第15話 潜入と四大側近

「ここだ」

 《千里眼》を使った限り、可能性の一番高い建物まで来た。しかし驚いた。普通にホヤニス協会と看板が掲げられていた。

「このまま入るのかしらん」

「いや、それは直ぐに見つかると思う。良い案があるんだ」

 僕は二人に説明をした。

「連中の服装を逆手に取るんだ」

「どうやるのー?」

「なるほどねん。じゃあ一人見つけなきゃ」

「そういう事です」

「アイリスにも説明してよー!」

「まずホヤニス協会の人間を一人探す。そしてアイリスが気絶させる。キャンネルさんが《覆面》でその人になりすます。後は白装束の中にみんな隠れるんだ」

「なるほどー!よいっしょ!」

 アイリスは五人に増え、各方向に飛び立った。

「見つけたよ」

 数十秒後、早速一人引き連れて来た。というか引きずって来た。流石だと思う。しかしエリルもそうだが、華奢な体の何処からそんな力が出るのだろうか。僕達は白装束に身を包む。

「やだビン。変なとこ触ってる!」

「ごめん。でもちょっと我慢して」

「あら、私は嬉しいわよん。まぁこの身体だと男としてだからあんまり面白くないわねん」

「今は面白がってる場合じゃないですよ」

 大きな扉を開けて、中に入る。ぎこちない足取りだが、戦闘になるよりマシだ。僕は《千里眼》を頼りに進んだ。中は広いが何もない空間だ。もちろん絵画や花は飾られソファーもある。しかし他に入口や通路、出口が見当たらない。

「ねぇビンちゃん。誰もいないのは良かったけど、扉らしき物はないわよん」

「うん、ちょっと待ってて」

 僕は『守護霊』で周りを見た。何処かに隠し通路がある筈だ。周りを見渡すと、床に違和感を覚えた。

「キャンネルさん、あの先の床まで行って下さい」

 その床は紋章のような物が描かれていて、良く見るとその周りに大きな四角い線がある。おそらくここだ。僕は《解錠の理》を使い床に手を触れた。すると紋章のあった床がせり上がり、地下へと続く階段が現れた。

「ビンゴねん」

 僕達はバランスを取りながら、ゆっくり階段を下っていく。しばらく真っ暗な階段を降りて行くと、淡い光が見えた。そこには鉄の扉があり、横にはパスワードを入力する画面があった。僕は手を伸ばし、無理矢理解錠した。奥へ進む度に同じようなロックシステムがいつくもあった。イヤーの街並みからは想像出来ない現代的な物ばかりだった。この地下が本拠地で間違いない。僕達はどんどん奥に進んだ。

「変ねん」

 キャンネルさんが足を止める。確かにここまで誰とも遭遇せずに来ている。何か嫌な予感がした。それでも進むしかない。エリルが待っているのだから。

 五つのロックを開け、そのまま進む。すると大きな扉があった。ゆっくりと開くと、そこは大広間だった。中に入り奥に進むと、扉が閉まった。そして明かりが付く。そこには白装束に仮面、ホヤニス協会の人間が立っていた。


「ようこそ我らがホヤニス協会本部へ。お三方が無事にたどり着いた事を心より祝福いたします」

 どうやら誘い込まれたようだ。僕達は白装束を脱いだ。

「エリルを返してもらいに来ました」

「ええそうでしょう。それも知っております。シナメの言った通りです。三日ほど前にあなた達がくる事は既に見られていたのです。ですからこちらも準備は万端。この部屋で朽ちていただきます。全てはフラグレンス様のために」

「エリルに何の関係があるんだ!」

「ねぇビン。フラグレンスって誰?」

「エリルのファミリーネームだ」

「えー!じゃあエリルはホヤニス協会の人だったの?!」

「そんな訳あるか。あいつは嘘を付いている」

「いえいえ。まぁそんな事は今日を持って知る由もなし。ここで果てていただきます」

 白装束の男は突然僕に襲いかかってきた。瞬時にアイリスが割り込み、一撃を受ける。男は後ろに引き、体勢を整える。しかしアイリスのカウンターが決まっていたようだ。男の仮面が割れて落ちる。その顔は半分以上真っ黒に染まっていた。それ以上に目を引くのは、鼻がない事だった。

「やれやれ、まさかここまで速いとは思いませんでした。少し油断していたようです。あ、そうそう。申し遅れました。私はホヤニス協会を守る四大側近の一人、シナナハと申します。ご贔屓に」

 そう言うとシナナハはまた飛び込んでくるが、アイリスが構えた瞬間に一歩引いた。そして手をかざすとアイリスの動きが止まる。そしてそのまま近付き強烈なボディブローが入る。あの速度を避けられないはずはない。

「アイリス、離れるんだ!」

「やってる!でも身体が動かない!」

 僕はアイリスに駆け寄り《解錠の理》を使った。

「大丈夫か」

「大丈夫!攻撃は大した事ないよ。でも動かなかった」

「超常種よねん。当たり前だけど厄介だわん」

「でも手をかざしただけだったよ!だから数で押せばいける!」

 アイリスは五人に増え一気に攻める。シナナハの周りを囲み、一斉に攻撃を仕掛ける。しかしアイリスの拳が届く寸前に、急に苦しみ出して五人とも倒れてしまった。

「それも事前に知っておりますよ」

 僕は直ぐにアイリスの解錠に行こうとした。しかし僕より速くシナナハは目の前に来た。そして手をかざした瞬間、僕は息が出来なくなった。

「どうです。空気が吸えなくなると苦しいでしょう。今まで当たり前に思っていた呼吸が出来ない。それはあなた達の感謝が足りないからなのです。当たり前の事を当たり前と思ってはいけません。全ては神の与えし奇跡なのですから」

 僕は解錠をして呼吸を取り戻す。しかし横でキャンネルさんが倒れる。そしてまたしても呼吸が出来なくなる。このままでは全滅してしまう。何とかしないと。頭を巡らせた。エリルを救うために。足手まといはもうごめんだ。

 その時脳裏にあの出発の日、エリルが僕に言った事を思い出した。

『それに何より《千里眼》との相性が良過ぎるのよ。考えてみて? 例えどんなに離れてても、あなたは私を見る事が出来る。だからどこにいたって私は無敵になるの』

 そうだ。何処に居たって《癒しの眼差し》が使えるって言ってた。それなら《解錠の理》も一緒のはずだ。僕は目を閉じてキャンネルさんとアイリスを見た。そして《解錠の理》を使った。すると横でキャンネルさんが咳き込む。

「やったぞ」

 しかしアイリスは反応がない。まさか、手遅れだったのか?


「おやまぁ、何と言う事でしょう。どんな手を使ったかは分かりませんが、どちらにせよあちらの娘は助からないでしょう。どうやらあなたが私の《空気操作》を無効に出来るようですね。そちらの淑女は戦闘は向いていないと見ます。つまり後はあなたと身体的な勝負になりそうですが、念には念を、です」

 白装束の中から長い刃物を取り出す。マズイ。このままだと間違いなくやられる。身体が動かない。でもシナナハは何も使っていない。これは死への恐怖が身体を止めているんだ。大きく振りかぶった刃が僕を目掛けて振り下ろされる。その瞬間、身体に強い衝撃が走り、床に転がる。元々僕のいた場所にはキャンネルさんがいた。助けられたんだ。

「キャンネルさん!」

 刃物はキャンネルさんの頭目掛けて躊躇なく振り下ろされる。そして大きな金属音が部屋中に響き渡る。僕の目の前には、折れた刃物の先が転がって来た。

「ビン!止まってちゃ駄目だよ。そんなの私の好きなビンじゃない!」

 そこには無傷で倒れたキャンネルさんと、両手に炎を纏ったアイリスが刃物を掴んで立っていた。

「おやおや。生きてらっしゃったんですね」

「ベーだ!あんなので私がやられるはずないもん!寸前で一人増やして影に隠れての!どうビン、私凄いでしょ!」

「あぁ、助かったよ」

「おやおや。でもその炎、シナメからは聞いておりませんでしたが、新しい力でも手に入れたんでしょうか」

「これはずっと前から私のものなの!」

 アイリスの手の炎が大きくなり、刃物は形なく溶けていった。しかしすかさずシナナハは呼吸を止める。しかしもう大丈夫だ。

「アイリス、僕がサポートする!全力で行け!」

「そういうビン、私好きだよ!」

 炎を纏った突きがシナナハの腹に当たる。その勢いで壁まで吹き飛ばされる。しかしアイリスは少し違和感を覚えたようだ。

「何でだろ、手応えないや」

 それもそのはず、数十メートル吹っ飛んだのに、ゆっくり立ち上がるシナナハは、傷一つ付いていなかった。

「なんとまぁ暴力的な力でしょうか。こんなに吹き飛ぶなんて。呼吸を止める事はもう叶いませんね。だとしてもこちらが優勢なのは変わらぬ事実」

 そうか。空気圧だ。空気の層を厚くして衝撃に耐えたんだ。

「アイリス、空気の層が邪魔してる!」

「あー!なるほど!だから効かないんだね!どうしたら良いの?」

「速さよん、アイリスちゃん」

 倒れていたキャンネルさんが起き上がり、話し始めた。

「いくら空気の層が厚かろうと、それを上回る速さで一点集中の攻撃をすれば貫通するはずよん」

「なるほどなるほど!そう言う事ならお任せあれ!」

 そう言うと炎が青くなる。そして形が変わり始め、刀のような姿となった。

「『陶芸』の炎。赤い炎は全てを燃やす。そして青い炎は全てになる。国の先生が教えてくれたんだ!」

「青い炎。そうでしたか。まさかあなたも古来種だとは。これは流石に、全力で行かせていただきます」

 アイリスは瞬時にシナナハの元にたどり着く。そして青い刀を思いっきり振りかざす。しかし最大量の空気圧がそれを阻む。刃は一向に届かない。しかし急にシナナハの背中から血が吹き出す。

「何と言う事でしょうか。これが古来種の力。やはり本物なのですね」

 そう言い残しシナナハは倒れた。そして倒れた先にいたのは、もう一人のアイリスだった。

「じゃじゃーん!『影武者』作戦大成功!」

「なるほどん。敢えて前方に防御を固めさせて、後ろに隙を作ったのねん。流石だわん、アイリスちゃん」

 アイリスはすぐに駆け寄り抱きついてきた。

「熱い熱い!炎消してアイリス」

「やー忘れてた!ごめんごめん!」

 こうして何とか危機を乗り切り、僕達はその奥へ進んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る