第2話 夢屑の島

そこは、誰も知らない島。叶えられる事のなかった人々の夢が打ち捨てられる場所。

誰もがあこがれたスポーツ選手。美味しいお菓子を作るケーキ屋さん。

 

いつから夢を忘れてしまったのだろう。 

どうしてあきらめてしまったのだろう。

 ……。

なぜ叶えられなかったのだろう……。

ここにはそんな夢になれなかった夢たちが埋められている。


夢屑の島。ここにあるのは捨てられた夢。

ここにあるのはなくした希望。

 

今はなくしたもの。

昔を振り返るもの。

 

捨てられている夢とは正反対の。

絶望が漂う島。


長年この島の管理をしている 那由田(なゆた)は思う。


だから、ここに子供が来るのはとても珍しいのだ。


少し興味を引かれた。普段ならしない対話。


少年は夢屑を見上げながら語る。

「夢って、何?」

もちろん少年にも夢はあった。過去形なのは、ここに彼の夢が埋められているからだろう。何があったのか、管理人は珍しく心を動かされた。


 

少年は語る。


──ただ僕はサッカーがしたかっただけなのだと──


しかしそれは夢に終わる。可能性はもう無いのだ。

事故だったという。青信号を渡る少年に、暴走車が突っ込んできた……。

彼に落ち度は無い。ただ運が悪かった。それだけ。


夢は人に希望を与えてくれるものじゃないの?

少年は問う。

だから管理人は答えた。今まで数え切れぬほど捨てられた夢を見てきたのだ。答えはある。……はず。


「夢はかなえるだけが夢じゃない。見るだけでもそれは夢なんだよ。」

少年を諭すように。

「でも、今の僕には絶望でしかないよ?ここはあまりにも悲しすぎるよ。」

「夢があることで人は成長できる。がんばろうとする。それは夢をあきらめた後でもきっと役立つことだよ。無駄な経験なんて、ない」


少年は嘆く。

夢絶たれただけではない。歩くことも、彼は奪われたのだ。誰もが普通にできることすら、少年にはできないのだ。


それでも夢見る未来は、彼には絶望に彩られたものでしかない。

管理人は答えに詰まる。夢以外のことで語ることを彼は知らない。


そんな二人の前で、夢屑を漁る一人の男がいた。

「あの人は何をしているの?」

「時々いるのさ。夢を捨てきれないか、昔に見た夢を忘れられないか、そんな人が自分の捨てた夢を探しに。」


男は捜し続ける。積み重ねられた夢の中から、無くした自分の夢を。


少年は男に向かう。

なぜそんなにしてまでなくした物を探すのかと。

男は答える。

無くした物をとりもどすためだと。

あのころの情熱を思い出したいだけだ。


少年はただ見つめている。彼のことを理解できないというように。


屑の山を掘り返しながら更に言う。

一番悲しいことは夢をあきらめることではなく、夢を捨てたことによって何事にも真剣に取り組めなくなった自分なのだと。


世間に絶望する。

                           

すべてをあきらめる。

           自分を裏切る。

 

夢は捨ててもそれだけはしてはいけないことだぞ少年。

男は朗らかに笑った。楽しそうだ。本当に無邪気な少年のように笑う。


少年は何も言わず男を手伝い始めた。

男も何も言わない。

ただ、忘れた何かを探す。

ここは夢という希望が捨てられる絶望の島。しかし、ここに訪れる人はみな、希望に溢れているという。

戻れない過去。

取り戻せない未来。

幾多の叶わぬ塵芥。


ここは夢屑の島。矛盾した二つの理が住まう場所。

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