4節 寄生体

「つまり、政府関係者だったってこと?」

「もしくは軍の被験者だ」


 その後出てきたのは、国防軍に支給されている刃物や火器だった。

 安全上撃ってはいないため射撃可能かは定かではないが、銃口に鉄板がないし弾を分解してみたところ確かに火薬だった。

 とりあえず礼に装備を仕舞わせながら考える。


「取り合えず情報が不足してる。舞は軍サーバーに潜れクラックできるか」

「急がわ回れ。焦りすぎると足を掬われると思うけど」

「わかった。一回やめだな」


 舞はパソコンに関しては天才的な才能を持っていて、プログラミングやクラッキングもこなすことが出来る。

 けれど才能を持ってしても厳しい訓練で鍛えられたサイバー部隊に一度も補足されずには無理だそう。

 数も練度も精神的にも圧倒的に劣っているのだ。

 ――手を伸ばそうとしてすべて落としては本末転倒だ。


「どうするの」

「人体実験なんだ。軍部でも公表はされていないだろ。今でも生命への冒涜だとかいってクローン法とか解除されてないしな」


 今じゃ法律とか規則とかが力を持ちすぎてしまっている。

 クローン法だって研究途中で難病の特効薬が生まれたりするかもしれないのに、研究設備があるにもかかわらず初めから否定してしまっている。

 事実クローン技術の応用で作られたものはすべてアメリカから買っている。

 ……研究できる施設も金もあるのに。

 それにアメリカではすでに状態が良ければ死者蘇生イレーシング・デスもできると言う。

 ではなぜ日本ではできないのか。

 ――自分はよいことを言っていると思い込み、気持ちよくなってるやつらがいるからな。


「それに教科書にはきれいごとしか書かれないんだぜ」

「知ってる」


 まぁ法ってもんは足枷で邪魔なもんでしかないがそれに今回は救われたというべきか。


「世界大戦とかちゃんと学ばなくちゃいけないとこなんて見開き2ページだ。今が平和だからこそ?ま、異星人きてるけど……30ページぐらいにせないけないのに」


 人間てのはアクセルと同時にブレーキも踏むから。


「じゃあ、どうやって集めるの?クラック使えないのに」

「今日くんだろ。女性あいつが」


 そう確か今日は兄妹の唯一の知り合いが家に甘いものを食べに来る日なのだ。

 知り合った経緯は複雑で、どう考えても普通接点もないし出来ないはずであるが、何故か知り合い小さいころお世話になった事もあるから無下にはできない。


「えぇ……実際は傭兵組織だけど本人は自称、民間警備会社(PMC)って言ってるお偉いさんでしょ。それに大の天然だし」

「自称って……けど、俺らの知り合いにこう言う系に精通してるのは彼女しかいないだろ」


 それでも顔をしかめる妹の頭を軽くなで。


「わかったよ。舞を抱き枕にさせないからさ」


 あの人はかわいいものに目がないからな……昔に舞が抱き着いたときに母性本能が刺激されたのか今では抱き枕にしてお持ち帰りしようとするようになった。

 まぁ、妹のクラック技術を教えくれたのがあの会社の人だが……認めたくないんだろうな。


「わかったけど……ついでに礼の服買ってきてもらえば?」


 ちらりと礼の方を見る。


「確かに……礼の闇堕ちスーツをどうにかしないといけないからな。礼もいいか」

「はい。それを望むなら」

「じゃあ――」


 彼女が来るまでの間に準備について話し合い……そして時間が来た。

 ピンポーンとチャイムの音が響き渡る。それに気が付き扉に駆け寄る前にかちゃりと聞こえてくる。

 ゆっくりと音を出さないように鍵を開けた人物は、勢いよく扉を開け放った。


「って、ちょっと……チェーン!なんでつけてるの」


 いや正確にはドアチェーンに阻まれてできなかったのだが。

 小さくため息をつきながらゆっくりと歩み寄っていく。


「あ、海斗君。これ、どう言う事なの。せっかくお姉ちゃんが驚かそうとしたのに」

「そりゃ対策しますよ。どうせ騒いでてもふところ小型切断道具カッター仕込んでるんでしょ」


 えへへと苦笑いでこの場をごまかす長身の女性。

 見た目こそ20代前半のモデルのような人だが、こう見えても立派な戦闘員である。

 全くこの人はいつもこの調子だ。

 出会った当初もこんな感じでニコニコしていた。ハイテンションな女性。

 もうピッキングで家を空けようとするのはツッコム気がうせた。

 けど、俺がうざいと思わないのは時と場合を考えて切り替えられえる事と…………優しい雰囲気と母性を感じられるからだろう。

 肩を揺らしながらチェーンを外す。

 そうすると彼女はやや薄ピンクの髪をたなびかせながらさも当然と部屋に侵入してくる。


「あら、涼しい!外とは雲泥の差ね」

「エアコンついてますから」

「そうだ!舞ちゃん。舞ちゃんは?舞ちゃんを赤ちゃんみたいに世話をしたいの」

「だから嫌われるんじゃないですか」


 棚の上にあるものに指をさす。

 一見ぬいぐるみに見えるが瞳の部分に小型カメラを仕込んである。そして電源はコンセントから引いてきていて稼働時間の心配はないし、録音機能もばっちり。

 多分、妹は上の部屋でこれを見ているんだろうな。


「そ、そのぬいぐるみは私が舞ちゃんにあげたもの」

「ちゃんと活用してますよ。あ、でもだめですよぬいぐるみ機械こんなのに入れたら……感触で何か入ってるのは一発でわかるんですからぁあ……ふっは」


 無論こんなもの作れるはずもない。妹はプログラミングしかできないし俺も電子工作はできない。

 これは、あまりにもかわいい俺の妹を監視するために彼女が送ったものだった。

 さすが専門家が作ったものだ。性能はばっちりで電波も強く、コンセントが抜かれたとしても内臓バッテリーで8時間動く優れものだ。


「今、私を笑ったわね。こんなにも心配しているのに」


 確かにいろいろとお世話になってはいるが……さすがに盗聴器相当を送られたら困ります。


「まぁ、早く食べちゃってください……あと――話があります」

 雰囲気が変わったのを悟ったのか一気に顔を締め直し、着席した。


「ん……で、その……もぐもぐ……話って?」


 机の上に置かれたサイダーゼリーをすくいながら話を促す。


「あぁ、相談があってだな……ちょっと来てくれ」

「来てくれ……?人間関係の事」


 彼女は妹が幼いころ対人恐怖症だった時にお世話になった一人だ。だから妹関係だと思われたのだろう。

 しばらくすると足音が近づいてくる。

 二人が視線を扉に合わせ人が来るのをじっと待っている。

 そして、扉が開かれた。

 ワイシャツとパンツだけを着た少女が現れる。肌色を隠せていない恰好に唖然としたのか暫く固まる中、礼が一言言い放った。


「髪……ピンク」


 礼の第一声に。


「ぐ……うぇ、ぐすん……私と言う姉がいながら痴女拾った?」


 と海斗の方向に振り返った。


「姉じゃないし、んなわけねぇだろ。年を考えろ!相談したいのは礼のことだ。医学やそういう系に通じるあんたしか頼める人はいないんだ」

「……なるほどね。お姉さんに相談してみて頂戴」

「実は山道で――」


 長身の彼女に今までのことを慎みなく話していった。明らかに人間ではない腕力に胸に根づいたクリスタル。

 そして、彼女の元いた施設には拳銃を含む火器があったところ。


「なるほどね……よく頑張りましたね三人とも」


 あごの下に呼び出された妹をホールドしながら腕をのばす。舞の顔が明らかに歪んでいるのは見ないように……。

 頭をなでるため伸ばした手の首部分を礼はつかみ取った。


「え?」

「名前、聞いてない。コミュニケーションには固有名詞が必要だと」

「めいし……え?っとともかく、確かに名前は名乗ってなかったわね。これから双方お世話になるんだからキッチリしないとね」


 イスから音もなく立ち上がり背をのばす。先ほどの雰囲気は一気にかき消せ目元が細くなる。


「改めまして。民間軍じ……警備会社社長の『石竹精華せきちく せいか』って言うのよろしくね。れいちゃん……でいいのよね」

「せいか?よろしく……でピンク」

「ピンク……髪の色の事?今じゃ珍しくないと思うけれど」

「ピンク……人間の遺伝子的に自然にこの色になるわけない」

「染めただけなんだけどね……まぁいいわ。本題に入るけど多分この子が機械生命体……もしくはそれに準ずるのは確かだと思う」

「ずいぶん、さらりと言ったね……あにぁたすけてぇえ。胸くるじぃぃぃ」


 冗談……いや真面目な時は真面目な精華せいかさんのことだ。こんなところでふざけるような人間ではない。

 が、どうしてそんな確証をもってそんなことを言えるのだろうか……?


「どうしてって顔してるわね。簡単よ軍のお零れ処理を私たちPMCがになっているから」

「処理……って言っても瓦礫がれきの撤去とかじゃないのか」

「そっちは国や県がやってくれるからやらないわ」

「じゃあ、どこで収益上げてるの?非営利団体ボランティアじゃないだろ」

「それは……気になる。人間じゃない私も……利害ないと動かない」


 こんななりでも精華さんの警備会社は結構大規模だ。ちょっとした特殊部隊が100人は入るがそれゆえに大規模な設備費、維持費、武器調達費など額がでるはずだ。


「正確には会社うち資金提供者スポンサーは警察や軍関係が6割を占めているわ。でやってることね……それは残兵処理よ」

「しょり……?」

「機械生命体の10メートルを超えるやついるでしょう。そうね……卵パックだと思えばいいわ。で、撃墜したときに卵の平均三割が飛び散ってしまうのよ」

「はぁあ……っ!」


 つまり……あのデカいやつは卵を運ぶ船であり、本来の目的はその子供を運ぶためであったというわけだ。

 そりゃそうか、大方熊みたいなやつがばら撒かれるんだ。警察や軍が疲弊してるから呼び出されるのだろう。


「問題はね……飛び散った機械生命体の一部が人間に寄生(、、)する事よ」

「寄生……ハリガネムシみたいな感じに?」

「それよりひどいかもよ兄……映画とかゲームとかの創作系なものを想像すればいい感じじゃないかな。ほら触手とかで脳内いじくられるエロゲーやつとか……良くあるでしょ」

 んなバカなと切り捨て入られないか……なんせ機械生命体には今の世界の常識は通用しないから何がっても不思議じゃない。

 が、信じられない。

「人間にって言いましたよね。ほかのより屈強くっきょうな生物……ワニとかトラとかには寄生しないんですか」

「えぇ、寄生するかしないかの個体差があるけど寄生するのは人間だけよ」

「……ゲシュタルト」

「ん?礼」

「寄生するのはゲシュタルトがあるから……ゲシュタルトは心。体はプレテンダーだったはず」

「礼……」

「れいちゃん?」

「わからない……うぅ」


 突如礼は頭を押さえ苦しみ始める。まるでそのことを思い出そうとすると請うおしているのか。

 とりあえず礼を俺の部屋に下がらせる。妹を付き添いさせたから何とかなるだろう。

 ゲシュタルトにプレテンダーね。

 顔を見つめ精華はスマホを取り出す。大方さっき話していたことをメモしているのだろう。


「えっと、とりあえず何でれいちゃんが機械生命体と判断したのは胸に根ずいたクリスタルよ」

「うん。それはわかる。明らかに人間じゃないからな」

「寄生された人間には必ず胸部に宝石が肉体に同化してたの。そこから黒い液体が出るのも同じね。問題は人サイズでも火器がね」

「効かないのか」

「えぇ。7.56で何とか。ほかじゃ貫通しないし良くて体制が崩れるだけよ。そして彼らは人間社会に紛れられる。見た目がわが人間だからね」

「PMCというよりは暗殺者だな」

「ただ寄生されても本能(、、)で人を襲うのは変わらないの。でもれいちゃんは襲ってない」

「いや、襲われたけど」

「はぁっ!よく無事だったわね。襲われたが最後DNAをすぐに書き換えられて人外になるところだったわよ。生成された武器に刺された?」

 武器に刺された?なにを言っている。

「武器ってナイフとか」

「えぇ、機械生命体の体細胞ででできた武器ですよ……あの黒い液体が固まったやつです」

「いや。それはないですね」


 礼には確かに襲われたがどちらかと言えば生殖行動の方が合点がいく。力ずよく押し倒されたが刺されてもいない。

 ……そういえば礼が武器を出していない。黒い液体と言うのが衣服を形成しているモノなのではないかと思うだけだ。

 聞けば寄生のメカニズムは、地震の細胞でできたものを対象の体内に侵入させなければならないようだ。

 その際、宿主が触れていなければならず投げた短刀は10秒間しか書き換えは不可能で……感染経路で例えると血液感染以外だったら問題ないらしい。


「確かに寄生した機械生命体が着用している衣服は大体闇堕ちスーツあれと同じだけどね……でもどうして知性的判断が出来るのかしら」

「え?他はしゃべれないんですか?」

「えぇ、しゃべれないわよ。外見は人間に似ているけれど、見分けが付くし」

「多分施設に囚われていたといっていたからな……専門家はどうしたい」

「施設に突撃して資料をぶん盗りたいけど。人体実験ができる施設なんて……なるほどだから私ね」

「コネあるんだろ?資金提供者スポンサー6割そっち系なんだろ」

「つまり軍関係者を調べろってこと。私にもできる事できない事あるわよ」

「でも来るだろ脱走してるんだほかのやつも不思議じゃない。後始末の関係上妙に情報統制された依頼やつが来るはずだ」

「あんまり頼らないでね」

「天然だからなぁ。くび……いや体長くして待ってるよ」

「んな!海斗君。おねえさんの事舐めてるでしょ。やるときはちゃんとやりますからね」

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