13節 代理人
「守備はどうなっているの」
廃墟となった都市の周りにサイレンを鳴らし、夜空を赤い電灯で照らしだす。
ただの警察車両ではない。
カラーリングは白と黒で統一されているが、上部に設置された115口径45mm機関砲が鈍く輝きを放っていた。
その傍に居る23式自動小銃を携えた女性に私が声をかけると、相手も気が付いたのか軽く会釈をしながら駆け寄ってきた。
「精華!」
「咲。状況はどうなっているの」
精華は警備会社の面々が聞きたい事を言う。
「あぁ、現在集まっているのは1大隊2中隊ほどで包囲を行っている。また新たに本部は国防軍にも連絡を仰ぎ、4個小隊が向かっている。」
「1500人程度の人数で抑えられるわけないいでしょ。警察の状況は?」
「戦線に合流するのは5中隊だ。3大隊は後方での警備だ。大方、
「今いて、戦力になるのは私たち入れても1614名って事ね」
「すまん。重課を背負わせてしまって……。取り合えず装甲車のなかに入ってくれ。詳しい話は中で話す。ここではサイレン音でうるさいからな」
地図を広げながら編成をまとめる。
私たちが案内されたこの装甲車は普通の物より大型のもので、高性能のコンピューターを内蔵したもので、指揮官ようであるからだ。
モニター上にコマが配置される。青が自軍。赤が敵だろう。
部隊ごとに識別番号が振られていく。
警察側は多くは機動隊と警官隊の混合部隊であり、貫通力が高い武装は無い事。
まだまともな装備を持っているSSは|2個中隊(500名)であり、敵は低空高速型、歩兵型、高い装甲を持つ戦車型もいることが確認されたらしい。
装甲車内にある作戦会議室にSSと精華引きいる部隊が集まり作戦を練っていた。
「敵主力のE1には低高度高速型が確認されている。低高度高速型は地上から数メートル浮きながら高速移動が可能だ。しかし、機動戦に重点を置いたのか一部部位……例えば羽の付け根などは9mmでの対処は十分に可能なのだが……」
「問題は歩兵型と後方にいるE2……戦車型ですよね。歩兵型にはFMJ弾を装填した旧式拳銃(M39)じゃ傷しかつけられないすからねぇ」
藍沢夏がさらりとこぼす。
「更新はどうなっているんすか?」
「
「
肩にかけた
「陸!ともかくテンプレは装甲兵力を前線に出しての防衛線ね。簡易要塞線を築いて待ち伏せ、敵兵力が低下したら突撃する。それが出来れば悩んでいないのでしょう?」
「あぁ、お偉いさんは早期決着を指示している。内地それも都市部にこんなにも侵入を許したんだ。支持率低下や降格を少しでも下げたいのだろう。それに前日にあった機械生命体の襲撃の際使用された下水道の先がここに繋がっていると判明した」
「つまり、お偉いさんはビビッてととっと潰して来いと言ってるわけっすか。これはまた、無理げーすね」
「下水道の方にも部隊を置いているが、地の利は敵側にある故押すことが出来ない」
「つまり、この少ない兵力で殲滅しろと言うわけか。こりゃ捨て石並みじゃねえか」
「いくら包囲下と言えど、戦闘能力は
「戦いは数だよ姉貴ぃって言葉があるっすけど数スラそろってないすっからね。基本リンチで互角すっから」
敵は約600匹。対してこちらの戦力は実戦経験がない一般警官を主力に、突破力があるのはSSと防衛軍と
主力に配備されている武装能力が高ければまだましなのだが、
ほとんどがM39。
そして、日本の警官は外国とは違い
それは、日本では銃の輸入が厳しく、火器操作資格も警察関係者や民間警備会社の関係者しか取得できないため銃撃戦を経験してない。
無論、今は平時ではなく予備弾倉も3つほど持っているだろうががリロードも満足にできなく、防弾チョッキも動きにくく軍用のセラミックプレートが入ったものではない。
この援軍なしの状況で、1時間後に突撃しろと?死んで来いと?現場の士気が下がるのは必然だった。
(唯一メリットがあるのは海斗君礼ちゃん双方を救出する時間が速くなること。抜け出すのではなく
ガラリと装甲車のドアが開かれ、緑ずくしの屈強な男が現れた。どうやら国防軍隊員が駆け付けたようだ。
先ほどと同様な説明を軍人にしているなかどうやって助けるか思考を加速させる。
(先遣部隊として事情を知ってる私が
「――。――――。――ぁったら相談していいんすよ?」
うつむき瞳を閉じている様子を視て、何か抱えこんでいる。そう思った夏が抱き着きながらささやきかけてくる。
もう会議が終わっていたのか、見渡せば装甲車の中には私たちだけしか人影はない。
鍛え抜かれた上腕二頭筋を見せつけながらキメ顔を
女性としてもうらやましいボディを持ち、みんなを元気付けるムードメーカ。藍沢夏。
冷静沈着。仏像の様に明鏡止水であり志は刃の様に鋭い。冷泉仁。
男の娘。かわいい癒し。水瀬樹。
性別。性格すら違う、どちらかとと言えばいつもくだらない喧嘩ばかりしている人が私を支えようと一丸となってくれている。
「――っ。えぇ。確かに。家の隊員は優秀だからね。……行くわよ!今回の任務以外にもう一つ高難易度の事をしなくちゃいけないの。それは海斗君と礼ちゃんの救出。順に話していくわ。まずは――――。」
彼女の面様は晴れていた。
「撃て!火力防御陣形(ファイヤパワーディフェンスフォーメーション)を使い、近づいてきたら近接防御陣形(クローズアップディフェンスフォーメーション)で迎撃しろ!9mmと言えど弾幕を張って近づけけさせない事にも意味はある!弾薬は気にするな!お偉いさんから
戦闘が開始され20分ほどが経過した。戦場に立てば万人は兵士。
重傷者、死亡者も現れていたが一意専心することによって戦線は維持できていた。
また、敵も損耗し突破の晄が見えてくる。明日への日常が、平和が。
指揮はうまくやっている。
けれど何故か咲の目には光が濁って見えたのだ。
(明らかに敵の統率が落ちている?機械生命体は文字道理機械の様に繰り返し動作をする。なのにどうしてこんなにも
しかし、戦闘中と言う神経を多大に使う状況での並列思考では、自らに絡まる透明な鎖の解き方を探れないし溶けない。
(罠?それとも
ある意味では咲の考えはあっていた。もう一つの戦地ではビル群上で高軌道戦をしながら礼を相手どっていたため、気が付いたとしても指揮にリソースを裂くことも出来ない……そして、彼がバイクに乗って近づいているのを配下から確認していた。
やっとモノにすることが出来る。興奮で視野が狭くなりそのために邪魔な
だからこそ行動が単調になっていた。
がしかし、そんなことはつゆ知らず咲は言えぬ優心状態になっていた。
こんな状態でもまだリソースが裂く余裕はあった。部隊の通信を聞き展開場所を指示するなど。
そんな余裕は一つの通信。それも戦地ではなく安地からもたらされた物に崩れ去った。
『ロシアの要求で
「
「そう言うお前は随分と
ストレスによって少し壊れた態度で部外者に向け暴言を叩きこんだ。
確かに咲の言葉遣いは
赤いドレスを着こなした少女であった。
年齢は海斗と同年代だろうか。
白い肌にルビーのような髪と瞳。髪は3つに分けられ一見見れば大きなリボンで分割されツインテールに見えるが、腰まで届くロングヘアー混じったもの。
ドレスは首元にあるリボンを取れば胸がスグにはだけてしまうようなデザイン。またきちんと着用しても胸元と下乳そして脇が露出しスカート前部は取り払われていてパンツがもろ出ている。
そして膝まで届く白いニーソックスにブーツ。
スカートの部分は某、赤セイバーの様になっている。
露出が多すぎる。
確かに、様々な要因で日本人でも露出が多い衣装を普段着として着用する者が増えてはいるが、スカート前面が切り抜かれてるのはさすがに着ない。
いくら同性とは言えパンもろガン見は恥ずかしいのか、体が微かにプルプルと震えハヨハヨと赤面しながら催促した。
「
「すっごくバカにされた気がしますわ……」
生意気なお姫様だな、そんなセリフを飲み込みながら要件を離すように促す。
「要件?そんなの助けに来たに決まってるじゃないですの。
「そんなわけないいだろ。他国で起こった争いごとで自国民を巻き込ませないのが国だぞ。大方金でも積まれたか」
「まぁ、酷い。けれど、打算込みなのは否定できませんね」
「何を企んでいる」
「貴女に権限は無くてよ。けど、どうせバレるのだし……。いいわ答えてあげる、何故私たちが来たんか。それは、新兵器を披露し我が祖国の力を示すため。後、もう一つは探し物を探しにね」
「探し物?」
「そちらはついでよ。見つかる可能性が確定ではないから。あなた達を助けて謝礼金とかデータをもらうためよ。わかった?」
「理解した。が、妨害しないとは言っていないが」
「あら?それは、兵士がやる事じゃなくて国がやる事だもの。
「……ちッ」
「さて、会話はおしまい?一様指揮権はSSの人との兼ね合い。一緒に動けるわよ」
「そうか。だったら馬車馬のごとく使い潰してやる。まったく……
「今は、敵では無くてよ。と言うか四字熟語を使われるとわからないわ。もう少しわかりやすく、敵の敵は味方とか言い方あったじゃない」
「日本語勉強しろ。お前の識別番号はR01だ。わかったなら規定の配置に付け」
なんだこの戦場を知らないガキは。まだ、テーブルでお茶会をしてる姿の方が八方美人で映えるだろうに。
ピロリン、胸の上で電子音がなる。スマートフォン型通信機を視れば、親友である石竹精華の文字。
『もしもし。こちらは第一自動化小隊。線形態の準備が完了したわ。突撃するに従い援護をお願いするわ』
「こちらSS01……了解した。これより誘導攻撃を行う。左翼でE1を押さえる。その間に向けて行ってくれ」
『大丈夫?咲ちゃん疲れてるみたいだけど。また何かあった?咲ちゃんは独立独歩的性格だから、一人で抱え込んでるか心配で』
「多事多難してるが作戦には問題ない。現在ちょっとウザいが援軍……R01が到着した、その援軍に仕事をさせる。合図が出たら突撃してくれ。
『了解。幸運を祈るわ。
通信を切る。
後ろを振り返ればうふふと左手を口元に置きうふふと微笑みながらこちらを見据えていた。
「早速出番かしら?」
「そうだな。で、あんな胸張って豪語したんだ。出来るよな」
「任せなさい」
そう言いロシア本国から持って来た装甲車の中からジュラルミンケースを取り出した。
少女の三分の二ほどの大きさから現れたのは。
「弓?」
21世紀には似合わない長弓だった。
こちらも色合いは赤系統を主とし、ピンク、黒そして花があしらわれている。
持ち出した武器を視て咲は怒りをあらわにした。
あれだけ自信満々に言っておきながら武器は火器では無く古臭い弓。
明らかになめられている。狩猟に来ている……そう受け取られても致し方なかった。
「おまえ」
「少し黙ってくださいまし。わたくし、
そう宣言しか細い指で弦をゆっくりと引いた。
「なんだ?」
弓の動きと連鎖するように明かりの粒が集まってくる。
それは、次第に鋭い槍のような形を形成しそして暗闇を引き裂く火炎矢が生成されたのだ。
「な!」
「さぁ、行きますわよ」
矢をつがえ放つ。たったそれだけの動作。その一射で辺りには熱気が襲い掛かる。
炎が晴れ飛び込んできた光景は、自分たちが苦戦してきた機械生命体がスライムの様に溶解している姿だった。
「何をボケっとしておりますの?突入指示を出すのでしょう?射抜いて差し上げますから安心してもよろしくってよ」
「……っ。突撃開始」
『了解。突撃するわ』
通信機から顔を上げ見えたヴェロニカの表情は微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます