第27話

『リーゼパイロットの諸君。私が指揮官の岩松である』


 聞き覚えのある声だった。年老いた男の声。ある者にとっては尊敬する者の声だったかもしれない。だが、その声の聞こえるものたちにとっては、最悪な存在の声とも言えた。

 中栄国に向かう巨大な船の中でパイロットスーツを着込んだ、三人のヘッドギアに通信が入った。


『君たちは私の指令を聞き、動くのだ。独断行動は断じて許されない』


 飯島は怒りを覚えそうになるが、松野に手を握られ、山本に肩を触られ、冷静になる。


『まず、上陸して直ぐに戦闘が開始される。その時にリーゼを出し惜しみせず、三機全て投入する。リーゼによる蹂躙を期待する』


 告げられたのは岩松の戦略とも言えないであろう、リーゼのスペックに頼り切った上陸作戦であった。

 ただ、慢心するには十分なほどのスペックをリーゼは誇っている。

 巨神。

 その名は偽りでは無いのだと、この戦いで示されることになる。


「そろそろ、中栄国の領土だ! リーゼパイロット、準備しろ!」


 乗組員の一人が、やってきて三人に叫ぶ。

 三人はもう戦わねばならないことを受け入れて、立ち上がる。死なないためにも覚悟を決めなければならない。

 こうして戦争の幕は切って落とされる。

 

 

 

 

 

『来たぞ!』


 中栄国の者たちはその言葉を聞き、銃を構える。そして見えたのは何人もの歩兵と、戦車。そして、三つの巨大な影である。

 緑に発光する目。不気味な黒い巨体。ズシリ、ズシリと地面を揺らしながらそれは陸に上がる。


『う、撃てぇぇえええ!!!』


 張り上げる声に全員が恐怖を抑え込み、銃を乱射する。歩兵に銃弾が当たり、何人かの殺害に成功するものの、巨神には一切のダメージが見られない。

 腰を抜かし背を向けたものに容赦のない銃弾の嵐が見舞われた。


「ははっ、ビビって逃げてやがる!」

「背中を向けるなんて馬鹿だなあ!」


 嘲笑い陽の国の兵士たちは虎の威を借る狐のように、リーゼに守られながらも中栄国の兵士を蹂躙する。

 時折、リーゼの握る中距離砲が放たれて、中栄国の兵士は吹き飛び、敵方の戦車をも爆発させる。

 あまりの呆気なさにパイロットもどこか気が抜けたような感覚だ。


「こんなものなの?」


 そのうちの一人である松野はあまりの呆気なさに思わず、言葉を漏らした。

 感じていた恐ろしさなど何処へやら。まるでアリを踏みつぶすかの如く、容易く人を殺す。そんな殺戮兵器だ。

 足元に現れた戦車を踏み潰し、中距離砲を放つ。それだけで相手は怯えて撤退を試みるが、歩兵は隙を見逃さずに背中を撃ち抜く。


「は、はは」


 無機質な人の死に、乾いた笑いがこみ上げる。こんなにも簡単に人は殺せてしまうのだと。松野は殺人を犯したと言うのに、これっぽっちも悲しさを覚えない自分に、吐き気を感じない自分に冷たさを感じる。

 チラリと横を見れば、冷たい巨神が鏖殺せんと、地獄を築きあげていく。


『は、はは』


 乾いた笑い声が、飯島のつけたヘッドギアから響く。


「まさか、ここまでなんて」


 上陸戦の結果は上々だった。死人も少なく済み、さらにはリーゼの戦闘力、装甲能力に関しても理解できた。

 浜辺の直ぐ近くにあった木々は中距離砲により薙ぎ倒されている。

 陽の国の髭を生やした軍服の男が、肩に銃身を傾けながら嬉々とした顔で言う。


「はは! リーゼ様々だな!」


 そして、歩兵たちは歩みを進める。それについていくようにリーゼも歩き出す。

 

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