36節 バレット・ファイヤー
海斗達が入ったショッピングモールは奇抜なデザインが売りで、海外の有名なデザイン家が書いたものであるらしい。無論、お金がかかったが、稼げているのだから無問題なのだろう。
だが、奇抜なデザイン故に使いにくい場所が存在する。それが三階の右端……つまり今いる場所だ。
分かりやすく言えば……屋根裏部屋の端がわかるだろうか?こう天井が斜めになっているために、出店の縦スペースが微妙に足らない
無論、西洋人特有の素晴らしきものではあるのだが、しょせん花より団子。
店も入らず人も来ないここは完全なる維持費食いであるが、逆に言ってしまえば話を聞かれず開けているため誰か来ても解りやすい格好の場所でもあったのだ。
改めて咲の服装を注視する。グレーの肩から下が出たニットにロングスカート、そして肩かけポーチ。服のふくらみや隙間から視える肌色からは、とてもボディアーマーは着ているようには見えなかった。
それに、武器を持っていないと言うのは本当らしい。カマを掛けただけだったんだが……。
「で、私の前であの発言をした理由は……大方、精華に言われたんだろう?」
「えぇ、もちろん命令に不服なのは存じてはおりますが……組織に所属する人間としてはいささか。はぁ……もう少し他者を頼ると言うのをした方がいいぞ」
『ちょ。口調……自が出てる』
「あんた程、優秀な人間ならもっと他のやり方が出来たんじゃないか?そもそも、あんたの仲間は張りぼてなのか?俺は警察官じゃないから知らないが」
「違う。私の部下は優秀で」
「じゃあ、頼れば?同じ思いを持ってるのなら動いてくれるはずだろ」
正直、大人の事情とか知った事ではない。だって
ちらりと、何も言わずに廃墟都市に言った礼に視線を移す。
やめろ……ほほを赤らめるな。褒めてないぞ。
「あんたが焦ってるのは分かる。けど、市民を守るために行動してんのにその市民に心配されて連れ戻されるもは論外じゃないか」
「しかし」
さて、どうすればいい?結構説得に時間がかかって言ってる事が暴論になってきているのは分かる。
落ち着け、イラつくな……。
話し合いなんて二の次に出来るんだ。失敗したとしても礼が拘束して持って帰れる。問題は礼の身体能力がバレてしまうことだけで。
そう思いっていると、その当人が突如ガバっと肩を掴みかかる。
向き合った瞬間に一言。
「来るよ、伏せてマスター!」
「!?」
俺は礼に押し倒されて、咲は声に反応して地面に伏せる。この展開は……まさかっ!
答え合わせの時間は直ぐに訪れた。バコンと街中には似合わない騒々しいい爆発音。そして、ゲームや映画などから聞こえるようなきれいなものではない、生人が地獄に叩き落とされる際に発する異界から漏れ出る悲鳴。
一秒。たったそれだけで平凡な空間が、硝煙と鮮血舞い散る戦場と化したのだ。
跳び起きるように立ち上がり辺りを見回す。幸い、騒ぎが起きているのはショッピングモールの中心部。こちらには来ていないしかし、それはこちらから状況が視れないと言う事でもある。
あのスカーレットクイーンって奴がドンパチしたのか!?こんなトコで!?
「人間じゃない。この感覚は機械生命体」
「っ……状況は!?」
『わかんない……監視カメラのハックが出来ない。多分、電線が
小型インカムに手を当て舞に話しかける。妹からの返答は最悪に等しかった。
監視カメラからの視覚情報が無くなると言う事は、視力が無い人間に眼鏡とコンタクトを付けるなと言っても等しい。これまでの作戦は全てサポートありで考えてきた。つまり、この様な状態は想定していなかったわけで。
武器を取り出す?いや、咲が居る前で礼の胸に手を突っ込むのか。無理だ、あんな格好をすれば三日前に戦闘した相手だとバレてしまう。正直、知らない人間が何人死のうが俺にとっては関係ないが。
「……時間が無いようだ。また無事で会おう、少年!」
「ちょ、ばかか!?やると思ってたが」
俺にとっては一般人が死のうが関係ないが、咲は関係ある人間である。
精華さんからは、彼女が職務に全うで非常に志高い正義感を持つ女性であるとは聞いていた。それは、俺たちが相対した場でも感じられたが……。まさか、武器が無い状態で闘いに行くなんて。
そして、それをみすみす逃した俺達にも責任がある。ああ、もう、何で思い通りにいかないんだよ!
「些か真っ直ぐすぎるだろっ。そこまで自己犠牲精神(アホ)とは思わなかった」
『兄、とにかく今のうちに準備を』
「分かった。礼、銃とHMDを。……頼りにしてるぜ」
「まかせて。マスター」
銃と予備弾倉そしてHMDを受け取り装備。後は強化プラスチックアーマーを着こめば大丈夫だ。
弾丸を装填し、薬室に入れる。顔を見合わせ俺たちは悲鳴がする方向に掛けていった。
今頃は少年に笑われてしまっているのだろうな。そう自負しながら私は戦地に向かって走り出す。特殊部隊隊長のわたしなら、敵がいるであろう距離まで全力ダッシュをしたとしても息が切れない。
けど……。本当に何もできない。私にできる事と言えば、精々肉盾になるぐらいか……。
「せめて、反撃する手段があればな。はは、海斗君だったか……彼は危機管理が出来る人間だ。だから、私を追いかけることなどしないだろう。なら、最低二人救えたと胸を張ろう」
そう独り言をつぶやきエスカレーター前の広場に出る。言ってしまえば、右側と左側の道を渡すもので他の場所は全て下まで筒抜けになっいる。のぞき込めば、警備員が客を誘導しているのが目に移った。
これなら、避難は問題なさそうだ。そう安堵した時に悲鳴が鼓膜を響かせた。発生元を見て視れば、身なりが良さそうな少女が機械生命体に襲われていた。
何故、機械生命体が居るのか……ロシア特殊部隊との関係性は?そんなことを思考している暇はない!
勢いを付け、倒れた少女を追い打ちしようとする機械生命体にタックルをかます。人型だから、肩から当たれば十分に重心が崩れるはずだ。
がら空きな脇に私の一撃が刺さる。バッと大きく体制を崩し、柵に打ち付けられ影響かあるは経年劣化なのだろうか、留め具が外れ十二メートル真下まで落ちていった。
「……」
「何をぼさっとしてるんだ!早く非難しろ!」
「は、はい」
そう言うと少女はわき目も降らず逃げていった。
ふぅ、と息をもらす。いやまだ終わったわけじゃない、まだまだ後ろから来ている。
「せめてもの救いは、来てるのが歩兵型で一番弱いエインヘリャルのみ……か」
――エインヘリャル。
エインヘリャルは白銀の体表を持つ二足歩行の機械生命体である。一番数が多く両腕が刃になっていたり、盾を持っていたり亜種も多い。海斗達がアウトレットモールやコンテナヤードで接敵した敵もこれにあたる。
こいつの特徴は、名前の由来になった『
そして、雑魚とは言っても
つまり、たった一人の人間が相対してはいけない存在である。そんな奴が奥の通路から近づいてきているの端に見える。
今は退(ひ)けない。後ろをからは先ほどの少女が階段を急いで降りているのがわかるからだ。
近くに置いてある傘を掴み、物音を出しながら新手に突貫していく。手に持ったもので間合いを図りながら時間を稼いでいく。
流石は剣道持ち。脆い傘で相手の攻撃を受け流していく。斬撃に沿うように当て何とか体に当たらないようにずらす。四合、五合と接触する中、何とか食らいつくが……非力な人間に出来ることなど少なく。
「あ」
パキンと甲高い音を立てながら、武器であり防具でもあった雨傘が半ばで拉しげてしまった。
動揺したのか、焦っりながらバックステップで距離を取るが不幸はさらなる不幸を呼ぶもので、着地地点には避難の際投げ捨てられたと思われる服が転がっていた。
ちょうど、足を縄で取られるようにバランスを崩し、地面へ踏ん張ろうと設置面積を増やすが摩擦が足りずに仰向けに倒れる。
瞬時に態勢を立て直そうと半身を上げるが、眼前には既に凶刃が迫っていた。
命を刈り取る無機質で鈍い金属光沢を放つものが、私の皮膚を筋肉を内臓を、抵抗もなく切り裂いてしまうのだろう。
その光景を他人事のように俯瞰して見ていた自分が居た。故に……、なにか、小さいものが高速で飛んできているのが視えたかもしれない。
バンバンバンと馴染み深い火薬の炸裂音。銅で圧着された鉛の粒が振りかざされていた凶刃に当たり、手を払われたかのように刃物は虚空を切り裂いた。
そして、ほぼ同時。ダダダッと乱暴な足音が響き渡り、銃撃によってよろけたエインヘリャルに向け新たに表れた少女……文月礼がハイヒールでドロップキックをかましたのだ。
そんな不安定な靴で打撃が与えられるはずがない、ヒール部分が折れるのがオチだ。そう思って居たのだが視界に広がるのは、白銀の機械生命体が半身を仰け反りながら吹っ飛び転落防止用の柵を超え自由落下。
エインヘリャルの体重は個体差はあるが最低45kgある体を、特殊訓練をしていない乙女が地面から1、2メートルほどの浮かび上がらせたのか……?
「あれ、何かやちゃいました……なんて言うつもりは無いですよ」
唖然としていたのだろう、それとも志向の停止か。とにかく私が声の下方向に振り向けば、頭に特徴的なゴーグルをつけた少年が立っていた。声からして海斗君だろうしかし、あの特徴的なゴーグルには見覚えがある……そうだ三日前、コンテナヤードで――。
「警察手帳」
「え?」
「警察手帳、今持って無いですよね?そりゃ、職務放棄……あー、上司命令無視してるから持って無いんだろ?なら、民間人だよな。な?」
……確かに持ってはいない。そもそも、あの時相対した敵がなぜ私を助けたのだろうか。さっきの言動もまるで言い聞かせるような態度だ。
一体、海斗の目的は何だろう?
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