第53話
「お前は俺の神になる」
運転席に座った白髪の男は呟く。
ハンドルを握り、アクセルを踏み込んで二人を乗せた車が発進する。
「……いや、俺達……のか」
後部座席に倒れ込んでいる少女、アリエルが目を覚ますことは無いだろう。このまま目的地に連れて行き、監禁する。
初めから目的は決まっていた。
計画のために彼女が必要となった。
そして、全ては予定通りに進む。
「エンジェル……」
彼もアリエルという少女に対して並々ならぬ恋情を抱いているのか。彼が彼女と会ったのはたったの一回。今回を含めれば二回だ。未だに肋が痛む。
ただ、違う。彼の抱く感情はカタリナの物とは全く異なる物だ。
例えるのであれば、それは神への信仰と同一の物だ。
「それにしても……」
車内のバックミラーに視線を向けてアリエルの血のついた顔を確認する。先程のオスカーの膝蹴りがよく効いているようだ。効きすぎている様にも思える。
「センセイ、容赦がないな」
苦笑いを浮かべて、赤に変わった信号機で停まる。路地から抜けたからか少しずつ車輌も増えてきている。
「死なせない様にと言われていたのに……」
あの光景を思い出して、ゾワリと寒気を覚える。まさか、意識を奪うにしてもあそこまで容赦の無い攻撃を加えるとは思ってもいなかったのだ。
「俺が気にすることではないか」
現状、死んではいないのだから問題はない。怪我はしているが無事に回収は出来た。過ぎたことを口にしても仕方がないのだと、信号機が青に変わったのを確認してゆっくりと車を再発進させる。
「何はともあれ、流石はエンジェルだな」
Project:A、或いはA計画と呼ぶべきか。
計画の中で生まれた唯一の成功作。
アリエル・アガター、彼女こそがProject:Aによって誕生した唯一の
だが、この事実を少女は知らない。
「だからこそ、俺達の神に成るに相応しい」
ニヤリと彼は笑う。
求めて止まなかった全てを救済する究極の神。争いを終わらせる最強の武力を。彼女こそが神話を、アスタゴ新生神話を綴るに相応しき神なのだと。
逸る心が鎮まらない。
「期待している、エンジェル……」
眠り姫に告げる。
「俺達を救ってくれ」
縋り付き、願う様に。
ただの人間という弱者として、人を救う神を求めてファントムは動き続けている。
彼らは自らをアスタゴを救済する、真の正義だと思い込んでいるのだ。
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