第40話
松野が死亡して数日。
中栄国は降伏を申し出た。
死亡人数に関してはそこまででもないものの、被害がこれ以上になる前に戦争を終わらせることは判断としては間違っていなかったのかもしれない。
それでも中栄国の一部からは反感を買うことも予想ができていた。
ガン、とテーブルが力強く叩かれた。
「くそっ!」
飯島は怒りを隠そうともしない。
松野が死んでから、岩松の言っていたアスタゴの兵器を探してみたが、結局のところその姿は見つからなかった。
そうして、陽の国への帰還が指示された。
自爆をさせた岩松も気に食わなかったが、自爆させるまでに追い込み松野を殺したアスタゴにも飯島は怒りを覚えずにはいられなかった。
「…………」
それに何と言えばいいのか。
山本はかける言葉も見つからずに黙って飯島を見ていることしかできなかった。
「俺が悪いのか……」
飯島は自分を責めるような言葉を吐いた。
飯島は訓練施設での自分勝手によって、松野が死んでしまったと考えたからだ。
思い出したのは九郎の言葉。
──今日の君の行動は、未来の誰かを殺す。
そんな言葉が松野が死んでから、何度も飯島の脳裏を過るのだ。
「俺が、勝手なことして……。松野が、松野が……!」
「違う」
山本の口からは否定の言葉が出ていた。それは思わずと言ったものだ。
感情が混線したような瞳が山本の目を見つめる。
「──ずっとだ。ずっと俺は間違えてばっかりで……」
それでも、飯島は語り続ける。自分の過ちを、自嘲するように。
「いい加減にしろよ……!」
山本は彼の弱々しい態度に腹を立てて飯島の頬を叩いた。
何が起きたのか一瞬、飯島には理解できなかった。ようやく叩かれたことを理解した飯島は、何故と言いたげに山本を見上げる。
その瞬間に、山本は叫んだ。
「ナヨナヨしてばっかりで、悩んでばっかりで、それで満足か!」
何度、この男が挫けたか。
何度、飯島の弱さを見せられたか。
「お前が悪い! そう言ったら、お前は満足して立ち直れるのか!」
「…………」
出来るわけがない。
何を求めているのか。どんな言葉をかけて欲しいのか。
「そうやって感情的になって、酔っ払って」
山本は飯島の胸ぐらを掴み、立たせる。
目の前に顔を寄せて、山本は鋭い目で飯島の目を見る。
山本の目を見るのが怖くて、飯島は目を逸らそうとするが、許されない。
ぐい、と目を合わせるように力強く引き寄せられ、さらに顔が近づいた。
「悲劇のヒーローを気取るな。いつから、お前だけが苦しんでるって思ってた」
山本は飯島を突き飛ばす。
山本だって、松野が死んだことに責任を感じていた。仲間で苦しさを共有しようとして、少しでも負担を軽くしようとしていた。
ただ、山本は勝手に一人で苦しんでいる不幸者を気取った飯島が、見ていられなくて腹を立てた。
「……俺たちは仲間なんだよ。お前一人が辛いわけないだろ」
胸に苦しさを感じながら、山本は飯島を残して部屋を出た。
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