第6話

 時刻は午後九時を少しすぎたところだった。テレビでは葛西達の心境など気にもしない様子で、しょうもないバラエティー番組が流れていた。


「こんな時間か――。かぁこ、帰るぞ」


 佳代子の親父さんが立ち上がる。今はニュースの続報を待つしかなく、こうして葛西の家に集まっている必要もない。そもそも、それぞれの家は近所なのだから、何か動きがあればすぐに集まることができる……そう判断したのであろう。


「うーん、事故のことが気になるしぃ――。たっちん、今日は泊まってっていい?」


 佳代子はしばらく考え込んだ後に、葛西へと問うてきた。事故のことが気になるのはもちろんのことだろうが、それよりもメールの件が引っかかっているのかもしれない。あれが一人でいる時に送られてきたらと考えると、少しばかり背筋が冷たくなる。だったら三人で一緒にいたほうがいい――。怖がりの佳代子らしい判断だった。


「あぁ、別に構わないよ」


 葛西は二つ返事で了解した。メールの件も気になるし、正直なところ葛西も一人になる気にはなれなかった。一人で続報を待ち続けるよりかは気がまぎれる。


「だったら、俺も泊まって行くかな。どうせ明日も休みだから」


 それに便乗する形で江崎も口を開く。もちろんウエルカムだ。小さい頃からお泊まり会をしょっちゅうやっていたものだから、全く抵抗はない。


「そうか――。たっちん、しょーやん。かぁこに変なことを……」


「しないよ」


「しねぇよ」


 一応、年頃の娘を持つ親として心配な時期なのであろう。佳代子の父親の言葉に、葛西と江崎の言葉が見事にハモる。


「江崎さん、それじゃあ我々はそろそろお暇しますかい? それぞれの仕事もあることだし」


 佳代子の父親は駄菓子屋の店主、江崎の親父さんは漁師、そして葛西の父はガソリンスタンド――。三人とも、ほぼ土日が関係ない仕事である。週休二日制の恩恵を受けている葛西達とは違い、事故のことが気になるからといって仕事を休むことはできない。それに午後九時といえばオヤジーズの就寝時間である。


「そうするか。それじゃあ葛西さん、うちの馬鹿息子をお願いな。悪さをしたら引っ叩いてやって構わんから」


 江崎の親父さんも立ち上がり、葛西の両親が二人を見送りに玄関のほうへと向かう。オヤジーズの解散により、葛西家も通常運転へと戻った。父親は簡単に食事を済ませて風呂に入り、さっさと自室に行ってしまった。母親もあらかたの片付けを終えると、風呂に行くと言ってリビングを出たまま戻ってこなかった。


 三人は大した会話もないまま、延々とチャンネルを変えながら事故の続報を待ち続けた。途中で、うつらうつらとしながらも、とにかくニュース番組を追い続けた。


 事故に遭った野球部の安否が判明し始めたのは、翌日の朝のニュースからだった。その後、日曜日のうちに全員の死亡が確認された。


 ――あれ以来メールは一切届かなかった。そう、月曜の朝になるまでは。

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