第30話
「
上陸戦により、海岸近くには中英国の人間は誰一人見当たらない。
「ははっ、
そう言って一人の男が林の奥から両腕に缶詰をいっぱいに抱えて戻ってきた。抱えられている缶詰はそれなりに種類もあり、カラフルだ。魚の缶詰であったり、肉の缶詰であったり、それ以外にもフルーツ缶などもある。
缶詰であるから、保存期間は長く、食料として重宝される。
チラリと川谷が来た木々が生茂る方へと芝浦は視線を向けた。上陸戦の余波で木々は所々倒れてしまっていた。
「林の奥か……」
芝浦はライフルを両腕でいつでも撃てるように持って、今、林から来た川谷に質問する。
「どうする?」
持ってきた缶詰を砂浜に並べながら川谷は芝浦に尋ねた。
どうするというのは、先の食糧難を見越して、置き去りにされた缶詰やその他の食品を片っ端から回収してくるか、ということだろう。
「隊長に聞いてみるか……」
芝浦は無線を取り出した。
「いいのか? 傍受される可能性だって無いわけじゃ無いだろ?」
無線を取り出したのを見て川谷は疑わしげな視線を芝浦にぶつける。
「こんなの聞いたところで作戦とも言えないから、意味はないだろ」
単純に食糧確保をどうするかという問題でしか無い。
これを傍受したところで意味はない。さらに言ってしまえば、リーゼがある限りどれだけ無理やりであってもこの戦争に負けることはない。たった一機ですら、今までの戦争を破壊する代物なのだから。
「
『……こちら本間桐仁だ、どうぞ』
一昔前の無線とは違い、音は割れていない。技術の革新はこんなところにも現れていた。
流石の技術だと、彼らは初めて使用した時に感心したものだ。
「川谷が食料を発見しました。どうしますか? どうぞ」
『回収しろ、どうぞ』
「もしもの為にリーゼを一機、お願いします」
『分かった。少し待て』
上官の言葉に従い暫く待つと再び、無線から声が聞こえた。
『────その場で待機してろ、リーゼを向かわせる。以上』
そうして無線が切れる。
「隊長はなんだって?」
「リーゼが来るから、待っていろとよ」
「おお、了承もらえたのか?」
「まあな」
取り敢えずはリーゼも来ることで、万が一も無くなった。二人は完全に安心しきっている。そもそも、彼らには戦争に来たという感覚すらないのかもしれない。
「いやあ、戦争なんざ初めてだが。これっぽっちも怖くねぇな。こんなもんなんだな」
ケラケラと川谷が笑いながら言うと、芝浦もふと笑った。
「同感だな」
「つうかさ、リーゼさえ居りゃ俺たちいらねんじゃね?」
「かもな」
二人の男が戦場となった海岸で笑っていた。
空に浮かんでいた太陽は少しずつ沈んでいく。
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