本編:第1章 目と目が逢うその刹那

プロローグ

ここは廃墟都市と呼ばれる政府に取り残された者たちが集どう町。

 旧年劣化や銃撃によってボロボロになった廃ビルのある屋上。

 雨の中、屋上では機械生命体と言われる化け物に回りを囲まれた一人の幼い少女。

 化け物が跋扈ばっこする中、鉄製の扉を蹴り破壊とばし新たに雨具かっぱを着た少女が人間離れした跳躍力を魅せ、人ならざる魔物を超え少女の元に駆け付けたのだ。

 常識的ふつうなふつう人間ならば彼女はスポーツ選手で幼い少女を救いに来た……そう思うかもしれない。

 けれど彼女は少女に向かって刃を抜いた。

 それは一振りのつるぎだった。

 無論ただの剣ではない。

 1mを優に超え、剣身は薄っすらと煌いている。

 そして特徴的なのは十字鍔。その中心には大きな平行四辺形の宝石が埋め込まれていて、眼球のようなものがきょろきょろと蠢いている。

 空から降り注ぐ雫を切り裂きながら漆黒の刃が弧を描く。

 完全に不意打ちだった。一般人には反応できない速度だ。しかし幼い少女は詠んでいたのかニヤリと笑いその剣はよくしなった糸のようなもので容易にはじかれてしまった。


「っ……」


 それは力強いなんてレベルではない。車に引かれたような衝撃を伴って吹き飛ばされていた。

 壊したドアのそばに着地をし、三つ編みを雨で濡らしながら少女は眼前に佇む敵をにらみつける。

 こちらは一人、相手は目視で10体以上。前を立ちふさがる雑魚に手こずる事はない。けれど奥に折った立っている彼女が問題だった。

 身長が私より低く、年齢の割には上半身にたわわに実った果実を備えた中学生位の女の子。けれどそれは人の形をした化け物で私と同格な存在。

 まだ寄生が完了していないのか頭部にはバイザーのようなものが張り付いていて面貌は確認できない。

 レオタードのような衣装。下腹部に奇怪に光る紋様。胸に埋め込まれた宝石。……どうやらコアの寄生は完了しているらしい。

 けれどそんな情報は私にとってはどうでも良くて。


「はぁ、なるほど。けれど僕は」


 月明りが顔を出すと同時に雨具を強引に脱ぎ捨てた。

 三つ編みの少女が着ていた衣服が光に照らし出される。

 それはラバースーツをハイレグと呼ばれる水着に改造したものであった。ピッチリと体に張り付き黒く独特な光沢を基調とした衣装は、豊満な胸や肉付きのいい脚のラインを強調している。

 所々に拘束具を彷彿とさせる装飾品アクセサリー。露出した肩に描かれたバーコード。そして下半身の紋様と胸に埋め込まれた宝石。

 対峙している者同士細かな彩色衣装が違えど同質なものを着ている。

 淫様な恰好など気にせずに。


「あなたを殺さないとね!」


 排水設備が壊れているのか靴を引っ張る水を置き去りにして少女は駆けた。

 主を守るために2体の怪物が前に出る。


「邪魔だよ」


 通りすがりに一線。たったそれだけで青色の飛沫が飛び散り生命が断ち切れる。

 普段だったら捕食するけれどそんな時間はない。

 纏う魔力は大丈夫。あと4~5回斬れるし無くなっても十数秒すれば全回する。

 味方がやられたのを気負う処か幼い少女は後ろを振り返り散歩でもするかのように奥に奥に進んでいき。

 27階から飛び降りた。


「逃がさない」


 ハイヒールで雑魚に飛び蹴りをしながら次の廃ビルに飛び移っていった。




 廃墟都市は新関東統合都市のいわゆるシミだ。

 2032年になっても世界情勢は悪化の一途を辿っている。それも9年前に現れた機械生命体のせいだ。

 何所から現れたかわからない地球外生物。

 その進行によって東京は焼け野原となり、難民そして犯罪者があふれ一種のコミュニティーを作られてしまった。

 廃ビルだらけ、水道や電気が一部にしか通ってなく明かりとして確保できるのは天から降り注ぐ月光のみだ。

 本来ならばうるさくそして闇市が道路を覆いつくすが今日は違った。

 音楽の代わりに銃声と悲鳴。人の代わりにピンク色の肉塊。白線の代わりに真っ赤な水たまり。

 ああ地獄とはこういう事なのだろう。

 そんな中、その中心地に曲線を多用し空気抵抗を限りなく減らした緑色のバイクが、エンジンを吹かしながら廃墟の中心地に突撃する雨具を着た少年がいた。

 前髪を目にかからないように乱雑に切り黙っていれば交換が持たれそうな容姿。決して筋肉質とは言えない只の日本人で高校生。

 右耳にインカムを付け、頭部には液晶型ヘッドマウントを取り付けている。

 長袖の服の上には強化プラスチックを挟んだボディアーマーに足にはプロテクター。腰にはカスタムを施したSIGP320C……拳銃を所持していた。


「くっそ!何所まで進んでいるんだ礼……」


 独り言を愚痴る。こんな光景が眼前に広がれば誰だって吐出してしまうだろう。

 テロリンと電子音が流れてくる。そして液晶には2人の女性が映し出されていた。

 髪が眼に掛からない様に切られ後ろ髪を一つに結んだ1つ下の妹。実吹舞。

 警備会社と言う名の傭兵組織を運営する、腰までピンク色の髪を伸ばし軍服を着た女性。石竹精華。

 妹は移動式の前線基地コマンドポストにいるのか機械だらけの部屋にいながら必死にキーボードを叩いて状況を報告してくる。


『兄!マップを表示しているけど、ほとんどの道が陥没または瓦礫で埋まってる。ただでさえ無免許なんだから気を付けて』

「わかってる」

『海斗君聞こえる!』

「聞こえています精華せいか少佐しょうさ

『いいこっちは廃墟都市周りで前線を張って膠着。警察、国防軍、傭兵部隊が作戦中。電撃戦で突破駆けるけど合流には15分は掛かるわ』

了解ヤー

『この廃墟都市は冷戦時代のベルリンよ。関東都市の中に位置している……おおかた人型の機械生命体が潜伏してるとは思っても観なかったのね。喉元にナイフどころかミサイル突き付けられている状態なの。だから必死なのね』

『それに情報工作はしっかりと行われている。崩壊都市近隣には一般人が住んでいないとはいえ避難勧告も出さないなんて。責任逃れがしたいみたい』

『無能な味方ほど苦痛ね。さて、分かってると思うけれど目的はあなたの友人、文月礼ふみずきれいちゃんを助ける事。貴方は傭兵ではない一般人。交戦は避けなさい……れいちゃんと合流したらすぐ戦線離脱する事。わかった?』

「わかってますよ。銃弾も医療品も使い放題タダじゃないんだ」

『ならいいわ。……アルファは前進。ベーターは道路を監視。チャーリーは私と一緒に基地作成のために建物に突撃。じゃあ幸運を(Viel glück)。通信終了アウト

『どうやら交戦したみたい。……機械生命体に只の銃弾は戦闘員じゃない私にもわかったし。態勢は崩せるけどうちの兄が無茶するわけ……ん?』


 突如ハッキングしていた監視カメラの熱探知サーマルが反応する。


『サーマル付きの監視カメラを取り付けてくれた犯罪組織マフィアに感謝だね。6時7時の方向から敵。分類は高速型……このままだと追いつかれるよ。振り切れる?』

「時速80kmだぞ……っ。これ以上吹かしたら操縦不能で事故クラッシュするぞ」

『交戦準備。目視圏内インサイトまであと380……209……86……来るよ』


 瓦礫で塞がれた道を粉砕しながらそいつらは現れた。

 背中に光翼タクティカルウイングを生やし皮膚を白銀の装甲に覆わせている。

 頭部には雫を印象させ足を20cmほど浮かせながら3体の機械生命体がバイクに向かって突撃してきた。


「……っ。戦闘開始エンゲージ!!」


 瞬時にセレクターを三点バーストへ左腕で拳銃を抜き、半身を乗り出しながら狙いを定める。

 頭部に装着されたゴーグル型のデバイスが相手との距離、湿度、風速を計算して狙うエイム

 後は感と自分の腕を信じて引き金を引く。

 狙うは光翼タクティカルウイング。ここの部分だけ装甲が薄く捥ぐことが可能。


「ファイア」


 ダダダと子気味良い銃声。

 放たれた三発の銃弾は的確に羽に風穴を開け、バランスを取れなくなった化け物は廃ビルに体当たりしていった。

 垂直離着陸機ヘリコプターと同じだ。片方のプロペラをなくしてしまえば浮力が安定しない。

 やれるやれるぞ。

 そう思い2体目に視線を合わせれば、虚空に浮く6本の緋色の矢スカーレットアロー


「やべぇ」

『避けて!』


 瞬時に右腕でハンドルを切る。右斜め前方に矢は着弾。見れば30cmほどコンクリートがドロドロに溶けている。


「道路が陥没してる理由てこれかよ」


 もう一度狙いを定め発射。同じように落としていく。

 最後の一体。

 回避行動をとられ弾丸が躱される。羽を狙っているのをわかったのだろう。低空飛行で高度を下げたのだ。

 やば。距離は42……24。

 急いで次射するがこれもあざ笑うように躱される。

 が、ガッと何かにぶつかる音が響き、敵の体制が大きく崩れた。

 地面すれすれまで低空飛行をしていたため皮肉なことに、折れた止まれの標識に躓いてしまったのだ。

 今なら前のめりになって翼、それも付け根部分が狙える。


「終わりだ」


 放たれた3つの弾丸が羽の付け根に当たり、バゴンと金属が潰れるような音を立て廃ビルに突っ込んでいった。


『ナイス』

「あっぶね」


 本当に危なかった。拳銃を見てみればホールドオープン。チェンバーが完全に開放され弾切れを表している。

 単列弾倉シングルカラムではなく、多く弾が入る複列弾倉ダブルカラムを持ってきていて良かった。

 途中で弾切れになった場合。ハンドルを離さなければならず、もしバランスを崩したら……。


『あちょっと待ってやばいやばいやばい。前、前見て視て道ふさがってる』

「え!?」

『迂回は無理そう』

「はぁあああ!!」

『止まれる?』

「雨の日は道路が滑りますねぇぇええっ!」


 やばい目視できる範囲まで近づいてしまっている。高さは2mはある、この距離ではスピードを殺しきれない。

 礼の気配が感じるところに向かって一直線に向かっていったのが仇となったか。

 ……っ。くそぉぉ。


「祈れ!」

『なにをって』


 瓦礫……と言うより鉄筋ブロックに等しい……にぶつかる直前バイクの上から垂直に飛んだ。

 メキ……と金属のフレームが変形する音を背で聞きながら着地をしようと。

 あ、何とか瓦礫超えれたけど勢いが……それに地面遠くね。陥没地点か!

 瞬時に受け身体制。

 着地点をしっかりと見てつま先から着地。瞬時に両手の平をついて腕を45度ほど曲げる。そして軽く地面を押す……。

 押せませんねこれ。

 ランディングは垂直に降りた時だけだった……ロールすべきだった。


「グヘ!……っぅ、ぅぐ」

『だだだだだ、大丈夫?』

「何とか」


 受け身のために手を着いたお陰で柔道の前回りのような形となり、奇跡的に頭部にあたらずまた、背中にリュックを背負っていた為に衝撃と擦り傷から逃れ、重傷を負わずに済んだ。

 掌は……大丈夫。頑丈な手袋をしておいて良かった。

 が……。


「くぅそ。リュックが摩擦熱で溶けてやがる」

『ホントだ。体育着でスライディングした時みたいになってる』


 リュックには大穴が開き荷物が地面に零れ落ちてしまっている。医療キットに水筒、予備弾倉など散乱。特に大物だ。

 医療キットはちょっとしたポーチほどの大きさだ。これを持ち運ぶとなると片腕がふさがる。


置いデポしていくしかないか……」


 予備弾倉を出来るだけ回収し、水筒で水分補給を済ませ荷物に背を向けて歩いて行った。




『ここ?』

「あぁ」


 しばらく進んだのちとある廃ビルの前に足を止めた。

 大きな駐車場に、噴水。元都市部とは言え敷地をここまで贅沢に散財したものはないだろう。

 外見は壁は大理石に加え、上層部は曲線を使用。船でも乗っけてそうなビルだ。

 そして冷暖房用の大きな室外機。地球環境を全く考えていない大きさだ。


『見たところ大企業のオフィスが入ってたビルみたいだけど』

「ビルだね。としか感想出ないが、確かにここにいる」

『で、入れるの?』

「見てわからないか」


 大きな入口、また外観のために開けられた大きな窓はすべて瓦礫で塞がれている。

 無論ただ無造作に配置された瓦礫ではない。隙間には黒いパテのようなモノが濡れれており、空気の通り道一つ見つからない。

 これでは内覧できない。


『壁に穴開けてみる』

壁抜きパスウォールは持ってないぞ。てか、爆発物は取り扱えない」

『……ほかの入り口を探してみる?』

「あぁ」

『一応、ビルの名前と型番言って。調べられるなら構造がわかるかもしれない』

「わかった」


 廃ビルの看板に書かれていた文字を送り待つこと数秒。


『わかった。外壁に避難用に作られた螺旋階段があるはず。そこから入れるかもしれない』

「了解。流石に全階瓦礫で埋めるやついないよな……」

『だれがそんな事をするのさ……いいから妹のいう事を聞くのさ。電子機器に関しては私はプロだかんね』

「はいはい」


 入口の近くにある室外機の上に登って水道管に飛び移る。50kgプラス装備の荷重に十分耐えることを確認し1.5mほど登れば階段をフェンスと同じ高さになる。

 そこからもう一度ジャンプ。フェンスは網目状なので指やつま先トウ部分を引っ掛かけながら隙間に体を潜り込ませる。


「よし」

『扉調べよ』

「2……駄目だ。3階に――」


 内圧によって変形したドアを尻目に雨で滑らないようにしながらも飛ぶように駆けていく。


「4階……引っかかるが行ける」


 4階になりやっと変形していなく隙間から砂が漏れていないドアを見つけることが出来た。

 ノブをひねってもビクともしない。イラつき海斗は扉に向かって飛び蹴りを叩きこんだ。

 効果はすぐに表れた。メキと留め具が変形しドアを支えられなくなりアルミ製の扉は後ろに倒れこんだ。


『弁償もんだね』

「誰も管理してないだろ」

 倒れた扉を踏み越えながら廃ビルの中に潜り込んでいった。

「聞こえるか?」

『聞こえるよぉ。これはまたべたな剣撃音だね』


 耳をすませと言うかマイクで集音出来るくらい辺りに響いている。

 此処まで大きいなら野外にも漏れそうなものなのだが……。

 上を見上げれば大きな穴が屋上まで……いや上から下に降りてきたのか、天高くそびえる月が階層をまんべんなく照らしている。

 砲弾が着弾したとは聞いていたが、本来重力が加わるから放物線を描くはずだ。しかしこの穴は垂直、90度に穴が開いている。

 あぁ、何所にいるのかわかった。


『ごめん監視カメラが潰されてる。電力とかそういうのじゃなくて物理的にだから何所にいるのか』

「1階だな。これ天井から垂直に天井から地面に穴が開いている」


 だからそこに向かって見定めればいい。

 拳銃を取り出し再装填リロード

 ここからは多分戦なければいけない。相手は機械生命体であり、人間の体と頭脳を持った上位種。

 グリップが一体になった肉厚ナイフにプラスチック補強が入ったグローブと靴。

 残弾は通常弾(FMJ)が4に徹甲弾(AP)が2。

 正面からの交戦を比較的避け距離を取り、予備動作を確認したのちに適切な部位に適切なタイミングで当てる。只それだけの事だ。

 左手にハンドガン右腕でナイフを握り、穴から一階を見渡した。

 眼前がとらえたのは想像を絶するほどの戦だった。

 足を一歩踏み出すごとに地面が軋み、武器が打ち付けられるほどに空間が悲鳴を上げている。

 三つ編みの少女――文月礼それに相対するのは肉々しいバイザーを付けた少女。

 身体能力は礼の方が有利と見えるが、少女……寄生体の方も負けていない。

 寄生体が持っていた鞭を振るがスライディングで躱し相手に飛び込み剣を振るった。

 が、突如礼の下から触手のようなものが飛び出し後ろから強烈な一撃を叩きこみ、攻撃態勢が大きく崩れた状態で吹き飛んでくるのを見逃さない。腹部に向かって回し蹴り。攻撃をした際ヒール部分がめり込み赤と青の体液をまき散らしながら瓦礫の山に吹き飛んでいった。


「うぇ、ぐ、あ、あ。はあぇぅ、は……ぐぇ」


 礼は苦痛で嘔吐えずきながらも左手で穴が開いた穴を押さえ右腕に捕まった剣を支えに立ち上がる。

 目は涙で揺れ、口からは唾液が漏れている。


『礼が、れいがぁ』

「……っ。わかっている」


 落ち着け……落ち着け、冷静になれ。ここで突撃したって無意味だ。

 見て、視て、観て、診て。蜘蛛の巣に突っ込む前に、せめて相手を解析してから。

 ここで感情的になって「このクソキチ〇イ野郎がぁぁあ!!」と叫んでもデメリットしかない。頭上を取って相手に不意を撃てる状況を無棄むげにはしたくない。

 せめてあの意識外から攻撃してくる触手もどきのヒントを。

 封じ方なら万々歳。責めて前動作でもわかれば。




――何とか立ち上がれたけ、ど。


「はぁ、はぁ」


 大丈夫。これくらいじゃまだ死なない……けど体が引き裂かれても生きれるほど頑丈になったとしてもこの痛覚は人間と同じように働く。

 逆に意識を保っていられる分激痛を多く長く感じる。

 動く、活動できる。けれど私の体の痛みが、苦痛が鎖のように巻き付いて動きを封じてくる。


「ん……っ。はあ」


 相手は確かに身体能力上私より低いけど、策略や罠に対しては3枚以上上手。

 それに私の攻撃のさばき方もわかってる。

 結局攻撃手段が限られている私にとって接近しないと相手にダメージを与えられない。

 やる事は同じ、一歩でも前に速くその先へ。

 鞭が来たって弾き返す!触手は……来ない。行ける!


「せやぁぁぁあ!」


――もう一度礼が立ち上がり先ほどと同じように接近をする。今度は触手はない。


「ん。あれは」


 相手の武器の鞭が液体化している。先ほどまで柔軟性と伸縮性を兼ね備えた武器だったのに。

 液状化するのには疑問を抱かない。

 そもそも寄生体の武器は胸にある宝石コアに腕を入れ、引っ張りだす。その際コアからでる体液によって作成されている。

 魔力を流すと操作でき固体にも液体にもなる。

 基本は固体の状態だ。液体では物理的な攻撃を防ぐことが出来ない。なのにわざわざ液体に戻した。


「れ……」


 まだだ。確証はないけど、想像道理なら。

 気が付いてくれ。


「ぇ。マスター」


 突如礼がヒール部分を地面に突き刺し急停止。剣を両腕で構えなおす。

 その瞬間今度は針のようなものが地面から飛び出した。

 太ももに針を受けながら間合いを取る。

 もしそのまま進んでいたら、無数の針に貫かれたオブジェが完成していたことであろう。


「種は割れた」

『と言うと?』

「地面の隙間に自分の細胞を流していたんだ。細胞液は魔力があれば自在に操ることが出来る。鞭がはじかれた際、すぐ液体化。あとは下に魔力を流せば」

『つまり武器を地面に突き刺してその先がニョッキと出て来るって事?』

「あぁ」


 このタイミングで手を出せば。

 拳銃を構える。


「すぅ……はぁ」


 呼吸を整え相手を見定める。

 そうだ……相手は人間じゃない生きてはいない。

 いや、そんなの関係ない。


【君は大切なものを失った。繰り返すというのか私と同じように……】


 怖い、当たり前。

 もう一度無謀に突撃する。

 ビビってる、笑いたければ笑えばいい。

 鞭を弾く。

 けどこの瞬間だけは。守りたいから。

 体液が地面に。


「ビビってんじゃねェェェエエ!!」


 大声を上げながら海斗は引き金を引いた。


「っぅ」


 放たれた弾丸は腕に当たり大きく仰け反る。口元に浮かぶしまったという感情。

 タイミングと場所がずれた触手を尻目に礼が腹部に向かい。


「切り裂けぇぇぇぇぇええええ!」

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