第121話
「久しぶりだな、アリエル」
声が聞こえてアリエルは顔を上げる。
金色の前髪がハラリと落ち、青い瞳が真正面を捉える。
「オスカー、副団長……」
知っている男。
彼を役職で呼んでしまうのは慣れているから。
「何だ、エイデンはいないのか」
オスカーが辺りを見回すがエイデンの姿は見当たらない。監視カメラは作動している筈だ。
「ああ。それで調子はどうだ?」
オスカーはどす黒い瞳を覗かせてアリエルに尋ねる。世間話でもする様に、しかしながら、何の抑揚もなく。
「…………」
「最悪か?」
オスカーの問いにアリエルは答えようとしない。恨みを込めて睨みつける気もない。関わりたくもないと、言わんばかりに。
「個人的なニュースなんだが」
そんな前置きに、アリエルがピクリと反応したのがオスカーには理解できた。
「実はな、アーノルドとベル、ああ、それとオリバーが──」
だから、少しだけ勿体ぶって話してみせる。
「──死んだんだ」
アリエルは目を見開く。
どうして。
オスカーが名前をあげた彼らだって優れた能力を持っていた筈なのに。その答えは一瞬で告げられた。
「殺したのはオレだ」
感情の起伏のない声。
淡々と事実を告げる。まるで他人事の様に。どうでもいいことの様に。
ギリギリと奥歯を噛み締めて、アリエルは目の前の敵を睨みつける。
「…………っ!!」
必死に動かそうとも、手は出ない。
前に進もうとも、足も動かない。
縛り付けられた彼女にはどうすることもできない。身動き一つ取れない。
「……なあ、アリエル。お前はクローンだ。普通じゃない。普通に生きてちゃダメなんだ」
オスカーはアリエルを見下ろしながら話す。
「何ですか、それ……」
「お前は、人間じゃないんだよ。わかるだろ? もう聞いたと思うがな」
存在を、彼女の生き様を否定する。気に入らないから。気持ちが悪いから。気色が悪いから。
「お前は誰にも愛されてない」
筈だ。
「家族なんていない」
筈なのだ。
「幸せなわけがない」
そうでなければおかしい。
オスカーは彼女の存在を否定したい。何が何でも認めたくない。
全てが真逆の、何もかもが違う彼女を認めた瞬間に、オスカー・ハワードの人生の全てが間違いであったと認めてしまう様な気がするから。
「嫉妬、ですか」
アリエルの質問にオスカーの思考が固まった。
「…………チッ。オレはもう行く」
オスカーが舌打ちをするまでに生まれた、少しの
「図星ですか?」
オスカーの暗い目が、より一層澱む。
「──ここに居たらお前を殺してしまいそうだからな」
殺してしまえればいい。
気の赴くままに。
そうしたら気持ちがいいだろう。気持ちよくなれるだろう。
だが、ギリギリの理性が踏みとどまれと呼ぶ。
「残りの二人も殺す」
彼はたった一言だけ言い残して去っていった。
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