第16話

「マルコ団長、入ります」


 声をかけてからオスカーは団長室へと足を踏み入れた。


「ハワードか……」

「団長、今年もそろそろですね」

「ああ、そうだな……」

「どうしますか?」


 イルメア州にて開催されるパワードスーツの祭典。エクス社がパワードスーツの展示会や、スポンサーとなる大会を開催することで有名であり、数多くの人々がその期間中、イルメア州セアノの街に集まる。

 そんな中で問題が起きることも少なくない。ならば『牙』が出動することも珍しくなく、彼らは厳重体勢での監視を行うことになる。


「二週間後か……。それまでならアガターのパワードスーツが間に合うな」

「で、配備の方は?」


 スポーツ会場、そして展示会場は離れており、それぞれで分担しなければならない。しかし、どちらも広く『牙』のメンバーが総出になっても足りるかどうか。


「実力で考えるなら、私とハワード。君は別れるべきだろう」


 だとするならばより人の集まる方を重視し、人員を割くべきか。


「ハワード、君にスタジアムは任せる」

「……はい。では、他の者は」

「アガター、エヴァンス、ムーア、ジョーンズ、ライト。この五人と君をスタジアムに配置する。スタジアムでの位置どりは君に任せる。それで良いか?」

「分かりました。それにしても、毎年大変ですね……」


 オスカーは苦笑いを浮かべる。


「まあ、技術提供してもらってるからな。文句は言えんさ」

「それに、何よりも近年は治安も悪いですからね」


 オスカーは電車内であったことを思い出しながら呟いた。


「ああ、そう言えば。お手柄だったらしいな」

「銃を持っただけの一般人です。遅れをとる方がどうかと」

「ははっ、相変わらず頼りになるな。我が副団長は……」


 マルコは笑う。


「それで、今回の事件は『ファントム』絡みではなかったか?」

「今回は違いましたね」


 マルコの質問にオスカーは首を振った。

 近年、よく名前を聞くようになった組織。その存在はオカルトじみたものであり、都市伝説の様に電子の世界では語られている。


「ふむ、ファントムのリーダー、尻尾が掴めんな……」


 何度か、自らをファントムのメンバーであると語る者に、ファントムという組織の目的を尋ねたところ、彼らは全く答えられなかった。

 リーダーは誰か。

 彼らはファントムを騙っていただけか。

 それとも、実際にリーダーを知らなかったのか。目的とはいったい何なのか。

 様々な情報と、憶測は至る所で飛び交っているが、それらの答えが正しいかどうかなどわかるわけもない。


「一先ずは、目の前のことからですよ」

「……それもそうだな」


 マルコは溜息を吐きながらも納得を示し、椅子から立ち上がる。


「どうだ、ハワード。コーヒーはいるかね?」


 微笑みを浮かべながらマルコが尋ねると、


「貰っておきましょうか」


 と答えてオスカーは笑顔を返した。

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