第97話
奪われて仕舞えば、そこまでで無くしてしまったものは取り返せない。だから、人は強くなければならない。
何者にも何かを奪われない様に。
『強く生きなさい……』
熱の奪われていく女性の体を少年は抱きとめた。
『何も奪われない、よう、に……』
彼女の言葉を信じて進む。
踏み躙る足を退けるために、少年は立ち上がった。勝たなければならない。
負けてはならない。
生きていなければならない。
奪われてはならない。
奪う者を許してはならない。
奪っていく全てから、自分を守るために。
最初はそんなものだったはずだ。
強くならなければならない。
でなければ失う事になるから。
人に守られ、自分を守った人の命が目の前で失われた時から、これは呪いの様に絡みつき、そして形を変えて少年の糧となった。
強くあれ。
何者にも奪われぬ様に。
強く、強く、強く。ただ、強く。
最強。
それが答えになる。
最も強く在ればいい。
誰よりも強く、そして誰よりも奪われない者となれ。
それが強く生きるということだ。
それが最強を目指した原初の理由だ。
巨大な足が地面に落とされる。ズシンと大きな音を立て大地が揺れる。
「ロッソ……」
大陸、日の沈む中を進む。
敵機、タイタンを仕留める。それが阿賀野が求める最強の証明となるだろう。
目的はたった一つ。
松野を倒したタイタンを殺すこと。
「待ってろ」
燃え上がる闘志は冷めやらぬ。
その熱意に冷や水をかけては余計に
『四島、目的は戦争の……、まあ、僕も人の事は言えないか』
誰一人として、戦争の勝利への貢献を求めない戦線で、阿賀野は最強の証明だけをしようとしている。
九郎はこうしてここにいる時点で、目的のほぼ全ては叶っている。美空に関してはどうにもならない問題ではあった。
『好きにしたらいいさ』
どうせ、最早、何の意味もない。
ここまで来ては何をしても良いだろう。向こうの事、陽の国で起きる事は九郎の雇い主である佐藤が何とかするはずなのだ。
などと、半ば投げやり気味な考えに至るが、九郎の立場で考えると仕方がないだろう。
現段階で佐藤と連絡を取る手段もないのだ。あちらで起きる事にアスタゴに居る彼に対処する術はない。
阿賀野を手放しで自由にさせても関係ない。今までも、九郎は手綱を握った覚えは無かったが。
阿賀野は忠義を
「ああ、好きにするさ」
阿賀野自体理解している。面倒な事は考える必要がない。やりたい事をするだけだ。
それでも、全ては回っていくのだ。
「文句ねえだろ?」
『僕はもう無いね』
吹っ切れたかの様に九郎は息を漏らして、軽く笑う。
『私も』
この場には、誰一人として阿賀野を止めるものは居なかった。
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