第3話 「本当の理由」

「ゴメン! 待たせちゃったかな!?」


「ううん、私も今、来たとこよ」

「体育館で頑張ってるあなたを見てたら約束なんて忘れちゃったかと思ったけど覚えててくれて嬉しいわ」


「何だか気味悪いぐらい上機嫌だな?」

「自販機のジュースぐらいしか奢ってやれねぇぞ」


「2人で待ち合わせして帰れるのが嬉しいんじゃない」

「あなたに何かを奢ってもらう為に待ってたんじゃないけど買ってくれるんならホットココアがいいわね」


「まぁ、いいか!」


「あら、あなたは何も飲まないの?」


「俺はさっき部活が終わって水分補給して来たからな」

「遠慮しなくて飲んでいいんだぞ」


「うん、でも何だかあったかくて勿体ないわ」

「そこの本屋さんなんだけど一緒に寄ってくれる!?」


「その為に来たんだから勿論、付き合うよ!」


「ねぇ、この本はどうかしら?」


「楽しい地球の歩き方・・・?」

「何かスケールがデカいタイトルだけど、どうかしらって言われても俺が読むわけじゃないしなぁ・・・」


「あらっ、あなたが読む本を私は選んでるのよ」


「何で俺がお前に付き合わされて自分が読む本を探さなくちゃいけないんだ!?」

「ここに寄ったのは俺が読む本を探す為なのか?」

「またお前の脱出不可能な迷宮に迷い込んで行くような気がするんだけど・・・」

「それにお前が手に持ってる手帳とペンには何か書いてあるのか?」

「それとも何かを書く為のモノなのか!?」


「あぁ、これは・・・」


「何だ、今の曖昧な返答は気になるぞ」

「俺にちょっと見せてみろ」


「あなたがどうしても見たいって言うなら脱いでもいいけど・・・ここじゃちょっと恥ずかしいわ」


「誰がお前に服を脱げって言ってるんだよ!?」

「だったらどこでなら脱いでもいいってんだ?」


「あなたの部屋でなら脱いでもいいわよ」


「そんな台詞をマジ顔で言われても俺は困るんだよ」


「何を赤くなってるの?」

「もしかして、本気にしちゃった?」


「してねぇよ!」

「俺はその手帳を見せてみろって言ってるのにお前が勝手に迷宮へと誘ってるんじゃねぇか」

「脱がなくていいからその手帳を俺に見せてくれ」


「じゃあ、ちょっとだけね・・・」


「・・・!?」

「だからそこでスカート捲り上げてどうすんだよ」

「俺が見たいのはその手帳だけなんですっ!」


「そんなに赤くならなくてもこの手帳には何も書いていないわよ」

「あなたはどんな想像をこの手帳に抱いてるの?」


「ドンドンお前の迷宮に入り込んでるじゃねえか!?」

「本屋に入ってこんなに汗かいたのは久し振りだよ」


「久し振りって、どんな時に汗をかいたの?」


「そりゃあそこに並んでるエロ本を・・・!?」

「何をさりげなく俺に誘導尋問をしてるんだよ」

「素直にその手帳を見せてくれればいいんです!」

「お願いします・・・」


「仕方ないわねぇ・・・ほらっ何も書いてないでしょ?」

「それでどんな本が読みたいのかを教えてくれる!?」

「さっき言ってたエロ本がいいのかしら・・・」

「でもそれじゃあ、なんか感想を訊きにくいわねぇ」


「・・・?」

「俺が本を読んで感想をお前が読んだ俺に訊くのか!?」


「そうなの」

「あなたの感想を詳しく訊いてみたいのよ」


「何の為にそれが必要なんだ?」


「私も今度、携帯を買ってもらうことになったからあなたの番号を知りたくて・・・」


「で、その番号をメモする手帳がそれなのか!?」


「そうよ、何か理由が無きゃ恥ずかしくてあなたの番号を聞けないでしょ?」


「そこでお前は赤くなってるのか?」


「だって・・・恥ずかしいもん」


「いいんだ」

「ほら、その手帳とペンを俺に貸してみろ!」

「これが俺の番号だからいつでも連絡していいぞ」


「あ、ありがとう・・・」


「理由なんてみつけなくても何でも教えてやるよ」

「本なんか読まなくったって話すことは他にもたくさんあるんだから用が無いんなら一緒に帰るぞ」


「うん!」


「だから近いって、いつも言ってるだろ!?」

「子泣き爺いか、お前は!」

「それに汗臭いだろ?」


「ううん、とってもいい匂い・・・」


「いいから離れろ、誰かに見られたらどうすんだ?」


「はいっ!」


やっと彼女の迷宮から脱出できたハヤトだった。

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