第36話 人間の少年、ロノ

 青い花園だった。

ネビュラと一緒にいた場所とは対照的な世界が広がっていた。

今はネビュラもガロットも一緒にいない。

隣にいるのは、ベルギオという大悪魔だった。

そして、もう一人人間の少年がいた。

「ねぇ、ベルギオ!その綺麗なお姉さんだぁれ!?」

 興味津々と言った様子で瞳を輝かせた少年が俺を『綺麗なお姉さん』と表現していた。

俺は男だ。

今はベルギオのせいで女装させられている。

あの闇のオークション会場の後に、そのままベルギオの屋敷に連れてこられていた。

(この状況もしかしなくてもまずいのでは?)

「オークションで見つけた貴様と同じ人間だ、ロノ」

 少年の名前はロノというらしい。

ベルギオが人間と一緒にいるとは驚きだった。

(俺以外にも人間がいるんだな)

「仲良くするんだぞ」

「うん!もちろんだよ!よろしくねお姉さん!」

「あ、ああ・・・よろしくね」

 一応合わせておいた方がよさそうかとわざと高めの声を作って答えれば、隣にいたベルギオが面白そうに笑っていた。

ロノだけは『お姉さん』だと思っているこの状況が楽しいのだろう。

ロノとベルギオがどういった関係なのか気になっていた。

「僕、お姉さんと遊びたいな~!一緒に遊ぼう?」

「え?ええと?」

 助けを求めるようにベルギオを見れば、見ているだけで何も言ってこなかった。

ロノに手を引かれるままに青い花園で遊びに付き合うことになってしまった。

その間もベルギオは俺とロノのお遊びを見て楽しそうにしていた。

(ロノ、早く気付くんだ。俺が男だという事実に)

 『お姉さん』と何度も呼ばれるたびに苦笑いが止まらなかった。

彼は無邪気な子供だった。

(悪魔と関わりのある人間?ロノが?)

 ネビュラが今頃どうしているかを想像したら、早く逃げる方法を考えなければと思った。

「ねぇ、お姉さん!お姉さんってば!」

 構ってくれなくなったことに不満を抱いたのかロノは俺の腕に抱き着いて駄々をこねてきた。

「あ、すま・・・ごめんね。ロノくん」

「僕、ベルギオのことが好きなんだ!あ!お姉さんも好きだよ!お姉さんはどう?好き?」

「え?あ、うん。ロノくんのこと好きだよ」

(普通の無邪気な人間って感じだな)

「じゃあ、ベルギオは?」

「ベルギ・・・ええと、ベルギオ様のことは・・・」

 呼び捨てにしたらまずいのでは?と慌てて様付けして言い直せばベルギオがいつの間にか隣にいた。

「ロノに教える必要はない。俺たちだけの秘密だ」

「えええ!!ベルギオのいじわるぅ!!もういいもん!!」

 ロノは不貞腐れてどこかにいってしまった。

「お、おい。いいのかあれ?」

「では、今答えてもらおうか。俺が好きかどうかについて。時間はたっぷりあるだろうな?」

 答えが一つしか用意されてない気がした。

ベルギオは絶対にこの状況を楽しんでいるだけだろう。

指輪に触れて、祈った。


―――早く、助けてくれ


と。

 



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