特別2節 年末スペシャル(2020年に公開されたものです)
咲夜さんと秋さんに連れられ廊下を渡っていく、そうすると段々と二人の少女のような声が耳に届いてくる。その、発音先の障子を咲夜はゆっくりと開いた。
「はぁ?何をやっているのですか。ご主人様の言葉が聞こえなかったんですか?料理が出来ないならするなと。その長い耳は飾りなんですか?飾りなんですね」
「むぅぅ、そんなひどく言わなくてもいいじゃない!いっつもお世話になってるし、偶には恩返しをって思うのは間違えってわけ?」
「それで、手間を増やすつもりですか?ドッセイ」
「あ、痛。うぅぅぅ」
「……あい、変わらずね。貴女達」
小さくため息を付きながら、ゆっくりと部屋に入っていく咲夜を視て、暫くためらったの入室する。
そこから出迎えてきたのは、大きなパーティテーブルに飾り付けられた壁。そして二人の少女であった。
一人は金色(ナチュラルブロンド)の髪を|一纏め(ポニーテール)にし、瞳がエメラルドのように美しい。服装は緑を主としており、身長と言動が幼い少女と思わせる。そして、耳が長いのだ。まるで本で出てくるエルフのように。
その右斜め後方でお盆を持っているメイド姿の女性。紅掛空色(べにかけそらいろ)の髪をツインテールにし、赤色の瞳でこちらを観察するように眺めている。また、彼女も同じように人間とは違う部分を持っており、うさ耳がひょこひょこと動いていた。
「ご主人様!?申し訳ございません、この様な格好で……。そちらの方は?」
「彼らは、拾ってきたの。大丈夫安心して……敵じゃないから。それに接近戦の私の強さ忘れたの?」
「……それなら良いのですが。……失礼します。お荷物は私がお預かりしておきますので。」
メイド服を着たうさ耳少女は一礼をし、一歩下がる。一つ一つ細かい動作を取ったとしても、主人の邪魔をせず逆に引き立てる。創作やコスプレでは見られない本物のメイド。
俺も彼女に会釈しながら入室。肩に背負ったバックを手渡し。
バックの中には拳銃やHMDなど一般人に預けていいものではないが、別にちゃんと鍵掛かってるし……一応、咲夜が襲ってきたとしても礼の胸から新しい銃器を出せばいいだけだ。
トンと跳躍音が響く。発生元を一目見れば、今まで頭を押さえ項垂れていた耳長の少女が、ポーンとポニーテールが跳ねさせながらジャンプし、フィギュアスケートのようにきれいに回転しながらこちらに振り向いた。
「っつぅ。あ、こんにちは!ううん、初めまして。私はシエル・アン・アルクって言うの。ハーゼも自己紹介しなくていいの?」
パーと大きな身振り手振りとタンポポのような笑顔を見せてくる。
……天然?元気っ子?なのだろうか。正直、あまり積極的に関わると面倒ごとに巻き込まれそうと思うのは俺だけなのだろうか?
見るからにハイテンションな彼女に指されたうさ耳っ子は、確かにその通りですねとこちらに向き直り。
「私はこちら、咲夜様のメイドをしてます。ハーゼと言います。おはようからおやすみまでお世話と、顔や腕……子宮でさえも捧げております故」
「ちょっと……初対面の人間に向かってその発言をぶっ放すの。相変わらずやめなさいと言ったじゃない……」
「あにぃ、何か重い人来たんだけど」
「言ってることがまんま礼とゆずきなんだが」
「あっちは同性だけど、こっちは威勢だからね。……でも、百合って可能性も微れ存」
「失礼やぞ」
言い争っていた彼女たちがある程度、決着がついたのだろうこちらに振り向き友好の握手をした。
その後は、特に特筆すべきことが無い。皆で料理したり物を運んだり準備したり、料理を作る際に咲夜さんから褒められて事は嬉しかった。周りが淫乱だから、こんな感じで素直な言葉を聞けるとは。
途中からは精華さん達もブラックホールに飲み込まれて合流し、色々と話し合ったりした。
「偶にはこういうのも良いわねー」
「そうっすね。最近は羽を伸ばす暇もなくなってきたっすからね」
「おう、最近はタリホーって言ってぶっ放してるだけだったしな」
「そうだな。お前がブッパするたびに巻き込まれそうになる俺の事も考えろ……」
「まぁまぁ、誰も巻き込まれていないかいいじゃないですか」
そうして時間はあっという間に過ぎていく。
突如、外からの轟音。急いで外に出て確認した視界に映ったのは……あの時自分たちをこの場所に導いたブラックホールであった。
「お別れね……」
ぽつりと確かめるようにつぶやく咲夜。
お別れ……確かに、俺達が帰るためにはあそこに入らないといけなくて、入ったら咲夜や秋にシエルやハーゼとも出会えなくなってしまうだろう。
触れ合ったのは数時間。しかし、何よりも楽しかった。
「本来繋がるはずのない世界が繋がると言う事は、世界を分かつ次元の壁に穴が開いていると言う事」
「は?咲夜……さん。どうしたんだ」
「もし完全に繋がってしまったら……世界が均衡になるように融合してしまう。まるで浸透するように」
「えっと、兄……咲夜さんなんか悪いもの食べたの?」
咲夜はゆっくりと地に足込めて近づく。その様は、へびが睨んだように感じた。
そして、彼女は……俺たちをワームホールに押し込んだ。
「だから
「兄ぃ……兄ぃ」
「っ……ここは?」
朝から呼びかける妹の声で意識が覚醒し跳び起きる。
周りを見渡せば、自分の部屋。そして、窓から差し込む光は夏特有の力強をもっていた。
「珍しいね、兄。朝から寝坊なんて……今日は雪が降るんじゃない」
そう言って立ち去る舞。その背中を俺はぼーと見送る。
さっきの夢は何だったのだろうか。そんな風に思いながらも、朝食を作るために立ち上がったのだ。
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