22節 紫水晶(アメジスト)
「はぁ」
日を
ターミナルと言っても複合施設で出来ており、正確には駅内にショッピングセンターに居た。
何故おとなしくしていろと言われた次の日から外出しているのか、それは昨晩の妹の発言がきっかけである。
「そう言えば礼ちゃんの部屋ってベット以外何もないよね?」
「そうだな。もともと余って荷物置き場になってた部屋を暫定的に貸し出しただけだし」
礼の部屋を見渡しながら話す。
確かにベット以外、可愛らしいぬいぐるみや棚など家具も一つもないのは確かに問題だ。
せっかく家族の一員となったのにこのすかすかな光景は目に当てらっれない。
「かと言ってな妹よ。俺たちにはお金がだな……」
俺たちには親はいない。いや、いたがすでに亡くなっている。
両親がなくなり俺、そして身寄りがない舞が我が祖母の家に居候したのが正しい。
そして祖母も五年前ほどに天寿を全うし、今や家に居る労働者は俺たちだけだ。
俺たち二人が大学に通えるほどの相続金が残っているわけない、だから俺たちは精華さんに頭を下げて雇ってもらっているのだ。
無論、アルバイトとしてなのだがそれだけでもありがたい。
精華さんの温厚で他職種よりも賃金をもらっていると自覚しているが、それでも家具を直ぐに揃えるほどのマネーパワーは家にはない。
「そうなんだけど、見て兄」
「ん?封筒」
「セイカさんから」
そうか。今日は給料日だったな。
そう思い封を切り中身を取り出すと。
「ふぉ!?」
「あ、あ、兄!?見て視て凄い!こんなにたくさん。最新ゲーミングパソコンが二台ほど買えるよ」
そこにははち切れんばかりの札が入っていた。
何時もはこんなに稼いでいないのに……。
「マスター。それって凄いの?」
「あぁ、これなら部屋の問題も改善できるだろ」
しかしこんなに貰う理由が……試しに逆さまにして軽く振ってい視れば手紙がポロリと落ちてきた。
海斗はサラリと拾い上げ同梱されていたものに目を通す。
『拝啓……身内だし書くのメンドクサイから省略していいよね?
ともかく海斗君退院おめでとう!三日前は色々ありました。
取り合えず単独行動した礼ちゃん、勝手に突っ込んだ海斗君。私凄く怒ってます。
ですが、貴方たちがあの場に居なかったのならば親玉を倒すのにもっと手こずっていたのかもしれません。
複雑な気持ちです。
ま、助かったのは事実ですからきちんと行政から出た代金は納入します。
こんどからはもっと早くお姉ちゃん達に相談してください。
追伸、礼ちゃんのために少しだけお金増やしておきました。何をとは言いませんが礼ちゃんがんばってね
石竹精華より』
「因みに入院代は給料からだそうです。よかったねぇ保険は入っててあにぃ」
「まぁ、給料から引かれてるか……」
しかし、私
確かに三人で出来る事なんて限られているから、文中の通り積極的に頼ってみてもいいかもしれない。
「よし。じゃあ兄、れいちゃん……一緒に部屋の内装考えよ」
「え?今から、もう風が心地よくなった時間だぞ」
「礼ちゃんも、兄を誘惑するお部屋にしたくない?したいでしょ。したいよね」
「……っ!うん!!」
「寝たいんだけど」
「寝かせるかよ。ご飯前に寝てたんだじゃあイケル」
そこからパソコンを起動し、画面と睨めっこを今日の零時半まで行ったのだ。
病院上がりなのに。
取り合えず部屋の大きさなどを測って店舗で購入すると。
車も無いのに持っていけんのか?と疑問もあったが、礼のクリスタルは万能らしく軽トラックぐらいは簡単に収納できるらしい。
こういった場面で現代科学の法則と別種なのがハッキリとわかる。
これを化け物が持つ力として忌避と思うか、礼の持つ個性……どちらに思うのかは俺たちにとってはどうでもいいで済ました。
だって家族だから。
けど、いくら家族と言っても。
「俺に女性の部屋に置く家具とか一緒に見てアドバイス?レイアウト?男性の気を引く衣装を買いたい?俺は礼が好む色とか知らないし家具とかも使えればいいやだし、最後のはゼンゼン目的に沿ってねぇじゃねえか」
今まで過ごしてきてわかった事がある。
寄生体はそっちの欲が強いと。
無論海斗も男の子。そう言った欲はあるが、それでも直ぐに手を出すお猿さんではない。
ただ、こちらが休む暇が無くすっごく疲れるのだ。
なので現在、抜け出してゲームセンターで遊んでいるのである。
最悪、礼と契約し繋がっているので位置がバレてはいるが、そこは気にしない。逆にはぐれた時にすぐわかるとポジティブに感じる。
それにだ、今までまとまった金が無く今月の収入でやっとアーケードゲームができるほどの余裕が出たのだ。
ゲーマーとしてやらない訳には行かない。
独特な横長椅子に腰かけスティックを握る。やるのは久しぶりだ、腕前が落ちていなければいいが……。
やや前かがみに成りながらゲームに打ち込んでいった。
「やっぱ腕前が落ちてるか……」
三十分ほどたち戦績を視ればダダ下がり。しょうもないミスを連発し転落していったが、勝率五割を保てているのは軌跡であろう。
これは、鍛え直しだな。そう思い背伸びをした所で鈴音のような美しい一声。
「あのー、すみません」
「はい」
振り向けばそこには美少女が居た。
紫色の瞳に髪。制服をキッチリと着こなしたその佇まいから
中学生だろうか?身長は男性の中でも小柄な海斗よりも小さく、人頭ほど小さいから150cm台だと予想できる。
だからこそ、なぜ彼女が俺に話しかけたのが理解できなかった。
海斗自身、
じゃあ同姓の舞?いやそれはない。基本的に妹は俺と一緒に行動することが多い。休日も校内もだ。
これは、過去に受けたトラウマによるものなのだが今は関係ないため省略する。
で、一緒に居ると言う事は舞の友人関係が海斗に見えると言う事。
俺の記憶内に紫色の髪をした女の子は居なかった。
「えーと何か?」
取り合えず考えても埒が明かないしこの空気も嫌だった。だから俺は重い口を開けた、相手が不快にならないように丁寧口調を心掛けながら。
何時もとは違う汗を感じながらも少女の言葉を待つ。言葉を聞いた紫色の少女は顔を近づけ。
「すっごいですねぇ。あんなにゲームがうまいなんて」
「あ、どうも」
バンと筐体を叩きつけるような勢いで迫る少女。
しかし、プレイ場面を視られていたのか?
まぁ、仕切りなどは無いし見ようと思えば見れるけど、流石に後ろに立たれれば気が付くはずなのに。
「観てましたよぉあの大きな画面で!私あそこまでうまくできないんですよぉ」
その言葉で「あっ」となる。
確か一部筐体は大型モニターに繋がっていて大人数で出来る。所謂晒台があるのだ。
もしかして……恥ずかしい。こんな下手なプレイを。
「で、私ゲームがうまくなりたいんですけどぉ。教えてくれませんかぁ?」
……清純と思ったの訂正していいだろうか。
身なりはキッチリとしているし髪も良く溶かされ手入れされているが、話してみてわかった。
鼻孔をくすぐる甘い臭い、瞳の奥で輝く妖艶な光。
これは、小悪魔系女子だ。
正直苦手だこういう人。
「ねぇ!教えてください!!」
「ちょ」
関わりたくない。そんなオーラを読み取ったのか少女は思いっきり抱き着いて来たのだ。
女性特有のしなやかで柔らかな体に、おわん型のふにぃとしたクッション。
初対面の人間にこんな事できるなんて、相手の表情変化を分析したりできる悪女か天然かどちらかでしかない。
やばい。本当に目を付けられた。
「いいでしょ!いいでしょ!」
「うるさい。騒ぐな。離れろ!」
力が強い。まるでねじで固定されたかのようだ。
しかしここが公共な場だと彼女は分かっているのだろうか。
もし人が来て騒ぎになったならば大変なことになる。
故に俺がとった選択は。
「分かった教える」
「えー?ほんとですかぁ?」
「マジマジ」
「そうですかぁ。うっれしいなぁ」
「ぐええええ。入ってる。首くびくび」
歓喜の組み付きによって締め付けられ苦しいから離してくれと懇願し話してもらう。
「で、あー。お前」
「お前じゃないですよぉ。私の名前は大由里ゆずきって言いますっ。大きいでよしで里でおおゆりですよぉ。呼ぶときには”ゆずき”って呼んでくださいねぇ」
「あ、俺は海斗。実吹海斗。よろしく?」
「よろしくお願いしますねぇ」
お互いに自己紹介をし、ゲームに向き合う。
可能性の一つとして自己紹介中に全速逃走を選択すれば逃げ切れるかもしれなかったが、あえて海斗はこの選択を取らなかった。
理由としては目立つから。ほかのお客さんに変な目で見られたくないから。
二つ目は入院上がりだから激しい運動を控えるようにキツク言われていたから。
そして三つ目の理由。
体の中で囁く
そんな理由が重なり海斗は彼女を放って置かなかったのである。
幸い今は十時半。時間はまだある。少し位遊び相手になって貰ってもいいだろう。
「じゃ、やるか」
「はぁい」
ゲーム時間は思ったより短くすんだ。
彼女の腕前の上昇率は群を抜いていて、瞬時にうまくなっていた。
しかし、海斗は彼女のプレイには熱意を感じられなかった。どちらかと言えばゲームよりも俺の会話を楽しんでいる様子なのだ。
気になり話を振るとどうやら友達を作りたかったらしい。
ゲームをやるなんてキッカケにしかすぎない。
だから、一緒に話せるだけで満足だと。
故にゲームのプレイ時間を切り上げ、今は休憩コーナにてジュースを飲んでいる。
休憩場と一口に言うが実際はフードコートに近い。
所々に
特にゆずきは可憐な少女であるから人の目線を遮れるこの場所は良いだろう。
「いやぁ、暑いですねぇ。ここエアコンちゃんと効いてるんですかぁ」
「大型複合施設だから足りないんじゃないか?」
それに、長袖の制服……ブレザーまで着用して熱くない訳ないだろう。
そう思いながらゆずきに視線を戻す。ちょうど彼女はリボンを緩めていた所であった。
十五分ほどで最初の堅苦しさが消え、今では大胆な姿を見せるようになった彼女。
外見のイメージからは想像できない
「……はァっ!?」
解放された襟から出た首筋には、可憐な少女には似合わないヒモの跡。
何度もそして強く絞められたのだろう。直線状に紫色の痣が出来ていた。
ゆずきも気が付いたのだろう。しまったと表情を変化させ急いでボタンを閉めなおした。
「お前それ……」
「あー大丈夫ですよぉ、これぇ。でも、不快なものを見せっちゃたかなぁ」
「何かあるなら言ってくれてもいいんだぞ」
「やっさしー。ならお言葉に甘えて連絡先ぐらいは上げちゃいますねぇ」
「あ、取るな良いから操作するって」
お互いのスマホを取り出し、チャットアプリのフレンド登録と電話番号の交換をしていく。
しかし、危なかった。もし首を絞められた跡を視られていたら俺は確実に事情聴取されていただろう。
幸い近くには人は居なかった。この夥しい人の群れから視るには、余程目が良く背が高い人じゃないと視認されないだろう。
ふぅ、ため息を付く。そろそろ礼と合流しないとカンカンに怒っているころだろう。
イスから立ち上がり足を歩み。
「おい!」
その足を踏み出す前に肩に置かれた手で俺の動きは停止された。
女性の声だ。大声ではないがしっかりと芯がある。
振り向けば腰まで届く髪をきれいに三つ編みに纏めた女性。礼とは違い三つ編みは前ではなく後ろに纏めている。
警察手帳を前に掲げた、かわいいより綺麗系の私服を着た婦人警官。
「……」
「おい、さっきののは何だ。少しこちらに来てもらおうか、拒否してもいいが私には君を
こちらの心情が解凍される前に警官はどんどん言ってくる。
幸い周りの客に迷惑を掛けないように気を使っているのか、声は小さく話しているがそれでも想定外なじたいには変わらない。
たじろぐ海斗に手を差し伸べたのは。
「ごめんなさい。ちょっと色々ありましてぇ」
ゆずきであった。
人目に付かないように三人は移動し話合いを行い何とか誤解を解いてもらった。
「すまなかった!初めから疑ってしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」
婦人警官は誤解だとわかると綺麗なお辞儀をして謝罪した。
確かにあの場面だけ見たらDV彼氏のそれだ。
彼女は正義感が強い警官だったのだろう。後先考えずに話しかけてしまったと言うらしい。
個人情報保護のため聴取は個別に行われたのだが合流した後の。
「君は昨日、道を尋ねてきた女学生だろう?確かにこんな世の中だ、ストレスをためてマゾヒズムに目覚めるのもわかるが、やりすぎて体を壊さないようにな」
と、発言が引っかかった。がその話を追求する前に。
「とにかく、一応身分証を控えないとならないんだ。学生証とか持ってるか?」
「あ、はい」
「私も持ってますよぉ」
身分証を開示するように指示された。
正直もう疲れていた。早くこの話を終わらせたいと思いが心の大部分を占めていた。
ゆずきは学生証を、俺は学生証と社員証を。
アルバイトなのになぜ社員証を所持しているかは、職種に影響している。
何度も言うが、民間警備会社は特定の資格を保有していれば銃器を所持し使うことが出来る。
そのため何かあった際に、民間警備会社に所属する者は己の身分を保証する物を所持しなければならないと、法律で定められている。
とは言ってもこの年齢で持っているのは少数なので取り出した時は驚愕され、まじまじと文字を見つめている。
「君は民間警備会社に所属しているのか……ん、石竹?もしかして君の社長は石竹精華か?」
「そうですが」
「そうなのか!いやぁ懐かしいな、最近は仕事で忙しくてゆっくり遊べてないんだよな」
「へ?」
そう俺の頭をぐりぐりと撫でまわしながらダムが決壊したように話す警官。
戸惑っているのを察したのか適切な距離まで移動し、社員証を返却して来た。
「私の名前は小鳥遊咲。小鳥遊びでたかなしだ。で、精華から私の事は聞いていないか」
「一応聞いております。”責任感が強く仕事に意欲的に取り組む、私自慢の友人よ”と」
「そこまでじゃないんだけどな。ともかくあー何かあったらここに連絡してくれ。基本忙しいが子供を見捨てるほど薄情では無いからな」
そう言い俺達二人に名刺を差し出す。
「長い間拘束してすまないな。それじゃあ精華に”よろしく後で飲みに行こう”と伝えといてくれ」
そして、彼女……咲はこちらに背を向き歩き出していった。
「あに、遅い!何所ほっつき歩いてたの」
「そうだよマスター。いくら位置がわかるからって僕さみしいよ」
「わりぃ、警察に職質されてた」
その後、時間も十一時を回り時間が無いためお開きになった。
ゆずきの首跡のことが気になったが、出会って一日の人間が踏み込んでいい領域なのだろうかと思い留める事無く分かれた。
そして同様な理由から警察官にあった事だけを教えたがそれ以外の事を離すつもりは無い。
おうふと落ち込む妹を尻目に礼がふらりと近づき。
「甘い臭いがしますね。何をしていたのですか、マスタぁー?」
と耳元で囁いた。
女の感って怖いなと思いながら、どうやって言い訳するかと思考を吹けようとした時にポケットが震える。
どうやらメールのようだ。
礼の突貫を回るように回避し携帯視線を下とす。
『退院おめでとう。
君の銃破損してる個所があったから直しておいたよ。
けど、どうせ私の事なんて忘れてるんでしょう?ふふ。
早く取りに来てね。
ノヴァラティア・アイヒヘルヒェン』
誰だ?そう思い海斗は必死に記憶の引き出しを漁る。
ドイツ系の名前。銃をいじれる。一回しかあってない。これらに当てはまる人間は。
「あ、精華さんのところにいた白髪ツインテールの人か」
「え?兄、誰それ」
「悪い。舞、礼。銃のメンテが終わってるから取りにいかなくちゃいけなくて」
「マスター?お話が」
「銃だから。大切なものだから急がないと」
「「ちょっと」」
脱兎のごとく逃げるように去っていく海斗の背を、女性たちは急いで追いかけていくのであった。
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