無味、甘い 02
──5分前。
今日は私のベッドの上で朝を迎えた。
ピリピリとした感触。
肌寒い中で、きゅっと握られた指先の感覚に思わず顔が綻んだ。
隣にレイが居る。
私の胸元に顔を寄せ、すぅすぅ……と愛らしい寝息を立てながら眠っていた。
レイの存在を認識するだけで、ドバドバっと頭の中で幸福感が液体のように広がった。そのまま体が溶けそう。全身を締め付けられる快感に呼吸の仕方を忘れそうになる。
今日は土曜日。
よし、と内心ガッツポーズをした。
何故ならこのままベッドの上で……レイを思う存分堪能できるから。
普段のキラキラ輝くような見麗しい笑顔も最高だけど、可愛らしく寝息を立てるレイもこれまた素晴らしいわ。特に瞳を閉じたことで長い睫毛が重なり、やや大人びた雰囲気を醸すところが堪らない。もちろんレイの可愛いところは無数にあり、サラサラした髪が顔を隠すように広がり窓から差し込む朝日を散らしているところや、丸みを帯びたおっ「おはよう~なぁに?」
レイが目を覚ました。瞳はまだ半分閉じているけど、天井を見上げて「サクラんち、だ」と呟く。
内心歯ぎしりをしていた。
まだ、早い……。
もう少し寝顔のレイを眺めていたかったわ。それに、今日の分の寝顔写真をまだ撮っていなかったし……。
「おはよう」
「起きてるなら起こせ~」
「この前は休日はすぐ起こすな! って文句言ったじゃない」
「だってあれはサクラがなんかもぞもぞしてくるから……私の体を色々触って……」「してない」「サクラがそう言うなら信じましょう──」いや確かにレイの体が柔らかすぎて思わずしがみついてふわふわな感触を味わっていたけど別にホント変な意味じゃなくて「わかった、わかったから……」
レイはふぁぁ~~と腕を伸ばしながら伸びをして、また元の形に戻るように背中を丸めた。
私の体に吸い付くようにくっついてくる。
「ねぇ、寒い~」
「その割には掛け布団を足元でぐしゃぐしゃにして……」
「夜は暑い。……ってか、サクラ!」
ただ私の名前を呼んだだけなのに。
私は返事をするかのように胸元に吸い付くレイを抱きしめる。
レイの頭部が私の胸元にあるため、髪に顔を寄せる。ふわっとレイの髪からシャンプーとレイの匂いが混ざった香りが鼻孔をつく……。
時々SNSなどで犬や猫に顔を埋めて○○吸いは辞められない……とふざける動画を見ることがあるけど、レイ吸いは確かに中毒性がありすぎる。
自分でも、結構変態だと思うというか、もう少し自制したいのだけど……抑えきれない。レイの匂いをクンクンと嗅いでしまう。だって、本当にいい匂いなんだから、本能的な部分で思わず気づいた時には自分でも驚くほどはぁはぁしている。
「あのぉ、そろそろご満足いただけたでしょうか?」
レイは恐る恐る私に向かって声をかけた。お楽しみのところ邪魔してという思いが滲み出ている。私こそ申し訳ないわよ。でも、本当にいい匂いというか、好きという感情がドバッと頭の中で膨れ上がるのよ。
「ただ息をしているだけよ。そんなに大きく目を見開かないで頂戴!」
「まぁサクラさんがそう仰るならそうなんでしょうねぇ」
レイは嫌味ったらしい口調で言った後、ゴリゴリと頭部を私に押し付けてくる。ギィヤァああああああ!!!! と内心おかしな悲鳴が私の中で轟いた。サラサラした髪を纏いながらのグリグリ攻撃、なんて破壊力なのかしら。意識が二度、三度吹き飛んだ気がする。
ドキドキと胸が高鳴ってる。
レイは、それを確かめるようにひしっと私の体を寄せている。
「まぁいいよ、好きなだけ私に密着してはぁはぁしろ」
「だから普通の呼吸」
「やれやれ、素直じゅないんだから。気軽にしがみついてハァハァしてくるの禁止にしちゃおうかな~」それはイヤ。
──どきッ
とレイの心臓が、私の想いに反応するかのように大きく跳ねた。
「まぁイヤかも」私は、敢えて、肯定した。が、レイの心音はその特に反応しなかった。
「ふうん、なんだ素直じゃん……」
予想よりもレイは動揺していた。言葉の接ぎ穂を失うかのように黙る。私ももっとヘラヘラ笑う感じのレイを想像していたので内心焦る。
沈黙。
二人して。
次に何を言えばいいのか、迷うじゃない。
──ぐぅううううううううう!!
まるで私達の沈黙を引き裂くように、レイのお腹が鳴った。
「……サクラ、うるさい」
「あんたでしょ」
「お腹減ったよ。朝ごはん食べよ」
☆★☆★
// 03に続く
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