第3話

 今回は襲撃に遭って、仲間を逃さなければならない時、どうするか。

 阿賀野にしてみれば極めて簡単な話だ。相手の力量と、自身のスペックを考えて引くべきか戦うべきかを考える。

 ただ、その判断が上の命令とは反するモノだと言う事を忘れてはならない。


「この程度なら、全員ぶっ殺すに決まってんだろ!」


 標準装備には中距離砲と、変形可能の大剣。大剣は盾に変形する。基本的に持てる武器は四つまでだが、今回は二つ。

 動きにイレギュラーはなく、基本的には阿賀野が予想した通りに動く。

 彼の後ろには兵士がいる。

 背後にいる兵士は、一般兵で戦いに巻き込まれればその余波で死ぬ可能性すらある。


 ならば、基本的には盾を展開して、銃で牽制。それが想定。だが、阿賀野にはそうはならない。


「牽制は必要ねえ」


 阿賀野は即座に現状を理解して、大剣を力強く投げつける。勢いよく回転しながら飛んでいく大剣は見事に剣身を相手の身体の真ん中に当て、上下に真っ二つに切り裂いた。

 背後からの襲撃に対して、備える時間も存在する。


「判断が遅えから、どうにもならねぇんだよ」


 阿賀野の驚異的な動体視力と静止視力は敵を見逃さない。中距離砲で迷いなく木陰に潜む敵を撃ち抜く。

 そして、右手を上げて、戻ってきた大剣をキャッチする。


「楽勝だ、こんなもん。全員殺せばお終いだろうが」


 まるで疲れたと言うような様子も見せずに阿賀野は余裕のある顔でそう言った。彼が倒した四つの敵兵は、阿賀野が動かす機体と同スペックという設定のもとで行われる。

 この設定は戦場の再現という意味では間違いなく、正しい。陽の国が造るもののスペックは高いが、海を跨いだ向こうの国でも同様のものを造ることができる可能性がある。


『阿賀野武幸。一分三十三秒で敵兵を全滅。死者はゼロ。これで本日のVRトレーニングを終了します』


 そんな機械音声が耳元で響いた。


『速やかにヘッドギアを外してください』


 機械音声の指示に従い、阿賀野は頭に身につけていたヘッドギアを外す。

 体を預けていたベッドから体を起こして周囲を見る。四島も、飯島も、松野、竹崎も誰も訓練が終わっていない。


「……本気でこんな雑魚共を戦場に送ろうって考えてんのか」


 阿賀野は呆れたような顔をしながらボヤいた。

 そして二分ほどして、ようやく四島が起き上がった。


「……阿賀野か」


 ヘッドギアを外しながら、四島は辺りを見回して、阿賀野が既に起き上がっているのを確認した。


「遅かったじゃねぇの、四島」

「……今回のトレーニング内容は防衛と撤退だ。時間がかかって当然だろうが」

「バカ言ってんじゃねぇ。防衛なら、全員殺した方が安全だし手っ取り早い」

「それは作戦通りじゃない……」


 今回の目的は味方を守りながら撤退。敵を殲滅することは作戦にはない。


「作戦とか知らねぇよ。俺は自分がこうした方がいいって思ったし、できるって思ったからそう動いたんだよ。自分で判断しねぇで、現地にいない奴らの指令を仰いでたら──」


 自分の考えを言いながら阿賀野は四島の顔を見るが、途中で物音が聞こえて話を途中で断ち切る。


「あん? 阿賀野も起きてんのか。ちっ、四島に負けんのはまだ分かるが、お前に負けんのは納得できねぇ……」


 振り返れば飯島が起き上がっている。飯島はビリの阿賀野に負けるということに対して不満があるようだ。


「何回も言ってんだろ、飯島ぁ。俺はこの中で一番強いんだよ!」


 四島との話を忘れたのか、阿賀野は飯島に掴みかかる。

 そして、VRトレーニングをしていた他の候補者もゾロゾロと起き上がり始める。


「また、阿賀野起きてる……」

「何でアイツ最下位なの?」

「態度悪いからだろ……」


 周りの候補者は皆好きなように言って苦笑いしていた。これが候補者達の日常だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る