じりに僕はそう言って、楽な姿勢を取る。
この姿勢だとこのまま寝てしまいそうだ。いや、一層寝てしまおう。
「吉田君、坂本君!高橋先生が呼んでるよ」
クラスの女子にそう言われて僕たちは先生の元へ行く。
さっきの事を根に持っているのだろうか。
それにしては、呼び出すのが遅すぎる。忘れていたのだろうか?
「校長先生が校長室に来るように言われたわ。また何かしたんですか?」
「なぜ僕たちをすぐにそう問題を起こしたことになるんですか。まだ何もやっていませんよ」
「てことは、この後何かするのね」
「そういう事じゃない」
先生のバカすぎる発言に僕は呆れてしまった。
「呼ばれたんなら、早く行こう」
「そうだな」
僕と坂本の二人で校長室に向かった。
それにしても僕たちを呼び出す時間が不自然だ。
普通なら、昼休みや放課後に呼び出すはずなのに、一〇分間と言う短い時間で何を話すのだろうか。
時間帯的にもう、席についておかなければならない時間だ。
「あれ、お兄ちゃんだ」
たまたま出会った詩織。のはずなのだが、どうやら詩織とほぼ行き先が同じのような‥‥‥
「どこに行くんだ?」
「校長室だけど?」
‥‥‥。
なるほど、修正部全員声を掛けているという事か。
でも、それなら放送で呼び出せばいいのになぜだろうか。
「春樹」
今度は唱と出会った。これも偶然ではないようだ。
校長室に着いた僕たちは、僕が代表で校長室をノックする。
「どうぞ」
部屋の奥から校長の声が聞こえたのでドアを開ける。
この校舎は比較的古く自動ではないのだ。
そしてこの部屋に来るのは二回目だ。数か月前に起きた
「失礼します」
そう言って僕たちは部屋に入る。部屋に入ると校長先生が僕たちを迎え入れるように『校長』と書かれたプレートの机に両肘をついて待っていた。
「おお、待っていたぞ」
そう言って校長は立ち上がる。
だが、別の気配も感じた。
校長の机の前の応接用の机と椅子が有る。
その椅子の置く側に
「木村刑事?」
そう、木村陽那花先輩の父親、木村刑事がいた。
木村刑事とは一緒に鍋をする仲までなるほどよくしている身近な刑事だ。最近は僕たちの活躍が有って、何段階か昇格したとかしてないとか、その辺は僕たちは知らない。
「やあ、こんにちは」
この木村刑事がここにいるという事は
「早速だが話をしよう」
事件の予感がする。
************
「単刀直入に言おう」
僕たちは応接の椅子に座り、向かいには校長先生、木村刑事が座っている。二人が並んで座ると圧力がすごい。
「君たちに協力してほしい事件があるんだ」
どうやら僕の予想は当たっていたようだ。
それは僕だけでなく、唱、詩織、坂本もそうだった。
「とりあえず、詳しく話を聞かせてください」
内容を聞かないと話は進まない。
協力するかは、詳しく聞いてからにした方が良さそうだ。
「わかった。だが!」
木村刑事の言葉に心臓が一瞬跳ねる。
「だが、この事は誰にも言わない事を約束してくれ」
どうやら、今回の事件は大規模のようだ。
誰にも言ってはならない。
今日のニュースではどの地方にも大規模の事件は起きていない。
という事は、これから起きることで政府が機密にすべきと判断した事件。
それはこの場にいたみんなが理解している事だ。
僕は唱、詩織、坂本、一人ひとり目を合わせて確認してしてから
「約束します」
そう告げた。
「協力感謝します。では本題に入る。これを見てくれ」
木村刑事に渡されたのは綺麗に折られた紙。その紙を開いてみる。
『やあやあ、警察の皆さん。私はリバスだ。
今ここに大規模なテロを起こすことを宣言しよう。
嘘だと思うなら、無視をすればいい。
丁度、宅配便から荷物が届いたはずだ。
中身はもちろん爆弾だ。今頃何人か怪我をしただろう。
だが、こんなものはお遊びさ。
もっと楽しいことをしてやる。さっきの爆弾の一〇〇倍は覚悟
をしておけよ。
だが、ノーヒントは面白くないだろう。
だから、親切な俺様が教えてやる。
場所は東京の修学旅行先、京都だ。時刻は六月二〇日から三〇日。
哀れに死んでいく子供たちが目に見えない事を期待しておくよ。
まあ、そうはさせないけどな』
紙にはそう書かれていた。
大規模なテロ?‥‥‥
「そこに書かれていた通り、警視庁に届いた郵便物には箱に入った本物の小型の爆弾が入っていた。その箱を開けた瞬間爆発する仕組みで、爆発の規模は小さい方だった。だが怪我人は何人も出た。それ以上の規模となると被害者は何千、何万と出てしまう。
だからどうか、私たちに協力してくれ」
そう言って、木村刑事は深く頭を下げる。
「何個か質問をしていいですか?」
「ああ」
木村刑事が頷く。
「今回の事件が起きる日付の中で、京都に修学旅行に行く、小、中、高は全部で何校ですか?」
「今のところ、八校だ」
なるほど。
テロが起きるから修学旅行を延期にしろなんて言うと京都がどうなるか分からない。
だから、最後まで隠し通して、事件が解決しあら世間にさらすという事か。
「その八校の中に岸高は入っていますよね」
「ああ、入っているとも」
校長が答える。
急に修学旅行を延期にしてしまうと不自然だ。
被害をなくすには、テロ犯を捕まえて爆弾の処理しか選択肢はなさそうだ。
「これはどの範囲まで機密にされているんですか?」
「必要最低限まで抑えるようにしている」
なるほど、それもそうだろうな。
ニュースとかでテロが起きますなんて流れたら一大事だ。
「その郵便物に届いた爆弾の種類は何ですか?」
「プラスチック爆弾だ」
定番と言えば定番の爆弾だ。誰もが知っているプラスチック爆弾。その爆発の様子はオレンジ色の線香がプラスチック爆弾の特徴だ。
そんな危険な爆発物の一〇〇倍の規模。その規模のテロに僕たちも協力することは、死を覚悟しなければならない。
いや、僕たちが、僕が参加しなくてたくさんの被害が出るのはごめんだ。
「僕は協力させてください」
僕は木村刑事の目を見て答えた。
「私も協力する」
唱も答える。
「私も協力させてください」
詩織もそう答えた。
「坂本は強制な」
僕が坂本に言った。
「今回は坂本の力が必要だ」
僕は真剣に坂本に言った。
「分かっている。俺も協力する」
坂本もどうやら最初から協力するつもりだったようだ。
「ありがとう。君たちの意志で協力してくれるのは嬉しい。だが、今回はばかりは君たちの意志だけではダメだ。君たちもわかっていると思うが君たちにも被害が及ぶかもしれない。もちろん責任はしっかり持たせてもらう。それは親の承諾が合った上でだ。今日の放課後、君たちの親の元へ私が直々に説明させてもらう。春樹君と詩織ちゃんの親の住所は知っているのだが、他の唱ちゃんと退助君の家の住所を教えてもらえないかな?」
木村刑事が説明を終えた後、親が住んでいる場所を聞く。
「そんなもの、警察なら簡単に知ることができるだろ」
坂本が木村刑事に言った。
確かに坂本の言う通りだ。
「確かに簡単に知ることはできる。だが、今回は君たちが住所を教えてもらう事は事件に協力するという承諾の代わりみたいな物だ」
「なるほど、一理ある」
坂本は納得したようだ。
「私は親がいないから、今は春樹の家族と同等。春樹のお母さんは私のお母さん」
確かにそうだ。
唱のお父さんはお母さんの借金で離婚して出て行った。そっちの方に先生がついて行き、唱はお母さんが育てることのなったが、お母さんが作った借金を唱の才能でほとんど返した。それは虐待と見なされ今も刑務所にいるはずだ。
そんな唱はお父さんの元で過ごすことになった。そして岸校に編入。
そしてお父さんは他界。
そうなると血縁関係がお母さんと繋がってしまう可能性が有った。
だから僕のお父さんの友人が二人の血縁関係を僕たちと繋げて貰ったのがつい最近の事だ。
「そうか。すまないな」
木村刑事は唱にそれだけ言った。
「俺は岸川町6丁目〇の〇〇だ」
六丁目は岸高から少し離れたところにある場所だ。
ちなみに僕の家は二丁目。岸高に近くなるほど数字は小さくなり、逆に岸高から遠くなればなるほど数字は大きくなる。
「ありがとう。それより一つ聞きたいのだが」
木村刑事は話を変えた。
「この前の小学校での出来事だが、坂本君が毒物を持っているという情報が入ってきた。事実か?」
確か、アレルギー反応に似た症状が出る薬物だったかな。
「あれは、ただのここにある化学室から取った食塩だ。大きさも丁度良かったから、使えると思ったから持ち込んだだけだ」
「ちょ、ちょっと待て。化学室の薬品物の棚は鍵がかかっているはずだ。どうやって取り出したんだ?」
「高橋先生が鍵を貸してくれた。あの先生バ‥‥‥いえ天然すぎ、いや、単純すぎで容易に鍵をもらえた」
確かに先生になら「科学の自主学習をしたいので薬品がある棚の鍵を貸しください」と言えば「そんな事ならいくらでも貸してあげる!」とか言いながら鍵をくれそうだ。
「まあ、高橋先生なら仕方がないな」
校長が呆れて言う。
今頃先生はくしゃみをしているだろう。
************
「——ッくっち!」
「先生風邪?」
生徒から心配された。
「そうではないと思うよ」
風邪ではないのは確かなのだが、くしゃみと一緒に一瞬、悪寒が走った気がする。
誰かが私の噂をしている気がする。
特に吉田君とか坂本君とか‥‥‥
************
「「はっくしゅん」」
先生に噂されたことを悟られた気がした。
「大丈夫か?二人とも」
「大丈夫です」
僕だけそう答えた。
坂本は何も言わないまま鼻をこする。
「さて、話は以上だ。授業に戻ってもらっていいぞ。時間を割いてしまってすまいな」
「いいえ。僕たちはいつでも協力するので」
木村刑事にそう言われたので僕たちは席を立つ。
「失礼しました」
そう言って校長室を出る。
大規模なテロ。プラスチック爆弾。修学旅行の宿泊ホテル。
謎の人物、リバス。
やっぱりこれだけのキーワードだけじゃ何も分からない。
僕たちは各自自分の教室へと戻る。
「遅れてすいません」
僕はそう言って教室に入る。
「やっと戻ってきやがった。これだから問題児は困るんだよ」
と嫌味を言ってくる先生。そんな言葉僕と坂本は微塵も気にしない。
「当然、遅刻として減点させてもらう」
僕はそれを聞いて驚く。
僕たちはただ説教のために呼び出されたのではなく、命に関わる大事な話をしていたのだぞ。
それで遅刻だから減点だなんてただの理不尽だ。
「なぜ俺たちは減点されなきゃいけない」
坂本が言う。周りの人から見れば逆になぜ減点されないのかが気になっている様子だった。
「当たり前だ。お前らは授業に遅刻をした。減点されて当然だ」
「俺たちは事情があって校長先生に呼び出された。事情があるのだから遅刻とは言えないだろう。違うか?」
「そんなもの知らん!私がその事情を知らなければ当然遅刻だ!」
なんとも理不尽な理論。それでもあんたは教師か!と言いたくなった。
「まあ、良いけど。たかが遅刻で通知表に影響でないだろう」
そう言って僕たちは自分の席に向かう。
その時坂本が振り向き先生に
「襟に何かついてますよ」
とそれだけ言って席に着く。
ほとんどの生徒が先生の襟に視線が集めた。
僕も先生を見た時から気になっていたのだが、先生の襟に赤い口紅が付いていた。しかもしっかりとキスマークだった。
「——ッ‼」
先生は口紅を拭こうとするがかえって襟が汚れていく。
先生が焦っている間に僕たちは小テストの問題を解き終え、先生の元へ渡す。
「まったく。教師がホテル感覚で学校に来るな」
坂本はそれだけ言い放ち、席に着く。
そして、その授業は気まずい状態となり、自習になってしまった。
ちなみに小テストは僕も坂本も満点だった。
************
「「「「「「「「ただいま」」」」」」」」」」
僕、詩織、唱、坂本、詩穂先輩、仁先輩、拓斗先輩、木村先輩に顧問の高橋先生が家に挨拶をする。
坂本だけが何も言わずに家に入ってきた。
まるで反抗期の中学生のようだ。
逆に木村先輩が家に挨拶をしてしまっている謎の現象。
「おかえり。今日はみんな揃っているのね」
母さんが出迎えてくれた。
「そういえば陽那花ちゃんは修正部に入部したの?」
確かにそれは僕も気になっていた。
「ええと、のちに入ります。今はソフトに集中したいので」
「わかったわ。総体後には三階が出来ているから安心していいわよ」
「え⁉また広くなるの?恐ろしき、吉田家」
何も知らなかった拓斗先輩が驚く。
「ええ、三人目も生まれることだしちょうどいい機会と思ってね」
「ていうか二階建てから三階建て何て不可能なんじゃ‥‥‥」
仁先輩が言う。
「あら、詳しいの?建築」
「まあ、そこそこ」
母さんは何か焦っている様子だった。その反応を見て僕は察した。
「本当の事を話してくれるかな?お・か・あ・さ・ん!」
それは詩織もそうだったようだ。
「仁君の言う通り、二階建てから三階建てにするのは不可能ね。出来たとしても、簡単に払える額じゃない」
とんでもない額を想像して僕は内心とても驚く。
「だから、この家売ることにしたの」
「「はあ?」」
とんでもない発言に僕と詩織は声を上げる。
「この家売るってどういう事?」
詩織は納得いっていなさそうな顔をしていた。
「どういうことだと思う春樹」
話を僕に振る母さん。
「二階建てから三階建てにするのにかかる費用が簡単なものじゃないなら、新しく広い家を買った方がお得、じゃないのか?」
「ピンポーン!ピンポーン!大正解。さすが春樹。話が速いわ。そして、これが今度私たちが住む家の設計図だよ。もう工事は始まっているけど」
LDKは今の家とそこまで変わらない。だが、庭の広さは変わらないが、風呂の広さが広くなっている。
「風呂が男女別になっている。これただの旅館じゃなのか?」
「確かに、旅館ともいえるわね」
いや軽くとんでもないこと言っていると思うが気のせいか?
我が家の金銭感覚がおかしい気がする。
「しかも三階建てで部屋も結構あるな」
「ええ、個室が一五部屋にLDKに大部屋が二つよ」
「「一五⁉」」
僕と詩織の声が重なる。今の家の倍はある。
「そんなのこの家を三階建てにするのと変わらないくらいの値段はするんじゃないのか?むしろそれより高額になるはず」
僕はお金の事を考えると鳥肌が立った。
「確かにだいぶ高いわね。工事代に住宅費、税金も考えると一般的には無理ね」
その言い方だと我が家は一般ではないと聞こえるが気のせいか?
「私は三週間前からある会社で働き始めたんだけど、いつの間にか部長になっちゃった」
「なちゃった、じゃない。そろそろ母さんが人間なのか危うくなってきた」
呆れてため息をつきながら頭を抱える。
「それに学校からもお金はもらえるから、大丈夫よ」
「学校もよく払う事にしたな」
「ええ、下宿先にする条件として、工事費や立て直し金は学校側が半分だすことになっているの」
「それただの脅しだろ」
拓斗先輩が心の声を漏らす。
「学校側が心配になってきた」
仁先輩がお腹を抱えて言う。
「そういえば、学校が大学も立てるってこの前臨時朝集で言っていなかったか」
坂本が話に入り込んできた。
確かそんなこと言っていたような気がする。
学校にそんな額が入っているとは思えないのだがな。
「あ、そういえば。去年私がよく分からないコンテストで受賞してもらったお金を学校に寄付したんだった」
詩穂先輩の爆弾発言に
「お前が元凶かよ!」
と拓斗先輩が言う。
どうりでこのあたりの金銭感覚がおかしいわけだ。
「ちなみにいくらもらったんだ?」
「一〇〇〇万くらい?」
「正確には二五〇〇万な」
「どうしたらそんな金額になる?」
拓斗先輩が純粋なツッコミを入れる。
だが、それだけで大学立てるのは不可能だ。
「それを五回連続で受賞」
仁先輩が付け足して言う。
合計で一億二五〇〇万円。高校生が稼げるレベルではない。
本当に問題児と言う肩書は間違っていない。むしろぴったりだ。
「まあ、俺もその下の賞を五回、別のコンテストで同じくらいの賞金のを六回受賞して寄付しているからな」
「お前も元凶かよ!」
またしても拓斗先輩のツッコミが入る。
「ああ、賞金は二〇〇〇万な」
軽々しく言う金額じゃないよ先輩。本当にとんでもない実力差を改めて実感する。
僕の場合やっとやりたいことを始めたばかりなのに‥‥‥。
「えっとつまり合計で?んーと二億七〇〇〇万円⁉」
詩織がそれから何度も計算をし直す。
そんな金額を高校生二人で稼いでしまうなんて、恐るべし国際科の問題児。
「まあ、そういう事だから、荷物まとめておいてね」
「あ、今日父がお父さんとお母さんに話が有るそうです」
「あら、何かしら。陽那花ちゃんありがと」
それだけ言って母さんは台所の方へ行った。
何かを察した顔をしていた。
何も知らない、三年生組はいつも通り騒がしかった。
だが、僕たちはそうはいられなかった。
この世界に簡単に失って良い命など存在しない。
だからこそ、僕たちは被害を出ないようにテロを阻止しなければならない。
そのためにも、まず母さんたちを説得しないといけない。
母さんの事だからいつも通り、「良いじゃないの?」とか適当な事を言いそうだ。
いや、言ってくれるのを願うしかない。
僕たちは何も無かったように部屋に戻りいつも通りを演じた。
それは僕だけでなく詩織も唱もそうだった。
坂本だけなぜか平然としていた。
本当に何事にも無関心というか、平常心と言うか、いろんな意味で尊敬する。
僕たちが母さんが作った晩御飯を口にしているとき、インターホンはなった。
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