第14話 エリルを救え
ホテルに戻り、手に入れたカプセルを手に持ったまま、悩んでいた。
「誰が飲もうか」
「んー、私はなんかねちょーっとしてるからパスだわん」
「私もちょっと遠慮しておくわ」
「はいはーい!私は呪いを解いてもらうので飲めないよー!」
消去法的に僕だった。一応水道で洗い、水と共に飲み込んだ。新しく手にした《解錠の理》。早速アイリスに試してみる事にした。
「アイリス、準備は良い?」
「はいはーい!」
ベットに座るアイリスの痣に手を当てる。この子の呪いが全て消え去るように願いながら。するとアイリスの身体から煙が出てくる。そしてその煙と共に身体が徐々に大きくなってくる。本来の姿に戻って来ている。成功だ!僕くらいの背丈になり、身体はキャンネルさんばりに発達していく。着ていたワンピースはミニスカートのようになる。身体を動かし元に戻った事を確かめるアイリスは、いつものように抱きついて来た。
「ビン!戻ったよ!ありがとうー!!」
いつもと違う感触が当たる。いつものように平常心ではいられない。同じアイリスとは思えないほど綺麗な美少女に抱きつかれた僕にキャンネルさんが茶々をいれる。
「もうビンちゃんたら、私と言う人がいながらデレデレしちゃって、嫌になっちゃうわん」
「ビンは私のだもん!」
何だかこの姿で言われると普通に照れてしまう。
「ビンも、エリルも、もちろんキャンネルも。みんな私の家族だよ!」
エリルは徐に立ち上がり、アイリスの胸を触る。
「ありがとうアイリス。元に戻れて良かったわね。でもこんなに発育が良いなんて。歳下なのに、お姉さん嫉妬しちゃうわ」
「あらー、エリルちゃんだってそれなりじゃない。何ならビンちゃんに触ってもらって誰が一番か判断してもらっちゃおうかしらん」
「いや、僕はちょっとトイレに」
流石に気まずくなり、身を隠そうとする僕の腕をアイリスは引っ張った。そして頬にキスをする。
「ありがとうビン!また助けてもらったね!」
頬が赤くなる。口紅なんて付けてないよね。だったらなおさら恥ずかしい。
「良いんだよアイリス。これは僕達全員で手にした結果なんだ」
「ねぇ、力も元に戻っているか試してみない?」
「そうだねエリル、やってみる!久しぶりだからなー」
アイリスは目を閉じ深呼吸する。チリチリと音を立て、彼女の両手から火花が飛ぶ。次の瞬間に火は炎に変わり、部屋中に熱気が漂う。
「わー、出来た出来た!何か懐かしいなー!」
目の前で見るその光景は、エリルの風を初めて見た時の事を思い出させる。僕にとっての始まりの合図だ。
「ねぇアイリスちゃん。何かやって見せて欲しいわん」
興奮した様子のキャンネルさんはワクワクしながら切望していた。
「ではではー!ほいっ!」
左手の炎が青く変わる。さらに両手を合わせると紫色の炎に変わる。何とも綺麗な揺らめきは、炎というより風に吹かれた花の様だった。
「それぞれの色によって役割が違うんだー!まだ先があるんだよ、黒とかー」
アイリスが続きを話そうとすると、急に部屋の天井から雨が降って来た。スプリンクラーが起動したんだ。
「あははー!今日はこの辺という事で!」
結局みんなお風呂に入り、この日はもう寝る事にした。電気を消し、ベットに入る。すると隣のベットからアイリスが話しかけて来た。
「ありがとうビン。私ビン達に出会えて本当に良かったよ。元の姿に戻ったし、これで私もビンのお姉ちゃんかな?」
歳も一個上。見た目ももう立派な女性。でも僕の中では、アイリスは今でも妹的存在だ。
「ううん。アイリスはどちらかと言うと妹みたいだな」
「ちぇー。もっとビックリドキドキしてくれるかと思ったのにー」
「したよ。ビックリもしたし、ドキドキもした。でもそれ以上に、アイリスのままで安心したんだ。何かが変わる時は何かを失う時。でも記憶にはどちらも残ってる。昔も今も、アイリスはアイリスだよ」
「んー、良く分かんないや。じゃあ遅いから寝るね。おやすみー」
「うん、また明日」
僕は目を閉じた後も、しばらく寝付けなかった。頬がまだ暖かかったから。
翌朝早速イヤーに向かった。そしてイエロの街に入り、タイムスリップしたかの様な景色を見上げる。高い壁の先の、外の様子は一切見えない。でもたくさんの思いがある事を知っている。一人一人がそれぞれの人生を送り、互いが複雑に絡み合う。誰一人真似出来ないその人のオリジナルのシナリオを、まるで絵本のように記憶に刻んでいく。
「ビンー!早く早くー!もうみんな歩いてるよー!」
「うん、今行くよ」
元気よく呼ぶアイリスは、昨日までとは見た目こそ違うものの、間違いなくアイリスだった。もちろんエリルも、キャンネルさんも、そして僕も。
まずはお昼ご飯を兼ねて、作戦会議をした。これからの動きや、役割分担など。これからはホヤニス協会の本拠地を攻める。争いは避けられないだろう。とうとうこの時がやって来たんだ。
「と言うわけで、万が一戦闘になった場合、前線はアイリス。私が二人をサポートする形でアイリスと一緒に戦うわ」
「はいはーい!私は口無しの人と目無しの人をやっつけるー!」
「もちろん、そこに関しては外さないわ。準備が出来次第明日にでもカラーへ向かいましょう」
中心部カラー。壁に囲まれたイヤーのさらに中心。ブルとイエロ、そしてレドとグリンの真ん中に位置するその街は、僕達の今の目標到着地点だ。
「あのねん。一応私も最低限戦えるように、中心部に行く前にある程度の戦闘の記憶を買っておきたいわん」
「そうですね。あるに越した事はないですし。どうだろう。今日は下準備も兼ねて買い物をしない?二手に分かれてそれぞれの必要な物を揃えよう」
「はいはーい!私ビンと行くー!」
「あらやだん。私もビンちゃんと行きたいわん」
結局エリルとアイリスが戦闘用具係、僕とキャンネルさんがカプセルと食料係として行動する事になった。
「ビンちゃんが私を選んでくれて嬉しいわ。何なら今ここでする?」
「いや、ナニをする気ですか」
キャンネルさんのお色気攻撃をかわしながら、必要な物を揃える。イエロは常に活気に溢れ、まるで中世の繁華街に来ているような錯覚に陥る。あらかた買い物を済ませた頃、アイリスが走って来た。しかしいつものように抱きついては来ない。その代わり、焦りと不安と動揺を届けに来たのだ。
「どうしよう。エリルが拐われたの!」
「何があったか話して」
「街を歩いていたら、宿の裏から叫び声が聞こえたの。私見てくるって言って。それで駆けつけたら誰もいなくて、気付いたら真下に黒い穴があって。私が落ちる瞬間にエリルが助けてくれた。その代わりエリルが穴に落ちたの。そしたら穴が消えちゃって」
黒い穴。きっと口無しの時に見たあのワープのようなものだ。
「ホヤニス協会だ」
「どうしよう!私のせいでエリルが拐われちゃった!」
不安になる気持ちは分かる。でもエリルならきっと大丈夫と信じたい。すぐに《千里眼》を使った。そこには硬い拘束具に固定されたエリルが横たわっていた。どうやら眠らされているようだ。横には白装束と仮面を付けた人がいた。そして僕はゾッとする。その人が、僕の目線に向かって手を振った。気付かれた?そんなはずはない。だがそうとしか思えない。何なんだこいつは。
「マズイ。今すぐ中心部に向かおう。距離的に間違いなくカラーの何処かにいる」
僕達三人はエリルを救い出すため、すぐにカラーへ向かった。
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