追跡、ネコ 02
ふと、「レイ!」と声を出しそうになり、私は一人ぼっちだと気づいた。
ピリピリした感触を、恋しく思う。
レイの匂いや声を感じられないので胸がきゅっと抑えられるような寂しさを覚えた。
一人肩を落としながら帰路につく。
昼休みに美容院に連絡を入れると本日の午後は空いているとのことで、学校帰りにレイは美容院に向かった。反対方向にあるので、私達は途中で道を別れた。
……一緒について行けば良かった、かも。
でも、その時はまだ……私の頭の中がふわふわしていた。何故ならお昼休みの間はずっとレイの膝枕を受け、更に美容院に電話をかけ始めた時からお昼休み終了のチャイムが鳴るまでの間、私の髪をくりくりと指でいじられていたから。
思い出すだけで体が捩れそうになる。
あの感触、それだけでなんかご飯三杯はぺろりと食べられると思う。
私の髪も、私の体の一部なのね、と実感した。
レイの指に絡め取られ、軽く頭皮に指先が触れると振動が頭に響くようにレイのピリピリが伝わる。それから逃れることができず、太腿のクッションのあわせ技となって私に襲いかかっていた。トドメに手を握り、レイの指先が傷に触れる。あまりの心地よさに悶そうになり、それを必死に我慢してどうにかレイの指を軽く握るだけに留めると、レイがにぃっと微笑むのが見なくてもわかる。ふわっとした何かを感じる。私はそれに気づかないフリをした。
その結果、午後の授業中はレイの感触が残り香のように私に纏わりついて集中できず、レイと別れる時も「ばいば〜い」「ばいばい……」と適当に返事をして帰ってきてしまったのよ。
レイから距離を取るたびに意識を取り戻し、レイの姿が完全に見えなくなったところで正気に返る。
後悔の念に苛まれながら自宅についた。
部屋に戻り……ゲームを起動するも試合に負けてまるでコントローラーを投げるかのような勢いで辞めた。リビングに戻り、ごろりとソファに横になり、テレビをつける。
夕方のよくわからない番組……。
それでもレイと一緒に見るなら色々ツッコミを入れ、レイの感触を味わえるから幸せな時間に変貌する。
今はとても退屈だった。
時間の流れが全然違うわ。
ソファも、レイの太腿に比べたら硬すぎる。レイの太腿を基準にソファやベッドの柔らかさを決めて欲しい。スマホを取り出し、レイからの連絡は……無い。まだ、髪を切っているのかな。
以前、出会った頃のレイの写真を見返す。そうそう、ずっと一緒に居るから気づけなかったけど、もうちょっと丸みを帯びたボブカットだったのよね。ミディアムよりも少し短い今のレイの最高に可愛い。伸ばしたレイでも良かったかもしれない。今度、そう伝えてみようかしら。
──通知が入った。
レイからの連絡ではなく、ゲームのスタミナ回復の通知だった。そういえばイベントの限定ガチャキャラがまだ揃っていない。……まぁ、別にそこまで強くないし、無理して回して手に入れる必要は無い。
でも回した。
はぁ、こういう時に限ってなんか出てきちゃう……いや、☆3(ノーマル)だけの残酷な結果だった。ショックがお腹の内側までめり込んだ。微課金に収めてコツコツ貯めていた石なのに……。ポトリ、とスマホが手から落ち、ソファに埋まる。私も一緒にソファに埋まる気分。またレイにこの歳でもうガチャ中毒? と真剣に心配される。
テレビはいつの間にかニュース番組に変わっていた。
雨は、降らない。
外からはこれ見よがしに茜色が差し込んでくる。
……レイ。
まだ、外に出ても大丈夫な時間帯。
まるで引き寄せられるかのように、私は玄関の外に出ていた。レイに連絡をしたわけでもないから、会えるとは限らない、というか普通は会えない。もうとっくに髪を切り終えて自宅についているかもしれない。わかっている。そのくらいの思考はできるくらいには頭は回っているけど、それでも──。
最寄り駅についたところで、「レイ」と小声で呟いていた。
何故なら、レイを見つけたから。
思わず駆け出しそうになって、そっと思いとどまる。何故なら、レイはいつになく険しい顔で、じっと何かを見つめていたから。
私は、そっと電柱の影からレイを見つめて……レイを、追跡することにした。
// 続く
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