第4話 「雨宿り」
「いつも遅くまで待っててくれなくてもいいんだぞ」
「気にしてくれなくてもいいのよ」
「私も美術部としての作品展もあるし、あなたが子猫みたいに動いてるのを見てるのも可愛くて楽しいわ」
「お前なぁ、バスケを舐めてんのか?」
「子猫みたいなんて言われたの初めてだぞ」
「しかも可愛くて楽しいなんて言われても俺は素直に喜んでいいのかもわからん!?」
「相変わらず読めない奴だな」
「あっ、雨が降って来たわ」
「降り出しそうだとは思ってたけどここでかよ!?」
「わざわざ濡れてやることもないからしばらくそこで止むのを待ってようぜ」
・・・
「俺にとっては不思議でならないんだけどお前は何故、こんな俺のことを好きになったんだ?」
「何よ、あなたっていつも突然ね」
「それはこっちの台詞だろう?」
「お前の言動に振り回されてるのは俺の方だぞ!?」
「そう・・・だったかしら?」
「いいわ、私の秘密をあなたに話してあげる」
「おいおい、いきなり雲行きが妖しくなるような言い方じゃないか!?」
「また俺を迷宮に誘ってるんじゃないだろうな」
「・・・」
「どうしたんだ?」
「涙ぐんでるぞ!?」
「何かいけないこと訊いちまったのか?」
「中学の頃、友達とカラオケに行くって歩いてたの」
「みんな何を歌おうかって賑やかに話し合ってた・・・」
「何も知らない私はその会話について行けなくて段々と歩くのが遅くなってしまったの」
「大勢で歩いてたから誰も私に気づいてくれなかった」
「独りぼっちになってしまったんだな?」
「汚ねぇハンカチで悪いがこ、これで涙を拭け・・・」
「それに辛い話なら話さなくったっていいんだぞ!」
「今日みたいに雨が降ってて私はあの日と同じこの場所にポツンと独りぼっちで立ってたの」
「傘を持っていなかったのか?」
「ううん、傘を差したまま雨宿りしてた・・・」
「そこに飛び込んで来たのがあなたよ!」
「えっ!? そんなことがあったっけ?」
「あなたは私の傘を見て家まで入れてくれないかって私に話し掛けて来たのよっ!」
「なんか最後ら辺に怒気を含んでねえか?」
「おう! そう言えば思い出したぞ」
「家まで入れてくれたお前を俺が送って行ったんだ!」
「そうよ、あなたはちょっと待っててと言って家に入るとタオルと傘を持って来て私の頭にタオルを被せて濡れた所を拭けって言ったわ」
「そして独りじゃ危ないから家まで送って行くと言って私のバッグを胸に抱えて持ってくれた」
「あぁ、あれは照れ隠しだよ!」
「女の子と歩いたこと無かったんで恥ずかしかったんだ」
「私はずっとあなたの後ろを歩いてて結局、最後まであなたの足元しか見ることが出来なかったの」
「俺もお前のバッグしか見れなかったぞ」
「そうかぁ、それでお前の顔を憶えてなかったのかぁ」
「帰り際にあなたは私に言ってくれた」
「ん!? 何か失礼なことでも言ったのか?」
「ううん」
「元気出せよって! 私の心を見抜いたように・・・」
「私はあなたの家の周りをウロウロしながら探したわ」
「あなたが履いてたあの靴・・・あの歩き方!」
「何日も探してやっとみつけた時に初めて見た、あなたの笑顔に私はずっと恋してた」
「バカみたいでしょ!?」
「いや・・・バカなのは俺の方さ!」
「そんなお前の気持ちも知らずに変な奴だとばかり思ってた俺の方がとんでもないバカだ」
「ごめんなっ」
「・・・」
「さぁ、雨も小降りになったことだし帰ろうか」
「明日は夏祭りで一緒に行くんだったな!」
「晴れるといいなっ!?」
「うん!」
この日の2人が喧嘩することもなく、久し振りに仲良く帰れたのは言うまでもない。
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