5節 徹甲弾

「さて、れいちゃんにお話聞かないとね」

「過去にまつわる話はやめろよ」

「わかってるわよ。服買うためのサイズ計りのためよ……いつまでワイシャツ一枚にさせとくき?」


 そう肩に手を置きながら耳に顔を近づけそっとささやく。


「あとそれと銃も見せてもらうから」


 礼がP320を持っていることを俺は相談しようか迷っていた。

 けど俺は専門家に相談した方がいいと思ったのだ。所詮一市民が手に入れられる情報なんて雑誌やメディアなんかだ。

 細かな中身や仕様の違いなど分かるわけがない。

 米軍で主力小銃のM4なんかは近代化改修で型番はたくさんあるし、な。

 行きましょうかと、そう一声かけ軋まない板の段をどんどん進んでいく。段差がなくなり一本道の階段が鎮座する。

 どこにいるのかは多分舞の部屋の隣にある空き部屋だろう。そちらから漏れるかすかに陽の光が影さす廊下に堺を敷っていた。

 空き部屋と言っても泊まりに来る人や精華さんが酒で深酔しつぶれた時に使用していて、座布団に机など最低限のものはそろっているだけだが。

 光を踏み、空き部屋へと入り込む。

 舞は椅子に座り、礼は机の上に腰かけていた。

 窓から入り込む光を背にし、絹の様になめらかなな髪がかすかな風に乗り、その髪を撫でながた瞳をこちらに向けた。


「お?……起きてたんだ。てっきり寝てるもんだと思ってたが」

「あ、兄。お話終わったんだ。過去のことを気にしなければ問題ないみたいだよ。まるでプロテクトがかかってるみたい。追加で高圧電流付きの」

「なるほどね。大丈夫か」

「問題はない。……ただ思い出そうとすると、だんだん黒く塗りつぶされていくよう……な気がする」

「記憶喪失を人工的に、ましては都合がいいように操作できる技術は古今東西存在してないのだけれどね。ただれいちゃんは例外的だからどうも言えないのよね」


 過去の記憶に何か手掛かりがあると思ったのだが……簡単にはいかないか。

 無理やり思い出させるなんて技術もないしな。

 礼は机をたたくように手をつき滑りながら降りる。


「そういえばセイカさんのところに看護兵メディックいるんでしょう。そっちで見た方がいいんじゃないの」


 ぐりぐりと頭を胸に挟み込まれながら妹は視線を上に向ける。


「それはきついと思うわ。PMCは政府に情報公開を求められたら基本的に拒めないの。あとは関わる人が少ないほど秘密は漏れないものでしょう」


 確かに、資金提供者スポンサーが軍関係者で仕事もそれだ。

 否応なしに関わってくるし、もし目の前で口を開けてしまったらと思うとそれは正しいだろう。

 じゃあ一般の病院はダメなのか。そんなことを問う時点でもう話しわかってるかと。

 今日の政府機関は病院にも手を伸ばさざる負えない。

 それは死亡確認のためや受け入れ申し込みなどである。

 任務に就いた兵士たちが五体満足で帰ってくる訳ないし、野戦病院ではできることは応急手当であり重症患者には専門的施設を振らなくてはならない。

 しかし一つの病院を占拠するというのは住人から見て好機のまなざしではないし、そういった事態では一般人も負傷していることがおおい。

 だからこそ病院を政府が管理することにより、迅速に救命活動が行われる。

 患者は瞬時に行政機関に照合される。

 この時点で礼は身分証がないし、乗り切ったとしても審査内容や人体状態が送られるため逃れられない。


「つまりほっとけと言うことですか」

「経過観察は必要だけれどもそうね。見たところ過去の事問いただせなければ問題ないみたいだし」

「それしかないでしょ兄。いろいろ試すとか素人の私たちじゃ逆効果になるぜぇ」

 やや口調が乱暴になってくる妹をしり目に話を進める。

「あ、そうだ礼。銃をもう一度出してくれないか」

「うん。わかった」


 そう言い礼は胸の宝石に腕を突っ込む。その光景は傷口に指を突っ込む事に等しいと思ってしまい、精華さんも口を引く衝かせ、うわぁ……とかすかに声が漏れていく。

 その後ぐちゅぐちゅと音を立てながら手首ごと突っ込みピタッと止まる。

 そして勢いよく黒水をもって引き抜いた。


「精華さん」

「ちょっと借りるわよ」


 銃口を下に向けながら受け取り机の上に置く。


「工具は」

「机の引き出しの中です」


 工具箱を引き出す。プラス、マイナス、ワイねじまで対応しているから基本的にはバラせるだろう。

 銃を受け取った精華さんは手際よくマガジンを抜く。

 その後ホールドオープンさせ、テイクダウンラッチを回し前に前進させればスライドが本体から分離する。

 ちなみに弾倉を抜かないと安全のためにラッチが動かないようになっているそうだ。


「と言うか、分解こんなの海斗くんはできるでしょ?銃器操作資格もってるし、それに良くウチに来るじゃない」

「テキスト見ながらと見ないのだと別だろ」


 まったくと思いながら精華さんに耳を傾ける。


「……あの現象は寄生体が武器を生成する動作とおんなじよ。まさか収納できるなんてね想定外だわ」

「人間の常識で測れたらこんな事なってないでしょ」

「ただ寄生体は言ったととおり本能しかない猛獣で、意思の疎通なんてできるものじゃないから……っと」


 先ほどと反対の手順を踏みプラモデルを積むように戻していった。


手動安全装置セーフティレバーが付いてるし、持ち手グリップ部分には国防軍特殊防衛隊のエンブレムに、警官用に紛失防止リール接続フック……やっぱ日本国防軍かしら」


 そう言えば軍と警察は一部装備を流用していてパーツ交換すればいいらしい。

 だからグリップ部分に脱落防止用フックが付いているのだ。


「やっぱ国防軍の物じゃないかしら。それも特戦群とかそう言うやつよ」


 特戦群(JGSDF Special Forces Group:SFGp)

 特殊作戦群ともいわれ設立は自衛隊からである。

 動きやすさを重視し、自腹で武器を購入したり休暇中にPMCに所属し紛争地帯で銃をぶっ放したりと様々なことをしている。

 9年前では、唯一いた実戦経験部隊でありたった8000人ほどで機械生命体1体を撃破したなど……伝説は絶えない。

 本来ならば特殊部隊の装備品などは当たり前だが公開されないが、戦闘の中継などによって判明してしまった。

 マスコミと言えど民間人、そもそも前線に出るなとか突っ込みがあるがその影響で一部装備品が公開になったのだ。

 その支給装備がP320である。

 手袋をはめた精華さんが特殊な構造を指をさす。


「ここを見て。この構造はFMJ弾じゃなくてAP弾が発射できるようになっているの」

「機械生命体対策のためか……」


 基本的に軍は通常弾……言わゆるFull Metal Jacketを使用し、鉛の表面に銅などを圧着させたもので、非常に安価である。

 そして徹甲弾……Armor Piercing Bulletで今ではすべての火器で使用されている。

 AP弾の特徴はタングステンや強度の高い特殊合金を高速で弾きとばし、アーマーを貫通させる。

 寄生体は弱体化しているとはいえ基本的には機械生命体と同じような装甲を持っているため、これが

使用できるようになっているのだろう。


「はい」

「え?」

「これは海斗君のでしょう」


 持ち手をこちらに向けながら差し出してくる。

 俺が手に入れた訳じゃないんだけどな。けどこいつを使えるのは俺だけか。


「あぁ」

「あと、明日10時に向かいに行くから。舞ちゃんも一緒ね」

「えぇ、まだ寝てるんですけど。てか私もついていかなくちゃなんねーの」

「服とかあるでしょう。それに民間警備会社うちに来なさい。それの扱い方教えてあげるわ……おねえさんが、ゆっくりとね」

「はいはい」


 慣れた動作で精華がポケットに入っている携帯電話を取り出すとソコに出てたのは16:57。


「あ、怒られる。じゃあ!海斗君また明日ね」


 礼のスリーサイズを測ったのちに精華はヒール独特の音をたて、走っていった。


「どうするの」

「どうするも何も……頼んだのはこっちの方だぜ。こいつの事あるしいつかはこうなるさ」

「ん……」


 小さく姿勢を下げる。

 こうなってしまうのは仕方のない事だ。

 どうせこんな世の中だ数年後にはぽっくりしてるか安楽してるか……その選択肢しか残されていない。

 自由な時間は未来には残されていないし、しがらみも増えできることも少なくなる。ある意味では外れた兄妹きょうだいにとってはよかったかもしれない。

 たとえ未来の選択を殺しても、どうやって生きていたか……それが大切なんだと思う。

 そう思うと笑えてくる。


「こういう時ってさ、普通ポリスメン呼んで対応してもらうのが一般常識だけどさ……」

「わかりきったことを言葉にするね。だいたい場合冤罪でっち上げられて豚箱インで覆面のやつらが私たちの頭がぱぁあんされるだけさ」

「だよな」


 結局俺たちはあの世界うらを見てきた。いまさら常識もとになれと言われても無理さ。

 根拠のない常識がダレかを傷つけている。いやそれが常識なら非常識でいい。


「信用しちゃいけない言葉ってのがある。自分にとって都合の良すぎる甘い話。物的証拠がないうわさ話」

 そして。

「政治家の言葉だ」

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