第4話
赤貧の青年、
苦しい生活を続ける彼の家族のためにも金が必要だった。それでアルバイトを続ける彼に声をかけた者がいた。それが岩松だ。
『……豊かな暮らし。それが欲しくはないかね?』
間磯の前に現れた岩松は身綺麗で金欠とは縁のない者に見えた。そのために浮かび上がる笑みにも余裕が見て取れて、間磯は少しだけ怒りを覚えたのだ。
『豊かな暮らし?』
『そうだ。それが欲しくないかと聞いている』
細目で間磯を見ながら、岩松は問いかける。それに疑心を抱いた間磯は尋ねた。
『──何が目的ですか』
『賢い子は好きだよ』
岩松は嬉しそうに頰を緩めた。この喜ばしげな表情すらも、間磯には信頼しかねる怪しい者という印象を強く与える。
『──近々、戦争が起きる。その為にも
『候補ですか』
『無論、家族には資金援助をしよう。君は遠慮することなく訓練に励むといい』
『…………』
『もし、君が無事にパイロットになれたのなら、それ以上の資金を援助しよう』
そう言って、彼はどうかねと右目でウインクをしてきた。間磯はこんな生活がいつまでも続けられるわけがないとわかっていたのだ。
来年、高校生になる弟と小学生になったばかりの双子の妹たち。さらに幼い弟や妹がいる。アルバイトだけではお金が足りない。だから、家族には満足な暮らしをして欲しいと願う間磯にはこの提案は渡りに船だった。
『ありがとう、間磯くん。励むといい』
これが間磯巧の始まりだった。
「なあ、阿賀野」
「ん? お前は……えーと、誰だっけ?」
間磯はトレーニングルームに居た、良くも悪くも注目を集めている阿賀野に声をかけた。
「ああ、僕は間磯巧だ」
「へー、間磯ね。で、何?」
結局、興味はないようで話を急かす。興味もないから早く終わらせろと言いたいようだ。
「僕はパイロットになれると思うか?」
はっきり言って阿賀野には興味がない。どうせ、自分以外誰が戦場に行っても死ぬだろうと、そう分析していた。ギリギリ、四島には可能性があるにしても、四島未満では動かせない。
機体の説明を受けて、阿賀野はその事を分かっていた。動かせたとしても弱い。
だが、パイロットにはなれるかもしれない。
「なれるんじゃねぇの」
どうせすぐ死ぬけど。
などとは言わないでおこう。と、阿賀野は珍しく言葉を飲み込んだ。
「何でそう思う?」
「誰かが行って、誰かが死んで。なら、代わりの人材にお前が行くってのもあり得るだろ」
それが戦争だ。
間磯は家族のためにパイロットにならなければならない。その思いを、阿賀野の言葉がまるで肯定するかのように響く。
「たぶんなれるよ。パイロットには、な」
その言葉が嬉しかったのか間磯はニヤニヤと嬉しそうに頰を緩める。その顔を見た阿賀野は変な奴だ、と思いながらトレーニングルームから退室した。
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