第33話
「はあ……」
山本は溜息を吐きながら、扉を開いた。そこは彼に与えられた一つの部屋ではなく、先ほどまでいたリーゼ搭乗者に与えられた待機場所である。
「戻ったぞ」
彼は空いている右手で扉をしっかりと閉める。左手はいくつかの缶詰で塞がっている。それは芝浦と川谷に渡されたものだ。
「……悪い。山本も疲れてんだろ?」
心配気に山本に飯島が尋ねるが、やはり顔色が悪い。どうにも気分が優れないようで、人殺しの感覚が馴染まないようだ。
「こんなことお前にばかりさせるのも悪いからな。今度からは────」
「うん、私たちもできるようにするよ。リーゼを動かすだけでも大変なんだからさ」
あれだけ鍛えてきたと言うのに、精神的にもだが、肉体的にも相当やられている。それを山本は彼ら以上に動かし、耐えているのだ。
二人は罪悪感を覚えていたようだった。このまま、山本一人に頼り続けるのは精神的に嫌なのだろう。
そんな辛い事を一人にさせたくない。何せ、同じリーゼに乗り込み、戦う仲間なのだから。辛さは共有するべきだ。
それが仲間だと言うもののような気がして、どこか嬉しさを感じたのか山本は少しの笑みを浮かべる。
「──この感覚にもすぐ慣れるからな」
この言葉がおかしいことに飯島は気がつかない。こんな狂った環境に身を投じて、プチプチと人を、戦車を潰していればおかしくなって行くのは当然なのかもしれない。
山本にも松野にも、その狂いを正すことができない。二人も少しずつおかしくなっているのだから。
「そうか」
山本は呟いて、ドカリと椅子に腰掛け、持っていた缶詰をテーブルの上に置いた。流石に疲れたのだろう。何せ、戦場でのリーゼ運用と、食糧収集の護衛だ。
「それより、缶切りも借りてきたから缶詰食おうぜ。さっき貰ったんだよ」
そう言って彼はテーブルの上に置いた、桃とパイナップルの缶詰を見る。
「疲れてんなら飯だ。何か食って早く回復しねぇとな」
手慣れた手つきで山本は缶詰の蓋に缶切りを刺し込んだ。
缶切りはスルスルと進んでいき、缶詰の蓋はきれいに開く。
瞬く間に二つの缶詰が開けられた。
中からはどちらも黄色の果物が覗く。甘い香りが三人の鼻を刺激する。
「甘いもんとかは良いらしいしな」
桃の塊を一つ、手で取って口の中に放り込んだ。
山本が缶詰を食べる姿に飯島と松野も促されるように、桃とパイナップルに手を伸ばした。
「あぐ」
それぞれが好きなように缶詰を食べていると、ふと山本が語り始める。
「──明日も、明後日も俺たち三人でここで何かを食う」
「うん」
「そうだな」
簡単な目標だった。
わかりやすい言葉だった。
全員が生き残って、ここで缶詰でも何でも揃って食べる。
「みんなで生きるぞ」
彼の言葉が全員の心を団結させる。
死ぬなと、その心に再度の決意が灯る。
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